長野県小布施町で「日本でいちばん病院らしくない病院」をビジョンに掲げ、地域の高齢者医療を支える特定医療法人 新生病院。同院は2023年6月にLINE WORKSを全職員330人に1人1台のスマホとともに導入し、医師・看護師から委託スタッフまで誰ひとり残さず情報が届く環境を築いてきました。その根底にあるのは、患者さんを中心に多職種が協働する組織デザインです。常務理事の荒木 庸輔さんと法人看護局長の北村 千恵さんに詳しくお話を伺いました。
本事例のポイント
- 【トーク・グループ】入院プロセスを可視化し円滑な受入をモニタリング
- 【掲示板・全体トーク】全職員330人、誰ひとり取り残さない情報共有
- 【アンケート】研修の集計・未提出者管理の手間を実質ゼロに
- 【CXトーク】問い合わせ窓口の属人化と対応漏れを解消
「病院らしくない病院」というビジョンに込めた思いをお聞かせください。
荒木さん:
私たちが向き合う患者さんのほとんどは、在宅と病院を行き来しながら生活の延長線上で医療を受けています。多くのひとが加齢とともに膝や腰の痛み、高血圧や糖尿病といった完全には治らない複数の病気を患います。こうした患者さんに求められるのは、治療効果の最大化のために設計された「病院らしい病院」ではなく、生活の質をどう高めるかを中心に据えた医療です。
人口構造の変化に伴って、急性期機能は集約化が進みます。地域に根ざした私たちのような病院は、病気と共に生きる方々の生活を支える存在へとシフトしていかなければなりません。「日本でいちばん病院らしくない病院」というビジョンには、治療効果の最大化を目的としたこれまでの病院の当たり前を、医療ニーズの変化にあわせて、ひとつひとつ問いなおし、刷新していくという決意を込めました。

北村さん:
病院には、「病院だから」で許されてしまう場面が数多くあります。ベッドが寝室であり居間でもある空間で患者さんが多くの時間を過ごす非日常が、私たちにとっては当たり前の風景になってしまう。ひとつひとつ問いなおすことをやめると、そこから「病院らしさ」が生まれてしまうと感じています。

LINE WORKS選定の決め手を教えてください。
荒木さん:
決め手は、LINEと同じ操作感で職員のアレルギーが少ないことでした。看護師をはじめ職員のITリテラシーには幅があるため、この親しみやすさが、全職員を巻き込むうえで決定的に重要でした。独自思想が強いツールは使う人を選ぶため、現場への浸透が遅くなります。またLINE WORKSは、国内サーバーをはじめとする3省2ガイドラインの要件を満たしていたことも大きな理由でした。
私たちの組織図は、患者さんを中心に多職種がつながる形をしています。この組織のあり方を実現するためのインフラとして、全職員1人1台のスマホと1人1アカウントは絶対に外せない条件でした。医療従事者はもちろん、厨房の調理師や受付の委託スタッフまで、誰ひとり取り残さずにスマホを持ってもらう。そこまでやり切って初めて、LINE WORKSのポテンシャルが引き出せると感じていました。
現場ではどのように運用されているのでしょうか。
荒木さん:
LINE WORKS導入で最もインパクトのあったのが、入院プロセスの可視化です。入院依頼のグループには全管理職と全医師が入っており、地域連携先や外来から入院相談があると、患者さんのID、氏名、入院目的がグループ内で共有され、病棟マネージャーが応答します。入院プロセスの可視化によって、円滑に入院受入ができているかをモニタリングできるようになったのに加え、病棟間の相互理解にもつながっています。
入院依頼グループでは、地域連携先や外来からの入院相談を全管理職と全医師がリアルタイムに共有。病棟マネージャーが応答し、受入の可否や担当病棟がその場で決まっていく
もうひとつの象徴的な活用例が、病棟と担当医師の組み合わせでつくる「プロジェクト型グループ」です。病棟ごとに医師グループをつくり、その医師が受け持つ患者さんのケアにかかわる看護師、リハビリ職、薬剤師、栄養士などが情報を共有します。患者さんを媒介に多職種がつながる組織図の世界観そのものです。
病棟と担当医師ごとに編成される多職種グループ。患者さんごとのやり取りがここに集約され、プロジェクト型のチームコミュニケーションが生まれている
情報共有の使い分けや、掲示板・アンケートの活用について教えてください。
荒木さん:
全職員への情報発信は、2つのトークグループと掲示板で使い分けています。1つ目の「全体通達等」は、勤怠の締めやシステム保守点検などフォーマルな業務連絡を流すところ。2つ目の「全体トピックス」では、院内イベントや地域のお店の商品紹介、ボランティアさんによる活動告知など、院内の雰囲気づくりに寄与する情報を流します。掲示板は、理事長通達や規定の改定、マニュアルなどフォーマルな情報を「ストック」する場として活用しています。
「全体トピックス」には院内イベントや職員向けの啓発情報など、フロー型の話題が集まる。全職員が気軽に読める雰囲気づくりの場

院内設備のトラブル対応を依頼するグループも特徴的です。職員が緊急性・発生箇所・内容をフォーマットに沿って書き込むと、施設担当が速やかに対応し、完了報告を返します。ふだん日の当たりにくい職種の活躍が可視化され、感謝の言葉が自然に生まれ、職種を超えた相互理解にもつながっています。
北村さん:
アンケートは、研修の受講確認で非常に重宝しています。以前は紙の課題を配布・回収しており、部署マネージャーが取りまとめる負担が大きかったのです。今は委員会のメンバーが設問をつくり、職員が動画や資料を見て回答するだけで、そのまま受講記録として残ります。マネージャーに集中していた集計作業の手間がほぼゼロになりました。未提出者もリスト画面で一目で分かるのでフォローも入れやすく、教育のループまでつくれています。
TeamSTEPPS研修などの受講確認に使っているアンケート。設問画面と集計結果画面が自動で連動し、未提出者も一目で把握できる
導入後、現場やマネジメントにどのような変化が生まれましたか。
北村さん:
導入後、私がいちばん実感しているのは、「現場が見える」ようになったことです。物理的には離れていても、病棟や在宅での現場スタッフのやり取りや患者さんの状況が見えてきます。むしろ現場に足を運ぶよりも情報がタイムリーに入ってくるほどです。スタッフの力量や看護の傾向が見え、マネージャーとの課題共有や研修設計にもつながります。もう1つ大きいのは心理的安全性です。例えば以前は医師と1対1だと立場の違いで議論が進みにくい場面がありましたが、今は関係者全員が入ったグループの中で議論するやり方にしています。可視化されることで安心してコミュニケーションが取れるようになり、多職種が専門性を活かし対等に議論できる場が生まれました。
新生病院では「セル看護提供方式®」という、看護業務の無駄を省きケアの受け手の価値を最大化することを目的に、スタッフがステーションにいるのではなく、患者さんのそばで業務を行う方式を取り入れています。看護師の立ち位置が分散しているからこそ、タイムリーにコミュニケーションが図れるツールが必要です。DXというと患者さんから離れるイメージを持たれがちですが、実は患者さんのそばにい続けるために必要なものなのです。
荒木さん:
経営層と職員一人ひとりがLINE WORKS上で直接つながることで、方針や情報が中間階層で濁らず伝わるようになり、情報共有のスピードが格段に上がりました。LINE WORKSはこうした組織運営の効率化にも直結しています。
全職員にスマホを支給する原資はどのように確保したのでしょうか。
荒木さん:
管理職ポストの削減と病床稼働の改善で原資を確保しました。しかし、導入段階で緻密な計算があったわけではありません。一般論として、病院が全職員にスマホを持たせるのはコスト面でハードルが高く、「費用対効果が見えない」という話をよく耳にします。ただ、導入以前から費用対効果を厳格に求めすぎると、DXの歩みは一向に進みません。コスト削減の積み上げよりも大切なのは、経営者の世界観です。私には、実現したい患者体験や従業員体験があり、スマホとLINE WORKSによる新しい働き方が生産性向上と増収をもたらしてくれるという確信がありました。
だからこそ私たちは、やらないことの理由づくりに時間をかけずに、組織変革とDXの推進に突き進むことができたのだと思います。実際、DXを含む一連の取り組みにより病床稼働が伸び、年間約3,000万円の投資回収はもちろん、新たな投資のための原資も生んでいます。DXは、それ自体が成果を生む魔法のツールではなく、業務プロセスや意思決定のあり方、人材配置、組織文化といった組織改革を伴ってはじめて、本来の効果を発揮するのだと思います。
2025年6月に導入されたCXトークの活用状況についてもお聞かせください。
荒木さん:
CXトークは導入以来、待望の機能でした。当院では、人事・財務・IT・職員安全の4つの窓口を運用しています。ITの窓口では1日10件程度のトラブル問い合わせがあるのですが、以前は個別のトークで対応していたため、対応者が不在だと対応が止まったり、別の誰かと重複して返してしまったりといった属人化が起きていました。CXトークに切り替えたことで、複数人体制で対応状況を共有しながら対応漏れなく返せるようになりました。出産などプライベートにかかわる届け出も、人事担当者以外に見られずに完結できます。問い合わせの性質に応じて、相互理解のためにあえて可視化するトークと、非公開のCXトークを使い分けている点がポイントです。
CXトークの対応者画面。複数チャネルの対応状況が一覧で把握でき、担当者のステータス管理で対応漏れを防いでいる
最後に、今後の展望をお聞かせください。
荒木さん:
LINE WORKSのプライベートSNSという特性を活かして、地域での活用を広げていきたいです。ご家族やケアマネジャーなどの地域の連携先にフリープランのLINE WORKSアカウントを作成してもらい、外部トーク連携で在宅の患者さんのケアを地域の多職種で支える運用を検討しているところです。「地域のすべての人が当院の患者」という視点に立つと、院内の多職種連携と地域の多職種連携は地続きであり、LINE WORKSはその両方を支える共通インフラになります。
LINE WORKSの価値を引き出せたのは、「どういう組織でありたいか」「患者さんにどう向き合いたいか」という問いを経営として持ち続けてきたからだと感じています。同じ課題に向き合う病院の皆さんにとって1つの参考事例になれば嬉しいですし、これからもLINE WORKSを最大限に活用しながら、働くひとにとっても患者さんにとっても、よりよい環境を実現できたらと考えています。

【お話を伺った方々】
荒木 庸輔さん
常務理事 法人事務局長として、組織運営全般とDX戦略の立案・実行を統括。
北村 千恵さん
法人看護局長として法人全体の看護ケアを統括しつつ、訪問看護ステーションつぼみの所長として在宅医療の現場にも立つ。
※掲載している内容、所属やお役職は取材を実施した2026年4月当時のものです。





