千葉県千葉市の千葉大学医学部附属病院(以下、千葉大学病院)は、県主導の新型コロナウイルスワクチン優先接種の一環として、2021年3月から約2,500名の同院職員への接種を開始。その副反応の発生状況を把握するために、救急医療向けの情報共有システムSmart119と、以前から院内の情報伝達ツールとして利用しているLINE WORKSを活用しています。同院の安部准教授と千葉看護師長に、コロナウイルスワクチン接種後の健康調査や、幅広い病院業務、地域連携でLINE WORKSを用いることのメリットをお話しいただきました。
本事例のポイント
- 毎日実施する健康調査をBotで通知し、回答のしやすさが向上
- 調査の回答を速やかに収集して、その日の会議にて報告が可能に
- 千葉市の消防とつながり救急搬送に関する情報をスピーディに共有
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医療機関用災害システムの活用でワクチン接種後の経過観察を実施
国は2021年2月に、全国の医療従事者約4万名を対象とする新型コロナウイルスワクチンの先行接種を始めました。千葉県はそれに続き、県内の医療従事者への優先接種を開始。それに合わせて千葉大学病院はワクチンの接種と研究を推進する「コロナワクチンセンター」を開設し、3月から4月にかけて同院の職員約2,500名への接種を進めました。
「ワクチンによる副反応の発生状況を把握するため、2度の接種後それぞれ14日間にわたって、被接種者への健康調査による経過観察を行うことになりました。その際に直面したのが、健康調査をどう実施して結果を回収するかという課題です。対象者が2,500人ともなると、毎日紙の調査票を渡して記入してもらうわけにいきません。そこで検討したのが、医療機関用災害対策システムのSmart:DRを活用することでした」と、同院の災害予防対策室室長でもある安部准教授は説明します。
Smart:DRとは、千葉大学大学院医学研究院 救急集中治療医学の中田 孝明教授によって設立された株式会社Smart119が開発した、災害時における医療スタッフへの緊急連絡と参集状況を一元管理するBCP対策ソリューションです。主にスタッフの安否確認や参集人員の管理をするためのツールですが、オリジナルの調査フォームを作成し、回答URLを発行し、回答データを蓄積して分析・管理する機能も備えています。
「接種後の健康調査ではアナフィラキシーショック(アレルゲンなどが体内に入ることによって起きる過剰な反応)や発熱、注射した部位の痛みなど10項目ほどの副反応の有無を確認する必要があります。Smart:DRを使えば、これらの健康調査の配布と回収、さらには収集したデータの集計が自動でできるので、経過観察業務が大幅に効率化することが期待できました」(安部准教授)
健康調査の通知と回答をLINE WORKSでも行える仕組みを構築
当初、調査フォームはSmart:DRから各職員のスマートフォンなどの端末にメールで送信していましたが、院内でLINE WORKSを使っている職員たちから、「メールで届くよりもLINE WORKSに届いた方がスムーズに回答できそう」との声が上がりました。同院の救急科や災害対策室では、以前より情報伝達ツールとしてLINE WORKSを活用しています。コロナ禍となってからは、新型コロナウイルス感染対策やワクチンに関する情報をいち早く共有するため、その対応に携わるスタッフにもアカウントが配布されました。そうしたことから職員の一部はLINE WORKSの操作に習熟しており、簡便かつ迅速に情報を伝達できるツールであることを実感していたのです。
「そこでSmart119にSmart:DRとLINE WORKSのAPI連携を依頼し、LINE WORKSのアカウントを持つ約400名の職員には、メールだけではなくLINE WORKSにもBotで通知できるようにしました。LINE WORKS宛てに届いたURLをタップするとSmart:DRの調査画面が開き、即座に回答して送信できる仕組みです」(安部准教授)
「メールへの送信だと、ほかの多くのメールにあっという間に埋もれてしまい、見過ごしがちになります。また病院のメールは、セキュリティの兼ね合いで院内のネットワーク上でしか利用できないため、外出時や自宅では確認することができません。調査は1日2回、朝と夕方前に送られますが、休暇や院内を動き回っている職員は、すぐに回答することが難しい一面も想定できました。しかし、業務での利用に特化したLINE WORKSによる通知であれば埋もれるような心配がなく、手元のスマホで即座に確認ができるため、より回答率が高くなるのではないかと期待できました」と話すのは、感染制御部に所属する感染管理認定看護師で「コロナワクチンセンター」の運営にも携わる千葉看護師長。コロナワクチンセンターの関係者は、昨年からLINE WORKSの利用を開始しています。
「メールは院内外との連絡で使うため、宛先を間違えれば第三者に送信してしまう可能性がありますが、LINE WORKSは院内でしかつながっていません。万一誤送信したとしても同じ院内の職員に限られるので、より安全性が高いと思いました」と、セキュリティ面にも信頼を寄せたといいます。
調査の回答画面にアクセスし、質問に回答して送信
デジタルの力でスムーズな経過観察管理を実現
こうした取り組みが急ピッチで進められ、3月からSmart:DRとLINE WORKSの連携を活用してワクチン接種後の副反応を調査する取り組みが始まりました。日々届く大量の回答はSmart:DRに集約され、蓄積されたデータはさまざまな角度から分析・抽出することが可能です。アナフィラキシーショックの発生があればその情報は直ちに国に報告されますが、それ以外のデータは同院や関係機関によるワクチンの有効性・安全性についての学術研究に活用されることになります。
「職員への健康調査をアナログな手段で行うとしたら、約2,500人×14日×2回=約7万枚もの調査用紙をやり取りすることになります。それほどの枚数の用紙を配布・回収し、さらに回答を手作業でデータ入力するには、膨大な時間と労力を費やさなければなりません。Smart:DRやLINE WORKSを活用したからこそ、スムーズな経過観察をすることができているのだということを実感しています」(安部准教授)
また、千葉看護師長は「ワクチン接種後の全職員の健康状況が、リアルタイムに把握できる点にも大きな意義があります」と語ります。万一、重大な副反応が認められた場合に、速やかに検知し対応できる環境が得られたのも、経過観察をデジタル化したことの大きなメリットだと指摘します。
通常の院内業務でもグループトークを活用
同院ではワクチン接種後の経過観察以外の多くの業務でも、LINE WORKSによる情報共有を活発に行っています。
「新型コロナウイルスワクチンの在庫量は、薬剤部がスプレッドシートで毎日管理していますが、関係者全員が把握するためにグループトークでURLを共有しています。最新の数値を常に把握し、それを元にグループトークで常にコミュニケーションを取り合っています。また、院内は非常に広く、会おうとすると移動時間だけで5分以上はかかります。対面コミュニケーションを取りづらいこともあるので、LINE WORKSのアカウントを持つ職員どうしはちょっとした連絡にもトークを多用しています」(千葉看護師長)
ワクチンに関する情報を関係者間で速やかに共有
最近、院内で短時間の停電が発生した際には、院内の状況を速やかに把握・共有するのにもLINE WORKSが活躍。以前はそうした場合の情報伝達はPHSで行われていましたが、LINE WORKSを導入してからは情報を共有する速度が飛躍的に高まったと安部准教授は語ります。
院外では千葉市内にある26の消防とつながり緊密なやりとりを実現
「以前から救急医療情報サービスSmart119をBotで連携し、システムから発信される救急受入要請と医師の集合要請をLINE WORKSへ通知し、いち早く地域の救急情報と対応できる医師の状況の把握ができる仕組みは整っていました。
最近では、LINE WORKSのアカウントを持つ千葉市消防本部と市内26の救急隊が当院の救急科と外部トーク連携でつながり、当院の空床状況や搬送される救急患者様に関する情報などをセキュアかつスピーディに共有しています。地域内のいくつかの病院でもLINE WORKSを導入しているので、外部トーク連携を行い緊急時の連絡を密に取り合っています。」(安部准教授)
Smart:DR とLINE WORKSのさらなる連携を模索する
Smart:DRの基本機能は、災害発生時における医療スタッフへの緊急連絡と参集状況を管理することです。今回の取り組みでは機能の一部を使う形で、ワクチン接種後の職員の健康調査に用いられましたが、同院は今後、大災害発生時の職員の安否確認や、必要な人員の病院への参集にも活用することを視野に入れています。
「100人単位で職員を参集する業務を効率的に行うには、LINE WORKSとの連携が有効な部分もあるのではないかと思います。ワクチン接種後の経過観察の取り組みの成果を踏まえ、新たな連携についても検討したいと考えています」(安部准教授)
【お話を伺った方】
安部 隆三さん
重症患者の治療を行う集中治療部の管理者。災害予防対策室長を兼務。
千葉 均さん
感染制御部の看護師長。DMATや感染管理認定看護師として「災害対策室」や「コロナワクチンセンター」の運営にも携わる。
※掲載している内容、所属やお役職は取材を実施した2021年4月当時のものです。
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