大阪府門真市の医療法人正幸会 正幸会病院は、デジタル化を成長戦略に掲げ、院内システムのクラウド化を推進してきました。残る課題となっていた対面や電話中心の院内コミュニケーションを改善するためにLINE WORKSを導入。医師や職員の連絡業務の負担が軽減されただけでなく、情報共有がスピーディになり、業務効率化や医療サービスの品質向上など、さまざまな効果が生まれています。さらに、Botを活用して患者さんの入退院情報を即座に関係者に自動通知させる仕組みを構築し、医療DXを加速させています。
本事例のポイント
- 関係者にスピーディかつ正確に情報共有ができ、連絡業務の負担が軽減
- kintoneに入力した入退院の情報がBotで院内関係者に一斉共有する仕組みを構築
- コミュニケーション基盤を整備したことで「病院医師宿直免除」を取得し、医師の働き方改革
正幸会病院の概要をご紹介ください。
東 大里院長:
1983年に開院した当院は内科、消化器科、呼吸器内科、循環器内科、放射線科を擁し、地域医療連携室を設置して周辺の医療機関と密に連携しながら地域医療に貢献しています。2017年には、胃がんや大腸がんなどの早期発見に効果的な検査を行う内視鏡センターを院内にオープンしました。
医療の質と業務効率を高めるため、DXの推進にも力を入れています。きっかけは、10年ほど前に2名体制だった外来事務の職員が突然に同時退職したことです。当時の文書管理は紙ベースで行われており、他の職員が外来事務に必要な情報がどこにあるか把握するのに大変苦労をし、業務が属人化していることのリスクを痛感させられました。
その出来事を機にデジタル化を当院の成長戦略の柱に据え、電子カルテを導入するとともに、人事・労務・勤怠管理などあらゆるシステムをクラウド化。それにともなって紙文書も電子化されましたが、職員間のコミュニケーションについては依然として改善する余地が残っていました。
院内のコミュニケーションについてはどんな課題がありましたか。
東 大里院長:
以前の主な連絡手段は対面か電話で、急ぎではない用件でも相手の時間を奪ってしまうことが課題でした。また、電話は相手が出られなかった場合、重要な用件だとしても伝えることができません。情報の緊急度や重要性に応じて、的確な意思疎通ができるコミュニケーション環境を整える必要がありました。
東 忠里副院長:
医師は、絶えず看護師をはじめとする職員から患者さんに関する問い合わせを受けるため、常に電話対応に追われている状態でした。緊急時は電話で構いませんが、そうではない用件に関しては別の伝達手段があればと思っていました。
安田さん:
私が所属する事務部には、患者さんやそのご家族から多数の電話がかかってきます。しかし担当部署につなごうとしても通話中でつながらないことが多く、伝言メモを当該部署へ渡しに行くことに日々多くの時間を費やしていました。
東 大里院長:
こうした問題を解消するには、テキストで関係者に一斉共有できるコミュニケーションツールの活用が不可欠だと思い、ビジネスチャットを導入することを決めました。
数あるチャットツールの中から、なぜLINE WORKSを選定されたのでしょうか。また、院内での活用促進に向けてどのような取り組みをされましたか。
東 大里院長:
LINE WORKSは、多くの方が利用するLINEとほぼ同じ使い勝手なので、ICTツールが苦手な職員でも簡単に使いこなせることが期待されました。
導入当初、職員には、緊急度の高くない用件はトークで伝えるよう案内しただけで、その後は各部署がそれぞれの業務に合わせて自発的にさまざまな機能を工夫して使うようになりました。これは、使いやすい操作性であること以外にも、フォルダやカレンダーなど豊富な機能を備えているからだと思います。
利用するデバイスは、病院支給のスマホやPC、タブレットに加えて私物スマホ(BYOD)があります。ログイン時に2段階認証をかけるとともに、BYODのスマホではパスワードロックをかけるなど、情報セキュリティに十分な配慮をしています。また、運用ルールとしては、勤務時間外には通知をオフにしてよいこととしました。
LINE WORKSの導入によって職員間のコミュニケーションはどう変化しましたか。
東 大里院長:
対面や電話の多くがトークに置き換わり、相手の業務を中断させることなく、情報を確実に伝達できるようになりました。新型コロナの流行期には、私が患者さんの受け入れを判断すると同時に関係者がいるグループトークで指示を出すことで、スムーズに入院の準備を整えることができました。24時間交代制で働く職員もいるなか、関係者へ一斉に連絡を周知させることは、LINE WORKSを導入していなければ不可能だったはずです。
東 忠里副院長:
緊急の連絡は電話、そうでない場合はLINE WORKSでという使い分けがなされたことで、常に電話に追われる状況から解放されました。職員側も、忙しい医師に電話をかけることに抵抗を感じていたと思いますが、トークなら気兼ねなく問い合わせができるはずです。
安田さん:
患者さんやそのご家族からの電話の内容は、個々の担当者へトークですぐに伝えられるようになりました。伝言メモを渡しに行くムダな時間が削減でき、本来の業務にあてられる時間が増えています。
職員が患者さんのご家族などに外線電話をかけてつながらなかったときは、あとで折り返しの電話がかかってきます。その電話を院内の誰が受けてもスムーズに対応できるよう、電話の相手の名前と伝えたかった用件を、発信した職員が電話対応用のグループのタスクに登録するルールを決めて運用しています。折り返しの電話がかかってきた時は、タスクのリストを見れば、電話の内容がある程度分かるので円滑に対応できます。電話を発信した担当者にわざわざ代わることなく、タスクに登録された用件を伝えるだけで済むことも少なくありません。このことが連絡業務の効率化だけでなく、お問い合わせへの迅速な対応につながっていると思います。
電話対応用のグループのタスクで用件管理。対応が終わったタスクは完了にすることで、残りのタスクが明確に
他にLINE WORKSのどのような機能をよく使っていますか。
【フォルダ/ノート】部門ごとに業務データを共有・管理
【カレンダー】部門ごとや病院全体で把握すべき予定を一元管理
安田さん:
フォルダには業務に関する資料、ノートにはマニュアルというように、部門ごとのグループに情報を整理して共有することで、必要な時にすぐに参照できるようになりました。情報が属人化することなく、業務生産性が向上したと感じています。
グループカレンダーでは、患者さんのワクチン接種の予定日や外来の医師の出勤日などを共有しています。
業務改善プラットフォームkintoneで作成したアプリとLINE WORKSの連携も図っているそうですね。
東 大里院長:
患者さんの入退院に関する情報を管理するアプリをkintoneで構築し、緊急入院や緊急退院が発生した場合は、医師、看護師、薬剤部、事務部、外来看護師、放射線科、臨床検査技師など、その情報を共有すべきメンバーが所属するLINE WORKSのグループにBotで自動通知される仕組みをつくりました。
安田さん:
入退院情報を管理する地域連携室では、以前はkintoneにデータを入力してから、その情報を各部署に電話で伝えていました。担当者が不在だとすぐに伝えられず、関係者が多い場合は一部の部署に電話をかけ忘れてしまうというトラブルが懸念されました。
いまではkintoneに入力した入退院の情報が、LINE WORKSのBotを通して関係者に一斉共有されるので、部署ごとに伝える必要がなくなり全員に情報が行き渡るようになりました。夜間や休日にも通知が届きますが、自分に直接関係がないケースでも出勤前に緊急入退院情報に触れておくことで業務にスムーズに臨める場合もあるので、この機能はとても有意義です。部署間の情報連携も強化され、患者さんへの対応の迅速化にもつながっていると感じています。
ライブコミュニケーションプラットフォームのBuddycomもLINE WORKSと連携させていると伺いました。
東 大里院長:
院内の離れた場所にいる職員どうしが会話をするためのツールとして、Buddycomを利用しています。使用しているのは病院1階の外来の看護師と3階の内視鏡センターで、「患者さんが今から内視鏡センターに向かわれます」とか「検査を終えた患者さんが帰られます」といった情報を常時接続のインカムによる会話で行っています。
Buddycomには音声をテキストに変換する機能もあるのでLINE WORKSと連携させ、文字化したコミュニケーション内容をトークに記録するという試みもしています。音声のやり取りがテキストとして保存されれば、その内容を見た他の職員にとってはナレッジとして役立てられる可能性がありますし、「言った/言わない」といったトラブルの発生も防げます。
テキスト化された会話の内容がトークに自動保存。「言った/言わない」のトラブル防止に
そうしたDXの取り組みは、「医師の働き方改革」の面ではどのような成果に結びついていますか。
東 忠里副院長:
病院には医師を宿直させる義務がありますが、医師の働き方改革の一環として、入院患者の病状が急変した場合に速やかに対応できる体制が確保されている場合は、都道府県知事の許可によって宿直が免除されるようになりました。
システムのクラウド化やLINE WORKSをはじめとするコミュニケーションツールの導入を進めた当院は、院内の職員と院外の医師がリアルタイムに連絡し、患者さんの状態を写真やビデオ通話などで共有できる体制を整えたことから、大阪府で初となる「病院医師宿直免除」の認可を取得しました。
東 大里院長:
これまで宿直を余儀なくされていた医師が、必要に応じてすぐに病院に駆けつけられる場所で待機していればよくなったことは業務負担の軽減につながり、まさに医師の働き方改革実現に寄与していると思います。
LINE WORKS活用に関する今後の展望をお聞かせください。
東 大里院長:
デジタル化を成長戦略としてから、これまで診療情報管理、AI画像診断、総務・経理、コミュニケーションの各領域のDXに積極的に投資し、業務を効率化する多数のツールを導入してきました。なかでも、当院のデジタル化における3本柱が「電子カルテ」「業務改善アプリ」「コミュニケーションツール」で、コミュニケーションのデジタル化に欠かせない手段であるLINE WORKSをさらに有効活用することは、医療の質の向上と業務効率化、医師や職員の働き方改革をさらに推し進めることにつながるはずです。
【お話を伺った方】
東 大里さん
医師。2010年、正幸会病院院長に就任。日本内科学会 認定内科医、日本消化器病学会 消化器病専門医、日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医、日本消化管学会 胃腸科専門医、日本ヘリコバクター学会認定医、全日本病院学会DX検討委員。
2021年 全国中小企業クラウド実践大賞奨励賞受賞
2023年 病院広報アワードSNS部門優秀賞受賞
東 忠里さん
医師。外来・内視鏡センターを担当。日本内科学会 認定内科医、日本消化器病学会 消化器病専門医、日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医。
安田 真由美さん
入院事務部で入院手続きやレセプト(診療報酬明細書)の作成など、医療事務を幅広く担当する。
※掲載している内容、所属やお役職は取材を実施した2024年10月当時のものです。