大阪府四條畷市では、市職員の採用面接にLINE WORKSのビデオ通話を活用し、育児中や在職中、遠方の方など多様な生活背景を持つ受験者がどこにいても面接を受けられる機会を提供しました。その結果、受験者数が大幅に伸び、求人難に悩む全国の自治体から注目されています。市長の東さん、総務部の荒堀さん、東さんに、LINE WORKSを使った面接手法や、行政機関にとってのコミュニケーションツールの有用性についてお話しいただきました。
四條畷市の概要と皆さんの役割をご紹介ください。
東市長 :
四條畷市は大阪府北東部に位置し、18㎢の比較的狭い面積に約5万6,000人の市民がお住まいです。市域の3分の2ほどは生駒山地で、豊かな緑に恵まれながら大阪市の主要駅である京橋まで電車で15分ほどの立地にあるのが特長です。私は2017年1月に市長に就任して市政を司っています。
荒堀さん :
総務部 人事課で採用や給与業務などを担当しており、職員採用のウェブ面接実施に際しては、ツールの検討ならびにLINE WORKSの導入と運用に携わりました。
東さん :
私も同じく総務部 人事課で人事採用、給与、社会保険、健康管理などに関する業務に携わっており、ウェブ面接では面接官を担当しました。
東市長が就任してからの四條畷市は、行政サービスのIT化に力を入れておられますね。
東市長 :
道路の不具合をLINE@で市民のみなさんから通報いただくシステムや、市職員面接のオンライン化などが全国で初となっていますが、決して「IT化ありきで」ということではなく、「合理的にどちらがいいか」ということを考え、結果的にIT化が促進されたということになります。また、こうした新たな施策によって四條畷がよくなっていく、ということは前提なのですが、自分たちの市だけよくなればいいというものではないと思っています。四條畷がIT化・先進的な取り組みを行うことによって前例ができ、それによって他の自治体も取り入れやすくなる。そこからさらに日本全体が良くなっていく、という理念のもとで新しいことを積極的に取り入れています。
職員採用面接をLINE WORKSのビデオ通話で実施されるに至った経緯をお聞かせください。
東市長 :
有能な人材を確保するため、できるだけ多くの方に職員採用試験を受けていただきたいのですが、近年は行政も求人難に直面しています。平成29年度に副市長を公募した際、遠方の方がわざわざ来庁されることなく面接を受けられるよう、民間の転職サイトと協力してテレビ電話で行う試みをしたところ、大きな反響がありました。そこで、平成30年度の夏の事務職員採用試験では、対面とウェブによる面接を併用することにし、新たにウェブ面接のためのツールを導入することにしました。
荒堀さん :
複数のビジネス向けコミュニケーションツールを検討した結果、多くの人が使い慣れているLINEに似た操作性のため受験する方々にも使いやすく、高いセキュリティ性を備えたLINE WORKSが最適だと判断しました。LINE WORKSの用途はウェブ面接に限るので、継続利用ではなく期間限定のスポット利用をしたいという要望に応えていただき、運用コストを抑えられたことも導入理由の1つです。
LINE WORKSを活用したウェブ面接の仕組みや、セキュリティ担保のために講じた対策を教えてください。
荒堀さん :
ウェブ面接を希望された受験者に面接前にメールでLINE WORKSのアカウントを付与しました。LINE WORKSに登録するアカウント名を受験番号とすることで個人名などの情報が流出することを防ぎました。また、受験者同士がネットワークでつながらないよう、LINE WORKSの閲覧制限を利用して、アドレス帳などから他のアカウントを検索不可能にすることでセキュリティを確保しました。
面接時にはメールで送付した受験票や、運転免許証などを受験者からビデオ通話の画面に提示してもらうことで、問題なく本人確認を行うことができました。
東さん :
面接当日は市役所の一室にPCとカメラ、プロジェクターを用意し、私共のPCから受験者にビデオ通話をかけてウェブ面接を実施しました。事前にすべての受験者と通信テストを行っていたので、本番の面接では画像が見えづらい、通信が途切れるといった支障はまったく生じず、対面式と同様に面接することができました。
ウェブ面接を実施したことで、どんな効果が得られましたか。
東市長 :
平成29年度夏の事務職員採用試験の受験者が29名だったのに対し、ウェブ面接を採用した平成30年度夏の受験者は213名と7倍以上に増加し、効果の大きさを実感させられました。より受験しやすい環境を確保することができたと考えています。
荒堀さん :
遠方の方が数回の受験のために旅費と時間をかけるのは大きな負担になりますし、育児中や在職中の方が時間を割くのは容易ではありません。過去には、お子様が急に発熱したために面接を辞退されたケースもありました。面接後に皆さんへ聞き取りをした結果、ウェブ面接がなければ受験を断念されたと感想を述べられた方がかなりおられたことがわかりました。
東さん :
面接を受けられた場所は、自宅が多かったものの、車の中や公園、学校などでビデオ通話をされた方もおられ、非常に多様な生活背景を持つ方が受験されていることがうかがえました。受験者数が大幅に伸びたのは、場所に制限されることなく面接を受けられる機会を提供した成果だと思います。
採用面接におけるLINE WORKSの活用を、今後どのように進展させていくお考えですか。
荒堀さん :
平成30年度冬に行った職員採用試験では事務職だけではなく専門職でもウェブ面接を行い、多くの方に受験していただいたので、今後もウェブ面接を継続して実施していくつもりです。市ではホームページなどで「日本一受験しやすい自治体」を標榜していますが、今後もウェブ面接の利便性を広く伝えることで、さらに多くの方に受験していただきたいと思います。
求人難は行政機関全体に共通する悩みで、私どもの取り組みに関心を抱いた各地の自治体から視察や講演依頼が寄せられています。ウェブ面接はどの自治体でも実施可能ですが、都市部から離れた地方自治体にとっては特に有効な施策となるのではないでしょうか。遠方から当市までいらっしゃるのは大変なので、今後はウェブ面接の手法をそのまま生かして、オンラインで視察していただける環境を整備することも検討しています。
東さん :
ウェブ面接の実施時間は市が指定しましたが、「場所」だけではなく「時間」の縛りもなくすため、今後は面接を行う時間についても、受験者のニーズに柔軟に対応していければと考えています。
LINE WORKSをはじめとする先進的な取り組みは、四條畷市にとってどういった業務に役立っていくと思われますか。
東市長 :
機密情報を扱う行政の業務には、一般のインターネットと分離された独自のネットワークが利用されていますが、今後、通信インフラが整備されて一般のインターネットとの安全な接続が可能になれば、職員間でもLINE WORKSのようなチャットツールが活用できるのではないかと思います。私は市外へ出張をする機会も多いので、出先で書類の決裁などができるようになれば、業務が大幅に効率化するはずです。市職員の役割の本質は、既存の対処法が存在しない課題に対して市民と向き合い、想像力やクリエイティビティを発揮しながら解決に導くことです。市民としっかり対話する時間を確保するために、日々の業務を効率化するのが公務員にとっての「働き方改革」であり、その結果として残業時間削減やテレワークの推進なども進めばよいと思います。そのためにITツールが効果的なのであれば、今後も積極的に利用を進めていくつもりです。
※掲載している内容、所属やお役職は取材を実施した2019年1月のものです。