千葉県千葉市にある千葉大学病院様は、千葉市の救急医療体制の中で三次救急医療機関に位置付けられ、救命処置や緊急手術を必要とする重症救急患者の診療・治療を行っています。救急医療の現場での情報伝達にLINE WORKSを活用していらっしゃる救急科・集中治療部の織田教授と中田医師、さらに同病院独自の医師集合要請システムにLINE WORKSのチャットBotを組み込む開発をされた株式会社セレージャテクノロジーの山尾代表にもお話を伺いました。
千葉大学病院救急科・集中治療部について教えてください。
千葉大学病院 中田医師 :
千葉大学病院救急科は、千葉県の災害拠点病院としての役割を担っており、千葉市内における救急患者さんや重症患者さん、そして他院からの患者さんも受け入れ、治療を行っております。また、院内で発生する重症患者さんに対する院内急変対応も行っており、「MET(Medical Emergency Team)」と呼ばれる専門のチームが駆けつけるようになっています。
LINE WORKS導入前の情報共有の方法について教えてください。
また、その方法で課題や問題となっていたのはどのようなことでしょうか。
千葉大学病院 中田医師 :
一度にたくさんの患者さんが来るときや、非常に重症な患者さんが運ばれて来るときなど、特に夜間や休日は人手が少ないので、どうしても医師をはじめとする医療スタッフを呼び出さなければならないことがあります。勤務時間外でも呼び出しに備えて待機する当番制を敷いていましたが、対応しきれないこともあり、その場合には以前は電話で連絡していました。
しかし、忙しい現場でひとりずつ電話をかけていると時間も手間もかかるため、問題解決は容易ではありませんでした。そのため、次の段階として、全員に一斉メールを送信することにしました。そうすると「行ける」「行けない」などを各自返信してくれるのですが、まとまったデータが来るわけではないので一覧で見ることができず、結局現場は混乱したまま。誰も全体像が確認できないことが課題でした。
それを何とか解決しようと、株式会社セレージャテクノロジーさんに「医師集合要請システム」の開発を依頼したのです。当初は、各医師の携帯電話やスマートフォンに「こういう事案が発生して医師が足りないので集合してください」とシステムから一斉にメールを送信し、「すぐ行ける」、「何分以内に行ける」、「行けない」の返事をそれぞれのシステムに登録するという仕様でした。
医師集合要請システムを立ち上げた結果、医療スタッフの呼び出しを行い、誰が来られるかを把握することはできるようになりました。ですが、呼び出した後に、現在の状況はどうなのか、もっと人が必要なのか、もう十分足りているのかなど、次に取るべきアクションをすぐに把握できないという点が、次の課題となっていました。
LINE WORKSを導入することになった経緯や背景をお聞かせください。
千葉大学病院 中田医師 :
医師集合要請システムからの呼び出しとその後のやり取りを、チャット形式でやり取りできるようなものがあれば良いのでは、と考えたのが一番のきっかけです。呼び出した後の現場の情報を全員に共有するために、LINE WORKSを使おうということになりました。
株式会社セレージャテクノロジー 山尾代表 :
医師集合要請システムは好評でしたが、メールに気付かないとか、プライベートのメールと混在して紛らわしいなど、いろいろなご要望をいただきました。そこで、メールではなくLINE WORKSを使うことはできないかと考えたのです。従来メールで送っていた呼び出しのメッセージを、システムからLINE WORKSのBot APIを通じてトークに送り、呼び出し後のやり取りもトークで行うという仕組みを提案しました。
LINE WORKSを選定された決め手を教えてください。
千葉大学病院 中田医師 :
ある時、非常にご高名な先生がLINEを使って若い医師とやり取りされているのを偶然お見かけしました。特定の治療方法に関する相談を受け、それに対してコメントを返していらっしゃったのです。医療の現場では、こうしてチャット形式でアドバイスを求めたりアドバイスしたりということが日常的に行われているのだな、と思いました。地位や立場にかかわらずLINEはみんな使い慣れているので、LINE WORKSならスムーズに移行できると思ったのが一番の理由ですね。そして、医師集合要請システムと統合することが技術的に可能で、セキュリティがきちんと担保されている。この点が決め手になりました。
実際に使ってみて、印象はいかがでしたか。
千葉大学病院 中田医師 :
ちょうど先日、幕張メッセのコンサート会場で多くの傷病者が発生した際に、千葉市消防局から出動依頼があり、医師集合要請システムが発動しました。LINE WORKSのBot API経由で要請のメッセージが送信されると、1分くらいで皆から応答があり、すぐに出動するメンバーが病院に集合できました。僕も出動したのですが、救急車で現地に向かう間も、無線で入ってくる千葉市消防局からの情報をLINE WORKSで共有していました。現場到着後,メンバーは、写真なども含め必要な現地の情報をリアルタイムに現場外のメンバーと共有しました。刻々と変わる状況を細かく共有することで、その場にいないメンバーや在宅のスタッフも状況を把握し、どんな対応を求められているのか、行く必要があるかを判断できるようになりました。
千葉大学病院 織田教授 :
画期的だと思います。これまでは1対1の“伝言ゲーム”でしか伝わらなかったことが、一斉に全員に通報でき、情報共有できるようになったという点が素晴らしいと思います。
先日、幕張メッセのコンサート会場で具合の悪くなった方が50人ぐらい出たことがありました。私は学会で地方に出張中でしたが、千葉市消防局からCOMET(コメット/Chiba Outreach Medical Emergency Teamの略。緊急医療チーム)にコール(呼び出し)がかかったのです。今までは電話がかかってきて、状況を聞いてからCOMETを出動させるかどうか判断していたので、現状把握や判断に時間がかかっていました。それが、今回はLINE WORKSで情報がチャットで飛んできて、状況が刻々と共有されていく。これは大変なことだから出動してください、と応え、すぐに出動することができました。世界中どこにいても指示を出すことが可能になったうえ、現場と病院内のやり取りをLINE WORKSでずっと見ていたので、すべての様子が手に取るように分かり、非常に感心しました。
院内での急変対応についても同様です。今日も院内で2件のMETコールがあり、2件とも自分の部屋で仕事をしていたのでICUにはいなかったのですが、LINE WORKSでコールを確認し、すぐさま現場に行くことができました。本当に画期的なツールだと思いますし、感謝しています。
LINE WORKS導入によって、どのような効果がありましたか。
千葉大学病院 中田医師 :
サポートがしやすくなり、スタッフの数は変わらなくても、より多くの重症患者さんを受け入れながらパフォーマンスを保てるようになったのではないかと思います。
METコールは急変した患者さんのところに駆け付けるスタッフを呼び出すシステムですが、LINE WORKSでMETが出動した後も、患者さんの状況と、「このあとICUで治療が必要なのでICUは受け入れ準備をしてほしい」「やや元気だからこの場でMETの活動を終了できます」などと情報を入れます。病院と救急現場、救急車と病院、METが出動した現場とICUは情報共有が非常に大事。LINE WORKSは一度で全員に情報共有でき、必要があればすぐに応援に行き、受け入れる側も先に準備ができるので、より早く、質の高い医療を提供することができるだろうと思っています。
LINE WORKSの今後の活用についてお聞かせください。
千葉大学病院 中田医師 :
私共は,国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業で「早く正しい救急医療実現のためのスマートな患者情報収集・処理・共有システムの研究開発(Smart119プロジェクト)」に取り組んでおります。LINE WORKSを救急医療現場に導入して得られた経験も活かし、画期的なシステム開発し,より早く正しい救急医療を実現していきたいと思っております。
株式会社セレージャテクノロジー 山尾代表 :
CTやレントゲンの画像をLINE WORKS上で共有できないか、というご相談を受けていて、そのあたりをどう実現しようかと、技術者と検討しているところです。
また、基本的なしくみは一緒ですが、震度5強以上の地震が起きたとき、大きな病院であれば全職員を呼び出す必要がありますので、その際にもLINE WORKSやLINEで呼び出しをかけられるようなシステムにチャレンジしたいですね。
医療の分野は、世の中にあるITの技術がまだ入りきっておらず、チャットツールも含めて、コミュニケーションにまだまだ不便なところがあります。今後も、医療の現場がよりよくなるようなシステムやソリューションを提案していきたいと思っています。
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