埼玉県加須市で米、麦、大豆などを大規模に生産する中森農産株式会社は、市内数カ所に点在する圃場で作業をする従業員どうしのコミュニケーションをスムーズにするため、LINE WORKSを導入。トークやビデオ通話などで密な「報・連・相」を行い、重要な情報を全従業員が瞬時に共有できる環境を整えました。また、多様なシステムや機能にリンクするメニューボタンを作成し、LINE WORKSを情報活用のプラットフォームとして利用することでも業務生産性を向上させています。
本事例のポイント
- 離れた圃場(ほじょう)ではたらく従業員の安全で適切な農作業をサポート
- 農作業に必要なナレッジを蓄積・共有し、評価・改善・成長という好循環を生み出す
- 多様な他システムのプラットフォームとして活用
- Amazonビジネス連携の活用で購買業務を効率化
御社の事業概要をご紹介ください。
中森さん :
私は非農家の出身ですが、少子高齢化で担い手が減りつつある日本の農業に危機感を抱き、2016年に個人事業として稲作を始め、翌年農業法人を立ち上げました。現在、埼玉県加須市で合計約200haの農地を利用し、業務用米、麦、大豆などの穀類を栽培しています。適正な生産管理を行っていることを証明するGAP(Good Agricultural Practice)認証や、有機農産物を生産していることを示す有機JAS認証を取得しており、主に食品メーカーに販売するB to Bビジネスを展開しています。
LINE WORKSを導入する以前は、どんな課題を抱えていましたか。
中森さん :
当社が利用する圃場(ほじょう。農作物を栽培するための場所のこと)は加須市内に点在しています。社員とアルバイトスタッフを合わせて10名の従業員は、朝礼後にそれぞれ担当する現場へ出向いて作業をします。そのため、離れた場所にいる従業員どうしがスムーズに連絡を取り合うことが困難でした。
佐藤さん :
そこで個人LINEで業務連絡をし合い、毎日の業務日報もグループに投稿して全員で共有するようになったのですが、重要な連絡事項がプライベートの友だちとのやり取りの中に埋もれがちになるのが難点でした。また、ひとつのグループにさまざまな話題が混在し、話題ごとにグループをスレッドのように立てられないのが不便だったこともあり、業務専用のチャットツールの導入を検討するようになりました。
課題解決の手段としてLINE WORKSを選択された理由をお聞かせください。
中森さん :
複数のツールを比較し、LINE WORKSの親しみやすさと操作性の高さに魅力を感じました。従業員は日常的にLINEを使いこなしており、そのLINEとUIが共通するLINE WORKSなら、すぐに定着するだろうと思いました。
また当社では、さまざまなSaaS系サービスを利用して業務を管理しています。例えば、GAPの枠組みに準じた安全点検項目をGoogleフォームで作成し、Googleサイトにアップして作業時の励行を徹底したり、圃場での作業の進捗管理については農機メーカーがリリースしている圃場管理システムを利用しています。現場にいる従業員がそれらのサービスに素早くアクセスするためのプラットフォームとして、LINE WORKSが機能するのではないかとの期待もありました。
佐藤さん :
まずはフリープランを導入し、個人LINEでしていたことをLINE WORKSに置き換えてみたところ、操作に戸惑う従業員もなくすんなり移行できたので、全員にアカウントを発行して本格的な運用を開始しました。
LINE WORKSを運用するようになって、業務環境はどのように変化しましたか。
【グループ】話題ごとのグループで効率的な業務連絡とナレッジの蓄積に活用
【タスク】直ぐに対応できない作業を記録し溜めておける
【ビデオ通話】農機の不具合などを映像や音で正確に報告
【カレンダー】休暇予定や資材の入荷予定等を可視化し、全員で共有
【管理者機能】LINE WORKSから他システムへのアクセスができるように
佐藤さん :
プライベートと仕事用の連絡ツールが切り分けられ、話題ごとのグループ作れるようになったことで、業務に関する大切な連絡が見過ごされることがなくなりました。従業員は朝礼が終わるとそれぞれの圃場に散りますが、「業務連絡」「日報」「雑談」「安全管理」「5S」「在庫管理」など、話題別に設けたグループで緻密に情報をやり取りすることで、報・連・相が以前より確実に行われるようになりました。
離れた場所にいる従業員どうしがスピーディに情報をやり取り
中森さん :
カテゴリーごとに分けられたグループに蓄積される情報は、全従業員のナレッジとして活用できます。蓄積されるデータ量が増えれば増えるほど、重要な知見が可視化されるようになるはずです。「日報」をデジタル化したのもそのためで、LINE WORKSに共有することで検索性が生まれ、誰がいつ何をしたかを瞬時に振り返ることができます。
佐藤さん :
紙の書類は現場に持っていくと汚れてしまうので、農機の操作説明書などはPDFにしてノート機能に保存し、いつでも確認できるようにしています。また、業務全般に関するFAQは掲示板にアップ。従業員が圃場で、くぼみなどの修繕すべき箇所などを見つけた場合、農繁期には手が回らないので、報告を受けた私がLINE WORKSのタスク機能に保存して溜めておき、農閑期にまとめて作業をするようにしています。このように、情報の種類によって保存先を分類するように工夫しています。
また、カレンダーには従業員の休日や肥料の入荷日などを登録しています。LINE WORKSの導入前はスケジューラを使っていなかったので、全従業員が日程を共有できるのを便利に感じています。
森川さん :
新卒で入社したばかりの私にはわからないことがたくさんありますが、一人で作業をしていて疑問にぶつかったとき、「業務連絡」のグループに投稿すればすぐに先輩の誰かが答えやアドバイスを返してくれます。機械の異音のように言葉で説明するのが難しい場合は写真や動画を添付すれば伝わりますし、ビデオ通話で画面を共有しながら相談することもできます。
毎日の作業の進捗状況や収穫量のデータは圃場管理システムやGoogleフォームに入力することで管理されるなど、農産物の生産工程がIT化されていることも私には驚きでした。それらのシステムにアクセスするボタンがLINE WORKSのメニュー画面に配置され、LINE WORKSさえ開けば、別のシステムにすぐにアクセスできるのも便利だと思います。
佐藤さん :
農作業の現場にはPCを携行しづらいので、さまざまな機能をスマホ1台に集約させることが重要ですが、その都度アプリを開くのは煩雑です。そこでよく使うサービスへリンクするボタンをその他のメニュー内に配置し集約することで、LINE WORKSを多様なツールのプラットフォームとして利用できるようにしました。
御社では従業員の皆さんの安全管理にも力を入れているそうですね。
佐藤さん :
農作業の現場では、怪我などにつながる事故が起こりやすいものです。社員の注意喚起と安否確認のため、毎日定時に「休憩を取りましょう」といったメッセージを送る作業をBotにやってもらおうと考え、LINE WORKSのAPIで「時報Bot」を作り、全従業員に定時連絡を自動送信しています。既読がつくことが安否確認にもなりますので、重宝しています。
また、トラクターなどの点検のチェック項目もGoogleフォームで作成し、乗車前の安全点検を確実に行うようにしています。従業員が素早くアクセスできるよう、「乗車前点検」のボタンもつくってメニュー画面に配しました。
森川さん :
最近、これらの安全対策の取り組みが農機メーカー主催のオンラインセミナーで紹介され、「農業を安全な産業にしたい」という当社の考え方が、SNS上で多くの農業関係者の反響を呼ぶことにつながりました。
アプリディレクトリのAmazonビジネス連携を使い購買業務に役立てているそうですね。
佐藤さん :
法人向けの購買専門サイトAmazonビジネスとLINE WORKSの連携機能を利用して、購買業務も省力化しました。以前は農業用機械のパーツや事務所で使う日用雑貨などは、各従業員が買い出ししていましたが、それでは手間がかかり立て替え金の精算も面倒です。今は全従業員に購買権限が与えられ、LINE WORKSから直接Amazonビジネスで必要なものを手早く注文することができます。購買時には承認者を選択でき、承認者のLINE WORKSに承認依頼の通知が届くので、承認が一人に集中する負担や、間違った買い物の防止にもなりました。
皆さんが特に実感されている、LINE WORKSがもたらした効果は何ですか。
佐藤さん :
トークやノートなどに可視化された情報が日々蓄積されるようになり、未経験の人が農業のノウハウをスピーディに身につけるためのナレッジとして活用できるようになりました。一般に非農家出身者の新規就農は難しいと言われますが、ITを活用して環境を整えればそのハードルを下げられると確信しています。
森川さん :
天候などに左右されやすい農業は、労働基準法で定められた労働時間等の規定の適用外ですが、当社の従業員はしっかり休日を取ることができています。その背景には、LINE WORKSをはじめとするITツールの活用による業務効率化があると思います。
中森さん :
さまざまな作業の記録をデジタル化して蓄積することで、評価・改善・成長という好循環を生み出すことができます。私はLINE WORKSを単なるコミュニケーションの手段だけではなく、そうした好循環をもたらすためのツールとして捉えています。
LINE WORKSの活用を、今後どのように発展させたいとお考えですか。
佐藤さん :
圃場に置いている農機は盗難されやすいので、センサーを取り付けて業務時間外に稼働したり移動したりすると、LINE WORKSに自動通知されるといった仕組みを構築できればと考えています。
中森さん :
さらなるプラットフォーム化が進んで、例えば農薬や肥料の在庫管理など、農場管理全体がLINE WORKSだけで完結するようになれば、いっそう生産性が向上すると思います。その先に想定しているのは、LINE WORKSに蓄積したデータをよりよい農業経営に活かすことです。そのことを通じて、日本の農業全体の生産性を高めることが私の目標です。
【お話を伺った方】
中森 剛志さん
「日本の農業を救いたい」との思いから就農し、農業法人を設立。ITの活用による効率化を推進し、農業を成長産業に導こうとしている。
佐藤 康平さん
大学農学部を卒業後、SEとして働いた経験を活かし、農作業と社内管理業務を兼務。業務効率に向けたITツールの導入・運用にも携わる。
森川 あみさん
大学農学部を卒業し、2021年に新卒入社。圃場で農作業に従事している。
※掲載している内容、所属やお役職は取材を実施した2022年2月当時のものです。