日本で初となる公営地下鉄の民営化で誕生した大阪市高速電気軌道株式会社(Osaka Metro)。同社は乗客の安全と利便性を向上させるため、さまざまな施策を行っています。なかでもICTを積極的に採用した例が、運転士、車掌などの全乗務員へ行ったiPadの配布です。このiPadでは、連絡事項の通達、乗務員どうしの情報共有、さらに始業点呼や運行情報の通知、eラーニング、ヒヤリハットの管理、アルコールチェックの管理といったさまざまな日々の業務に利用されています。
Osaka Metroが実現した、乗務員の業務効率化を支えたツールの導入経緯や活用について、iPadの導入を担当した同社運転課の小林氏、矢田氏、iPadを活用している現場を代表して佐藤氏と運転士の藤田氏に話を伺いました。
業務時間の多くを列車の乗務に費やす乗務員の働き方を、もっと良くするために
Osaka MetroがiPadを導入したのは、乗務員の業務を効率化、簡便化するためにタブレットを検討したのがきっかけでした。以前のOsaka Metroの乗務員は軌道運転規則等に基づいた運転取扱心得集、列車の取り扱いマニュアルなど、多数のファイルが入った乗務員用カバンを携行して業務を行っており、この負担を軽減しようとしました。
乗務所に居なくても乗務員が業務を行えるよう、iPadにはさまざまなソリューションを導入することを計画。アプリケーション開発ツールとしてFileMakerを利用し「アカウント管理」「運行情報の通知」「始業点呼管理」を開発したそうです。
さらに、これまで口頭や電話でしか連絡が取り合えなかった乗務員どうしの業務連絡を効率化し、FileMakerで開発されたソリューションをより効率的に活用するために採用されたのが「LINE WORKS」でした。
数あるビジネスチャットの中から、LINE WORKSを採用。
「もともとタブレット導入と同時に、乗務員どうしの情報共有ツールを模索していたという背景はありました。とはいえ当社の乗務員は、今まで業務でタブレット端末を使ったことがありませんので、なるべく戸惑いなく使ってもらいたいと思いました。SlackやGoogle Hangoutsも検討しましたが、20代から50代まで、ほとんどの乗務員がスマートフォンを所持しており、LINEの日常的な利用者も多数います。そんなLINEと似たインターフェースを備えているLINE WORKSは、どの世代の乗務員でも抵抗なく利用できると考えたのです」(小林氏)。
「LINE WORKSは頻繁にアップデートが行われていますので、不具合の改善や欲しかった機能も開発以後に実現され、非常に助かりました。またメンテナンスの問い合わせにも瞬時にご対応いただき、助けられたことも多々あります。」(矢田氏)
さらに、同社は、LINE WORKS Bot APIが公開されていることから、FileMakerで開発された「運行情報の通知」をLINE WORKSから乗務員へ通達できることも選定理由としています。
多くの乗客に影響がある運行情報を、1秒でも早く乗務員へ届ける
「運行情報の通知」は、LINE WORKSの最も重要な役割として活用されています。これは、列車の運行を管理する輸送指令所が、運転士・車掌へ通知する運行情報を管理するためのシステムであり、遅延、振替輸送などの重要な情報が状況に応じて通知されています。
現在のシステムが導入される以前は、輸送指令所からの無線のほか、メール配信で運行情報を受けた乗務所幹部社員が、口頭や掲示により伝達していました。しかし、このシステムでは、タイムラグを避けることができなかったそうです。
「始めはiPad導入を機にEメールで通知を行うことを考えていたのですが、1,000ユーザーを超える乗務員すべてに通知を行うと、最長で2~3分ほどのタイムラグが発生していました。これでは運行情報に求められる速達性が確保できません」(小林氏)
そこでEメールシステムの代替として白羽の矢が立ったのが、LINE WORKSでした。「LINE WORKS Bot API」を連携させることで、乗務員それぞれのLINE WORKSに瞬時に運行情報を送ることが可能となりました。具体的には、輸送指令所がメールアカウントに1通のEメールを送ると、APIによってFileMakerへ、情報を受けたFileMakerからAPIによってLINE WORKSへ自動通知される仕組みです。この「運行情報の通知」は24時間365日、10秒間隔で動作しており、確実なリトライ、複数の死活監視、エラー時の複数通知を同時に行っています。
管理者の負担が大きく軽減。
LINE WORKSのユーザー管理はボタンひとつでデータベースから自動反映
FileMakerで開発したソリューションのひとつである「アカウント管理」は、全乗務員のアカウント情報(社員名、所属部署、パスワード、ツールの利用権限など)を管理する基本的なデータベースであり、同社のすべてのソリューションで利用されます。従来は毎日Excelで作成した紙ベースの「始終業報告確認簿」を利用していましたが、これをデータベース化し一括管理することを目的としています。
異動により所属している乗務所が変わった際にも、LINE WORKSが滞りなく利用できなくてはなりません。「アカウント管理」をLINE WORKSのユーザー情報とAPIで連携させれば、乗務員の変更情報は、データベースを更新しボタンひとつで自動反映させることができます。管理者の作業負担の削減や人的ミスを未然に防ぐことにつながります。
アンケートの利用が、運用を定着。目的に応じて機能を使い分けるほど活用が広がる
乗務員の間でLINE WORKSの活用が広まった要因は、アンケートだったそうです。個人で様々なフォーマットのアンケートを簡単に作れるうえ、乗務員の意見を瞬時に集約、データ化できることから、急速にLINE WORKSの活用が広まりました。
また現在では、LINE WORKSのホーム(掲示板)が乗務員どうしのやり取りで頻繁に利用されています。チャットの場合、タイムラインで徐々に情報が繰り上がってしまい、探すのが難しくなりますが、ホームの場合、書き込んだ情報なら後からでも閲覧できる”スレッド”として掲載され、コメントをつけることも可能。また、投稿者は、誰が既読で、誰が未読なのかがわかるため、情報の伝達が確実になったそうです。
トンネルでも途切れることなく正確に伝わる – LINE WORKSを利用する乗務員の声
LINE WORKSはOsaka Metroの乗務員の業務を大きく変革させました。その変化は、実際に利用している加賀屋乗務所 主任助役の佐藤氏、運転士の藤田氏から見ても非常に大きいそうです。
「LINE WORKSによって大きく変わったのは、これまで所内に掲示されていたさまざまな情報をiPadから確認できるようになったことです。以前はこれらの情報を自分でメモする必要がありましたが、現在はいつでもLINE WORKSから確認できます。また乗務員に対するお知らせの配布やアンケートがやりやすくなったと感じました」(佐藤氏)
LINE WORKSの使い方を覚えるまでは、不安を感じた乗務員もいたそうですが、今ではほとんど問題なく日常的な確認を行えるようになりました。
「私はもともとLINEを個人的に利用していましたので、抵抗はありませんでした。掲示物はこれまではその都度手帳に記帳していましたが、今ではLINE WORKSの掲示板ですぐに確認でき、古い情報も検索機能で瞬時に探し出すことができます。」(藤田氏)
LINE WORKS導入以前、現場で列車に乗務する運転士や車掌への連絡は、列車無線を用いた音声情報でしたが、LINE WORKSの導入により瞬時に文字情報を送受信できるようになりました。
「従来は列車無線でのやり取りのため、トンネル内走行時などは会話中に電波状態の影響を受けていましたが、LINE WORKSなら音声のように途切れることなく文章で一括して送れるため、より正確に情報が伝達できるようになりました」(藤田氏)
LINE WORKSはトーク機能において、運転士と乗務所、車掌と事務所などといったグループに分け、連絡やそのとき必要な情報を適宜やりとりされています。以前であれば、緊急の場合を除き、連絡事項の申し伝えや情報交換は乗務所に戻ってから行っていました。しかし、現在は関係者全員とタイムリーな情報交換ができるため、乗客からの問い合わせ対応等がより迅速になったそうです。
乗務員どうしの密な情報共有は、列車の安全運行につながってゆく
Osaka Metroは、乗客の安全や利便性を向上させるだけでなく、システムと連携されたLINE WORKSの活用により乗務員どうしのより細やかな情報共有やコミュニケーションをも実現しています。スマートフォンで親しまれているLINEのインターフェースそのままに、セキュアな環境下で誰でも使いやすいことと、トーク以外の充実した機能や他システムをつなぐAPIがあることが、これらを実現した要因といえます。
乗客の安全性をはかった可動式ホーム柵や次世代改札機に留まらず、乗務員の業務にもITの活用を進めることで、地下鉄の在り方をアップデートさせているOsaka Metro。同社の安全な運行は、今日もLINE WORKSに支えられています。
※掲載している内容、所属やお役職は取材を実施した当時のものです。
※本記事は2020年10月13日にて公開されたマイナビニュース作の記事をリライト掲載したものです。
【資料公開】運輸・倉庫業界向けLINE WORKS導入事例集