在宅系でも施設系でも、職員どうしの情報連携がとにかく大切になる介護現場。やるべきことが増えるなか、円滑なコミュニケーションの重要性も高まっていきます。もっと密に、楽しく簡単に、正確に伝え合えるようにする工夫は、業務の負担を軽くして職場を明るくするだけでなく、高齢者と向き合う時間を長くすることにもつながります。
慣れ親しんだ電話、メール、FAXなどを主な伝達手段としている事業所は今なお多い一方で、時代が変化する中で介護業界も旧来のやり方を変えていく転換期を迎えた、という認識は以前よりだいぶ広がっています。
スマートフォンやセンサーの活用、記録の電子化など、その先進的な取り組みで自治体からも高い評価を受けている東京の有力法人といわれている特養やデイ、訪問、居宅、グルホ、看多機、包括などを幅広く運営している社会福祉法人 信愛報恩会も率先して従来の伝達手段を変えていくために、法人全体でLINE WORKSの導入を推進しています。
先頭に立ってICT化を進めている情報管理室の北川美歩室長、ヘルパーステーションでサービス提供責任者を担う関根さんにLINE WORKSの必要性や活用について話をうかがいました。
デジタル化が進む時代で慣れ親しんだ電話、メール、FAXに替わる伝達手段が必須
電話はサービス中にかかってくると応答できず、会話の記録が残らないため、「言った」「言わない」の応酬にもなりがち。一斉の情報共有にも不向きで、伝言ゲームになれば話に尾ひれが付くこともあります。
メールは作成に時間がかかり、頑張って送った文面を読んでくれたかどうかも分からず、「今メールを送ったので確認お願いします」という電話を事務所内で見ることも少なくありません。国をあげてデジタル化を進める時代となり、FAXは他の効率的なツールに代えることが求められています。
「今もまだ不完全だが、3年後もこのまま変わっていなければまずい、という思いを常に持って1つずつ進めてきました」と北川さんは語ります。
「慣れてる人が多く、すぐ浸透」
— LINE WORKSを導入することになった経緯を教えて下さい。
北川さん:
医療や介護はとにかく情報連携に労力とコストを使っていますよね。そのことが現場では十分に意識されていなかったので、改善の余地があると考えました。
業務の効率化と言うと、一般に見守りセンサーやロボット、報酬請求・記録ソフトなどをイメージする人も多いですが、コミュニケーションツールも非常に重要ではないでしょうか。電話やメール、FAXなどに多くの時間を割いている実態を踏まえ、我々は数年かけて職場で全職員にスマホを配ることに決めました。既に7割くらいまで達成しており、LINE WORKSの導入はスマホ配布と同時に進めてきました。
現場ではまだPHSなども活用していますが、電話には急に相手の時間を奪う側面があり、専門職も電話の多さに苦慮していました。トークであれば、個々の職員が自分のタイミングで読むことができます。いちいち相手の業務を中断させることがなくなり、問い合わせる方も気が楽になりました。文面の作成もメールより圧倒的に楽ですよね。
会話の履歴が記録として残ること、誰が読んでいないか既読の仕組みで分かることなども、とても喜ばれています。未読の際は電話などで直接確認することができ、仕事の正確さも向上しました。例えば訪問介護の管理者は、稀に発生する訪問忘れが更に減らせたと報告しています。また、写真、メモ、書類、URLなどの共有が簡単にできる点もやっぱり大きいようです。
— 電話など慣れている方法を変えていくのは大変でしたか?
北川さん:
LINEに慣れている人が多いため、かなりスムーズにいきました。年齢を重ねていても、今はお孫さんとLINEしていたりしますので。スマホを使ったことがない職員へのスマホのレクチャーは必要でしたけどね。
人によってはパソコンやタブレットでも使っています。自然に、皆どんどん活用していく感じで浸透していきました。逆にデジタルに強い医師などにとっては、スマートウォッチで通知が受け取れる点なども非常に便利なようです。
「職種ごとのトークグループも有効」
— 運用のルールなどは設けていますか?
北川さん:
読めば必ず「既読」と付くので、相手が上司であっても場面に応じて”既読スルー”でOKとしました。プライベートのスマホへのインストールは、我々の法人ではNGとして運用しています。勤務時間外のやり取りは避けることが原則ですが、施設系、在宅系などサービスの特性に応じて判断しています。
— トークだとコミュニケーションが殺伐とするようなことはありませんか?
北川さん:
むしろ加速しました。職員どうしのグループも自由に作れるようにしているので、自然と職種ごとのグループなども生まれ、情報共有の有意義さが増したと感じています。産休の職員なども連絡手段がある安心感を持てると思います。
あとはやはりスタンプでしょうか。ワンタップでリアクションでき、文章を考えなくても感情を伝えられる機能は便利ですよね。仕事中のシーンを想定したスタンプも多く、皆たくさん使っていますよ。
— トークのやりとり以外でもご活用されているそうですね。
北川さん:
LINEにはない「掲示版」機能で、ヘルプデスクのような社内の問い合わせ対応を行なっています。また、現場や病棟ごとにあった紙の連絡ノートでのやりとりはLINE WORKSに置き換え、医師・職員間の情報共有を効率化しています。
「今は無くてはならないアプリ」
— ヘルパーステーションでの活用はいかがですか?
関根さん:
コロナ禍になって一段と役に立ちました。直行直帰が増え、シフトなどの連絡はほとんどLINE WORKSで行っています。
また、トークの既読の仕組みで伝わったことが確実に分かるので安心です。以前は個別に電話をかけていましたが、一斉にメッセージを送れるようになってありがたいです。
介護保険証や負担割合証の写真、傷やかゆみの患部の写真なども訪問時に撮って送ってもらうこともあるので、保険証などの紛失リスクもゼロになりました。今はもう無くてはならないアプリになっていますね。
— 今後の活用について教えて下さい
北川さん:
今後は「アンケート機能」を使い、職員の意見を汲み取るツールとしても活かしたいですね。BCP(業務継続計画)の文脈の緊急連絡網としても使っていくでしょう。利用者さんが行方不明になった時などもうまく活用できないか、既に検討を始めているところです。
※本記事は2021年11月22日にて公開された介護のニュースサイトJOINTの記事をリライト掲載したものです。