高速バス「WILLER EXPRESS」を運行するWILLER EXPRESS株式会社は、パソコンを使う時間がほとんどないハイウェイパイロット(運転士)との情報共有体制づくりにLINE WORKSを導入。当初はスモールスタートで同社の長野営業所で成功事例をつくり、後に全国の営業所に展開させました。LINE WORKSの導入によってリアルタイムな情報共有や内勤者との情報格差の改善などを実現。また、車両の不具合を画像や動画で整備士と共有することで、よりスピーディに車両整備ができるようになりました。
本事例のポイント
- ハイウェイパイロット(運転士)への職種間の情報格差などが改善
- 対面と比べて発言のハードルが下がり、ハイウェイパイロットから自発的に意見が出るように
- 車両の不具合を整備士に画像や動画で共有。より短期間で適切な車両整備が可能に
- 健康への関心や意識を高める活動にも活用
御社の事業内容をご紹介ください。
糸井さん:
高速バス「WILLER EXPRESS」を運行している当社は、全国8カ所に営業所を展開、23路線417便を運行しています。安心・安全を最優先に捉え、乗務員の体調不調や居眠りによる事故を未然に防ぐために、積極的にIoT技術を活用しています。すべてのハイウェイパイロットは運行中に眠気検知機器を装着しており、運行管理者はハイウェイパイロットの疲労や眠気の予兆をリアルタイムに把握、必要に応じて遠隔から休憩の指示を出すこともあります。当然ながら、お客さまの快適さと便利さも私たちにとって非常に重要です。2006年から高速バス事業に参入して以来、お客様が座るシートについては自社開発にこだわり、快適な乗車体験を提供できるよう努めています。
LINE WORKS導入前はどのような課題を抱えていましたか。
糸井さん:
内勤者どうしはグループウェアを使用して情報を共有していますが、運行が主業務のハイウェイパイロットにはグループウェアのアカウントやパソコンを付与しておらず、主に紙や口頭で情報伝達を行っていました。しかしこの方法では、内勤者とハイウェイパイロットの間で情報伝達のタイミングに時差が生まれる、限られた情報しか伝達できないといった課題がありました。
一方で、管理者の手間やコストの観点から、グループウェアのアカウントを付与することは難しく、コンパクトかつ適切なツールを見つけることが求められていました。
森さん:
私が所長を務める長野営業所では、ハイウェイパイロットの勤務時間8時間のうち、営業所に滞在する時間は1時間程度しかありません。この短い時間に会社からの伝達事項をハイウェイパイロットへ伝えるために、紙の回覧板を使用していました。しかし回覧板は、流し読みされやすく見たいときに再び確認もできないため、情報が適切に伝わるかという観点では、十分ではなかったのが現実でした。
原田さん:
体調不良や居眠り等に起因する交通事故を防ぐためには、ハイウェイパイロットの健康管理が極めて重要です。私は保健師として、ハイウェイパイロットへ健康診断の案内や健康情報の発信を行っています。LINE WORKS導入前は、営業所の所長や健康担当者を介して紙ベースで情報提供を行っていましたが、ハイウェイパイロットに届いているのか、提供した情報が役に立っているのか知る手段がありませんでした。
数あるツールの中で、LINE WORKSを選定された理由は何でしょうか。
糸井さん:
使いやすさが最も重要なポイントです。新しいツールへの抵抗感を持つ人もいますが、この点に着目しLINEの使いやすさを踏襲したLINE WORKSを選定しました。
実際にLINE WORKSの利用は任意ですが、ガラケーを保有している一部のハイウェイパイロットを除いて、ほぼすべてのハイウェイパイロットがBYODでLINE WORKSを利用してもらえています。
LINE WORKSを運用するまでの経緯を教えてください。
森さん:
最初にLINE WORKSの活用プロジェクトを立ち上げました。まず運用モデルを構築するため、長野営業所内でトライアル運用を開始し、ハイウェイパイロットに対してグループトークを通じて規定変更やトラブル発生などの情報を発信。また、掲示板を利用してYouTubeに限定公開でアップした経路動画を共有するなど、さまざまな活用方法を試しました。
トライアルの結果、誰が既読なのかまで分かり、またハイウェイパイロットと内勤者の間で双方向のコミュニケーションが生まれるなど、LINE WORKSの活用メリットを十分に実感しました。この成果を受けて全国の営業所にLINE WORKSの導入を展開しました。
さらに、プロジェクトの一環としてLINE WORKSの運用マニュアルを作成し、導入の目的や具体的な使用例を会社全体に発信していきました。これにより、ハイウェイパイロットだけでなく内勤者にもLINE WORKSのメリットを理解してもらい、活用のモチベーション向上を促進しました。
LINE WORKSを活用したハイウェイパイロットとの情報共有について、具体的に教えてください。
糸井さん:
特に掲示板機能を積極的に活用しています。会社全体用と8つの営業所ごとの掲示板を設け、経路動画やWILLER GROUPの各種ニュースなどを投稿しています。
会社全体の各種ニュースに関しては、以前はハイウェイパイロットに十分に周知されていないことがありました。例えば、シフトの関係上、テレビ取材を対応したハイウェイパイロットに放送日が伝わったのが、放送の翌日だったという残念なこともありましたが、現在は即座に放送予定などを共有できるようになりました。タイムリーに情報を共有することで情報格差が解消され、ハイウェイパイロットと内勤者との間で円滑なコミュニケーションが実現されました。
経路に関しては、これまでもハイウェイパイロットには動画で展開をしていましたが、以前は営業所に滞在している時しか経路動画を確認することができませんでした。しかし、今ではスマホで見られるため、ハイウェイパイロットの都合に合わせて経路を再確認できるようになり、非常に便利だと感じているようです。
街中の降車場や迂回路などの経路を動画や地図で共有しスムーズな運行を実現している
原田さん:
これまでハイウェイパイロットに紙で閲覧してもらっていた健康に関する各種情報を、掲示板を通じて周知しています。具体的には、健康管理イベントの告知や身近な病気に関する知識などを共有しています。以前は紙ベースの情報提供しか手段がありませんでした。しかし今は、LINE WORKSという手段が加わり、既読の有無が分かるほか、発信する情報の性質に応じて発信手段を使い分けられるようになりました。
運行中に発生する渋滞状況の共有や車両トラブル発生時の連絡などにLINE WORKSを活用しているそうですね。
森さん:
運転中のハイウェイパイロットにはスマホの操作を禁じている一方で、バス停の乗り場や渋滞状況などの運行情報は無線機を通じてリアルタイムに運行管理者へ共有されています。この情報は運行管理者によって、LINE WORKSの掲示板やグループトークを通じてこれから運行するハイウェイパイロットにも伝えられています。これまで終業時にハイウェイパイロットから口頭で伝えられていた運行情報が、今ではLINE WORKS上で迅速に情報共有されています。
また、営業所別やプロジェクト別のグループを作成し、グループトークでも情報共有を図っています。例えば、運行中に車両の不具合が発生した場合は、不具合の様子が分かる写真や動画をハイウェイパイロットと整備士が入った車両故障グループにアップすることで、不具合の状況を視覚や音で確認できるようにしています。これまで口頭で伝えられていた内容を目と耳でも確認できようになったことで、整備士たちは迅速に修理が必要かどうかを判断し、より効率的な対処が可能になりました。
そのほか、最近ではハイウェイパイロットからの意見もLINE WORKS上で交換されるようになりました。対面では言いにくいことも、LINE WORKS上であれば声を上げるハードルが下がり、発信が苦手なハイウェイパイロットの意見も多く採り入れやすくなっています。
糸井さん:
当社は全国8か所に営業所を展開しており、ハイウェイパイロットは全国各地で昼夜問わず運転しています。そのため、緊急時に従業員の安否確認が迅速に行えるように、アンケート機能のテンプレートを活用しています。これまでにも、地震が発生した際に2回の安否確認を実施し、従業員の無事を迅速に確認することができました。
地震発生時の実際の安否確認の内容。選択式の回答にしたことで、従業員全体の安否状況がすぐに確認できた
LINE WORKS活用の今後の展望を教えてください。
糸井さん:
API連携を推進していきたいです。例えば、運行情報管理システムからシフトデータを抽出し、カレンダーにシフトを表示する方法を検討しています。これによって、現在の紙ベースのシフト表の印刷と配布の手間を減らすことができるでしょう。その他にも、アルコールチェッカーや地図アプリとの連携も視野に入れています。こうした連携が実現すると、管理者とハイウェイパイロット双方にとって手間を減らすことが可能になると考えています。
【お話を伺った方】
管理本部 人事労務企画チーム チーム長
糸井 貴行さん
採用や人事制度設計など人事業務に従事している。
管理本部 管理部 保健師
原田 リエさん
全従業員を対象に健康管理全般を担当している。
長野営業所 所長
森 健さん
長野営業所の責任者を務める。