目次
業務用無線機とは:インカム・トランシーバーとの違い
業務用無線機は、仕事の連絡に使う無線通信機器の総称で、トランシーバーやインカムもこの中に入ります。携帯電話と違い、送信ボタンを押して話すと同じチャンネルの全員へ一度に声が届くのが特徴です。相手を一人ずつ呼び出す手間がないため、店舗や工事現場、イベント会場のように、何人ものスタッフが動きながら働く場所の連絡に使われています。
トランシーバーは、送信と受信の両方ができる無線機の呼び名です。インカムはイヤホンマイクを付け、両手を空けたまま話す使い方を指すことが多く、現場ではトランシーバーとほぼ同じ意味で使われています。届く距離や必要な手続きは、次に紹介する通信方式によって変わります。
業務用無線機の種類:5方式の違いを比較
業務用無線機の主な方式は5つで、電波を直接届ける3方式と、携帯電話の回線を使う2方式に分かれます。電波を直接届ける方式は届く距離に限りがありますが、端末どうしで電波をやりとりするので携帯電話の圏外でも話せます。回線を使う方式は回線がつながる範囲で話せる一方、圏外や通信障害のときは使えません。
届く距離には規格で決まった値がないため、表には販売各社の案内による目安を載せています。
| 方式 | 周波数帯・出力 | 免許・登録 | 届く距離の目安 | 主な費用 |
|---|---|---|---|---|
| 特定小電力無線 | 422MHz帯など/一般的な機種は10mW以下 | 不要 | 見通しのよい屋外で1km前後、市街地や屋内で100〜200m程度 | 本体の購入費 |
| デジタル小電力コミュニティ無線 | 142MHz帯・146MHz帯/1W以下(市販機は0.5W程度) | 不要 | 見通しのよい屋外で1〜3km程度 | 本体の購入費 |
| デジタル簡易無線 | 350MHz帯(登録局)・460MHz帯(免許局)など/最大5W | 登録局は登録、免許局は免許 | 見通しのよい屋外で1〜5km程度、市街地や屋内で数百m〜1km程度 | 本体の購入費、登録・免許の手数料、毎年の電波利用料 |
| IP無線(専用機) | 携帯電話の回線 | 不要 | 回線がつながる範囲 | 専用機の費用、月々の通信料 |
| IP無線アプリ | 携帯電話の回線・Wi-Fi | 不要 | 回線がつながる範囲 | アプリの利用料、通信費 |
自分の現場でどこまで届くかは、間にある壁や床、金属の設備でも変わります。候補を絞る前に屋内や屋外など場所ごとの届き方の目安を見ておくと、試し通話で確かめる場所を決めやすくなります。
特定小電力無線:免許不要で近距離の連絡に使いやすい
総務省が定める条件を満たした無線設備を使う方式で、無線従事者の資格も無線局の免許もいりません。電波法の技術基準に適合した機器に付く技適マークがあれば、手続きをせずに使い始められます。出力が小さく、上下の階には届きにくいことがあります。ワンフロアの店舗や、飲食店のホールと厨房のような限られた範囲の連絡に使いやすい方式です。
421MHz帯と440MHz帯の周波数を組み合わせて、電話のように双方が同時に話せる機種もあります。
デジタル小電力コミュニティ無線:免許不要で特定小電力より遠くまで届く
142MHz帯と146MHz帯を使う特定小電力無線局の一種で、免許も登録もいりません。法令上の出力の上限は1Wで、市販機は0.5W程度です。使えるチャンネルは18chです。屋外の駐車場や広い敷地のように、特定小電力では届かないものの、デジタル簡易無線の手続きは省きたい場面で候補になります。
デジタル簡易無線(デジ簡):登録か免許の手続きで数km先まで届く
最大5Wの出力を持つデジタル方式の簡易無線で、現場では略してデジ簡とも呼ばれます。特定小電力より遠くまで届くため、建設現場や警備、屋外イベントのような広い現場の連絡に使われています。
無線従事者の資格はいりませんが、総合通信局への登録か免許の手続きが必要です。登録も免許もないまま使うと、電波法(e-Gov法令検索)第110条により、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金の対象になります。登録局と免許局は、使える人や運用の仕方が次のように異なります。
| 項目 | 登録局 | 免許局 |
|---|---|---|
| 周波数帯とチャンネル数 | 350MHz帯・82ch(このほかに上空でも使える15ch) | 460MHz帯・75ch(このほかに中継用20ch) |
| 使える人 | 登録人以外にも使わせられる(使わせたら届出が必要) | 免許を受けた組織に所属する人 |
| レンタルでの使用 | できる | できない |
| 中継器を使った運用 | できない | できる |
| ほかの局が通信中は送信しない機能 | 必要 | 不要 |
出典: 九州総合通信局「デジタル簡易無線(登録局)」、総務省 電波利用ポータル「デジタル簡易無線局の増波等について(令和5年度改正)」
登録局の電波利用料は、複数台をまとめて登録する包括登録なら1台あたり年290円、1台ずつ登録する個別登録なら年200円です。登録の手数料は、電子申請の場合で包括登録1,950円、個別登録1,500円です。いずれも2025年10月1日に改定された額です(出典: 関東総合通信局「デジタル簡易無線局(CR)登録局のページ」)。
登録の有効期間は5年で、続けて使うには満了の3か月前から1か月前までに再登録を申請します。
IP無線(専用機):携帯電話の回線で離れた拠点とつながる
IP無線は、携帯電話の回線を使って音声を送る無線機です。回線がつながる場所なら距離に関係なく話せるので、離れた拠点どうしの連絡や、広い範囲を巡回する警備の連絡に使われています。携帯電話と同じように、利用者が無線局の免許や登録を受ける必要はありません。専用機の費用に加えて、1台ごとに月々の通信料がかかります。
IP無線アプリ:スマートフォンをトランシーバーとして使う
スマートフォンにアプリを入れて、トランシーバーのように使う方式です。仕組みはIP無線と同じで、携帯電話の回線やWi-Fiがつながれば、フロアや拠点が離れていても話せます。業務で使うスマートフォンに入れると、電話やチャットと無線を1台にまとめられ、無線機との2台持ちを解消できる点も利点です。
会話の履歴を残せるアプリや、チャットと組み合わせて使えるアプリもあります。気をつけたいのは、スマートフォンの電池の減りが早くなる点と、画面のボタンが手袋をしたままでは押しにくい点です。Bluetoothのイヤホンマイクや、声で送信を始める機能で補えるアプリもあります。
このほかの業務用無線:一般業務用無線とMCA無線
5方式のほかに、免許を受けた組織が割り当てられた周波数で運用する一般業務用無線と、中継局を多くの利用者で共同利用するMCA無線があります。どちらも無線局の免許が必要です。一般業務用無線では、無線設備の操作に無線従事者の資格が求められる場合があります。
MCA無線は、MCAアドバンスが2027年3月31日、デジタルMCAが2029年5月31日にサービスを終了します(出典: 総務省 電波利用ポータル「『MCA無線』サービス終了に伴う再免許等手続について」)。いまMCA無線を使っている場合は、終了までに必要な手続きと切り替え先を早めに確かめておくと、移行の準備を進めやすくなります。
業務用無線機の選び方:6つの確認ポイントと現場別の目安
業務用無線機は、最初に連絡が必要な範囲で方式を絞り、残った候補を手続き・費用・圏外での使い方・記録・使う環境で比べると選びやすくなります。範囲を先に見るのは、1フロアなら特定小電力、屋外の広い敷地ならデジタル簡易無線、上下の階や拠点間なら回線を使う方式というように、届く範囲で候補が大きく変わるためです。
確認したい6つのポイント
| 確認項目 | 見るところ | 判断の目安 |
|---|---|---|
| 届く範囲 | 連絡を取り合う地点どうしの距離と、間にある壁・床・金属の設備 | 1フロアなら特定小電力、屋外の広い敷地ならデジタル簡易無線、上下の階や拠点間は回線を使う方式 |
| 手続き | 免許・登録の有無と、台数を増やしたり減らしたりするときの管理 | 手続きを省きたいなら免許・登録のいらない方式。デジタル簡易無線は5年ごとに再登録か再免許が必要 |
| 費用のかかり方 | 本体を買い切るか、月々の費用がかかるか | 同じ台数を長く使うなら買い切り型、時期によって台数が変わるなら月額型やレンタル |
| 圏外・災害時 | 携帯電話がつながりにくい場所で使うか | 山間部や災害時の備えには、回線を使わない電波方式 |
| 会話の記録 | 聞き逃した連絡を後から確かめたいか | 録音機能のある機種か、会話の履歴を残せるIP無線・アプリ |
| 使う環境 | 水や粉じん、手袋での操作、1日の使用時間 | 屋外や水回りでは防水・防じん性能の高い機種。長時間使うなら電池の持ちも確認 |
デジタル簡易無線に決めた場合は、個別登録と包括登録の申請の手順を導入前に確かめておくと、使い始めが遅れません。
現場のタイプ別の目安
| 現場のタイプ | 相性のよい方式 |
|---|---|
| 1フロアで完結する店舗・飲食店 | 特定小電力無線 |
| 屋外の広い現場(建設・イベント・警備) | デジタル簡易無線、デジタル小電力コミュニティ無線 |
| 携帯電話がつながりにくい山間部・海上 | デジタル簡易無線 |
| 複数の階がある施設(介護施設・ホテル・病院) | IP無線アプリ、または中継器を置いた無線機 |
| 離れた拠点どうしの連絡 | IP無線、IP無線アプリ |
スマートフォンをトランシーバーのように使うアプリには、LINE WORKSラジャーもあります。ボタンを押して話すと音声がグループに届き、アドバンストプランでは発話を自動でテキストに変換できます。回線がつながらない場所では使えないため、圏外になりやすい現場では電波方式の無線機との使い分けが必要です。
アナログ無線機からの切り替え:使用期限と移行先
350MHz帯・400MHz帯のアナログ簡易無線は2024年11月30日で使用期限を迎え、今は使えなくなっています。アナログ機が残っている事業者は、デジタル簡易無線かIP無線・IP無線アプリへの切り替えが必要です。2024年12月1日以降にアナログの周波数で電波を出すと、電波法違反として取締りの対象になるためです。
アナログ単体機の免許は2024年11月30日で効力を失ったため、廃止届は要りません。免許状を返納する義務は、2025年10月1日の免許状のデジタル化でなくなりました。手元の紙の免許状は、破棄するか、効力がないと分かるようにしておきます(総務省 電波利用ポータル「よくあるご質問(免許状等のデジタル化)」)。
アナログとデジタルを切り替えて使えるデュアル方式の機種は、メーカーなどでアナログ側の電波を止める停波措置を受ける必要があり、受けていないと次の再免許を受けられません(出典: 総務省 電波利用ポータル「簡易無線局のデジタル化について」)。
買い替え先は、大きく次の2つに分かれます。
| 移行先 | 選ぶと良い場合 | 注意点 |
|---|---|---|
| デジタル簡易無線 | これまでと同じボタン操作で、屋外の広い範囲や携帯電話の圏外で使い続けたい | 登録か免許の手続きと、毎年の電波利用料がかかる。上下の階や離れた拠点には届きにくい |
| IP無線・IP無線アプリ | フロア間や拠点間もつなぎたい。業務用のスマートフォンに無線をまとめたい | 月々の通信料や利用料がかかる。圏外や通信障害のときは使えない |
どちらか一方に決める必要はありません。屋外の作業はデジタル簡易無線、事務所や離れた拠点との連絡はアプリというように、組み合わせて使う方法もあります。
よくある質問
業務用無線機は購入とレンタルのどちらがよいですか?
使う期間で選ぶと決めやすくなります。同じ台数を長く使うなら購入、イベントや繁忙期など決まった期間だけ使うならレンタルが合います。デジタル簡易無線をレンタルで使えるのは登録局で、免許局はレンタルでは使えません。レンタルを考えている場合は、レンタル料金の相場と購入との比べ方を見て、使う期間の合計で購入と比べてください。
アマチュア無線を仕事の連絡に使ってもよいですか?
使えません。電波法施行規則は、アマチュア業務を、金銭上の利益のためでなく、もっぱら個人的な無線技術の興味によって行う自己訓練、通信、技術的研究などの無線通信業務と定めています。仕事の連絡には、特定小電力やデジタル簡易無線など、業務に使える方式の無線機を選びます。
災害時に強い業務用無線機はどれですか?
携帯電話の回線を使わない特定小電力・デジタル小電力コミュニティ無線・デジタル簡易無線は、基地局の停電や回線の混雑があっても、電波が届く範囲なら話せます。IP無線やアプリは離れた相手とも話せますが、回線が止まると使えません。停電が長引くときに備えて、予備の電池や充電の手段も用意しておくと安心です。
まとめ
業務用無線機は、電波を直接届ける方式と回線を使う方式に分かれ、免許の要否や届く距離、費用のかかり方が方式ごとに違います。選ぶときに押さえておきたい点は次のとおりです。
- 免許・登録なしで使えるのは特定小電力・デジタル小電力コミュニティ無線・IP無線・IP無線アプリ。デジタル簡易無線は登録か免許が必要
- 見通しのよい屋外で届く距離の目安は、特定小電力が1km前後、デジタル簡易無線が1〜5km程度。IP無線とアプリは回線がつながる範囲
- アナログ簡易無線は2024年11月30日で使用期限を迎え、MCA無線も2027年と2029年にサービスが終わる
方式を決める前に、連絡を取り合う地点を書き出し、条件の悪い場所どうしで試しに通話しておくと安心です。
フロアや拠点をまたぐ連絡や、会話の履歴が課題になっている場合は、アプリ型も選択肢になります。スマートフォンをトランシーバーのように使えるLINE WORKSラジャーも、その一つです。フリープランは0円で試せます(会話は40分で一度切断)。有償プランは30日間の無償トライアルがあります。