目次
工場で使われるインカムの種類
工場で使うインカムは、特定小電力トランシーバー、デジタル簡易無線、回線を使うIP無線・スマホアプリの3つに分かれます。違いは、端末どうしが電波を直接やりとりするか、Wi-Fiや携帯電話の回線を通すかです。1棟の中なら特定小電力、広い敷地ならデジタル簡易無線、棟や事務所をまたぐならIP無線・スマホアプリが候補になります。
工場でよく使われる方式を比べると、次のとおりです。
| 方式 | 届く範囲の目安 | 免許・手続き | 相性の良い工場・使い方 |
|---|---|---|---|
| 特定小電力トランシーバー | 見通しのよい屋外で1km前後、条件がよければ2km程度。建物の中では100〜200m程度 | 不要 | 1棟で完結する工場、同じラインや近くの作業者どうしの連絡 |
| デジタル簡易無線 | 見通しのよい屋外で1〜5km程度。建物の中では数百m〜1km程度 | 登録局は登録、免許局は免許が必要(無線従事者の資格は不要) | 敷地の広い工場、屋外ヤードや出荷場との連絡 |
| IP無線・スマホアプリ | 携帯電話の回線が届く範囲。スマホアプリはWi-Fiでもつながる | 不要 | 複数の棟や工場、事務所をまたぐ連絡 |
届く範囲は、販売各社の案内による目安です。金属の設備や棚が多い建物では電波が遮られ、10m程度の距離でも通じにくくなることがあると案内する販売会社もあります。
特定小電力トランシーバーは、免許も登録もいらない無線機です。一般的な機種の出力は10mW以下で、本体を買えば月々の通信料はかかりません。電話のように同時に話せる機種もあります。
デジタル簡易無線は、出力が最大5Wで、広い敷地や屋外ヤードまで届く方式です。登録を受けて使う登録局と、免許を受けて使う免許局があります。中継器を使った通話ができるのは免許局だけです(出典:総務省 電波利用ポータル「デジタル簡易無線局の増波等について」)。
IP無線とスマホアプリは、携帯電話の回線やWi-Fiを通じて音声を送る方式です。回線につながっていれば、別の棟や事務所、離れた工場とも話せます。スマホアプリの場合は、業務用のスマートフォンが端末です。会話を履歴で見返せるサービスや、文字起こしに対応したサービスもあります。Wi-Fiが届かず、携帯電話の電波も弱い場所では使えません。
このほか、工場見学の案内に使うガイドシステムと、防爆エリアで使う防爆構造の無線機があり、どちらも後半で紹介します。
工場の環境から選ぶ|電波・粉塵・水・油
金属の設備で電波が遮られないか、粉塵や水、油に耐えられるかを、自社の工場の条件に当てはめて確かめます。金属の設備や棚が多い建物では近い距離でも声が途切れることがあり、粉塵や水しぶき、切削油は端末の故障やボタン・マイクの不具合につながるためです。
工場でよくある条件と、選ぶときに確かめたい点は次のとおりです。
| 工場の条件 | 起きやすいこと | 確かめたい点 |
|---|---|---|
| 金属の設備・棚、鉄骨の建物 | 電波が遮られ、近い距離でも声が途切れる | 設備の配置どおりの場所で試し通話ができるか。Wi-Fiのアクセスポイントの位置 |
| 複数の棟・屋外ヤード | 特定小電力では隣の棟や敷地の端まで届かない | デジタル簡易無線の出力で足りるか。回線を使う方式にするか |
| 同じ方式の無線機を使う工場や倉庫が近くにある | 同じチャンネルを使う相手の声が混ざる | チャンネルを切り替えられるか。混信を避ける機能があるか |
| 事務所・別の工場との連絡 | 無線が届かず、内線電話やチャットに切り替える | 回線を使う方式を組み合わせられるか |
| 粉塵・水しぶき・切削油 | 端末の故障、ボタンやマイクの不具合 | 端末とヘッドセットの防塵・防水の等級(IPコード)、油についてのメーカーの案内 |
| 可燃性ガスや粉じんで爆発のおそれがある場所 | 一般の電子機器を使えない | 型式検定に合格した防爆構造の機器(後述) |
導入や買い替えの前には、大型設備の陰や棟の端、倉庫の奥など、条件の悪い地点どうしで試し通話をしておくと安心です。スマホアプリを検討している場合は、同じ地点でWi-Fiと携帯電話の電波の入り方も確かめてください。
防塵・防水性能(IPコード)の目安
端末の防塵・防水性能は、IPコードで確かめます。IP67のように2桁の数字で表し、1桁目が粉塵、2桁目が水に対する保護の等級です(JIS C 0920)。
| 表示 | 粉塵 | 水 | 工場での目安 |
|---|---|---|---|
| IP54 | 動作や安全を妨げる量の粉塵が入らない | あらゆる方向からの水しぶきに耐える | 粉塵や水気の少ない組立・検査のエリア |
| IP65 | 粉塵が入らない | あらゆる方向からの噴流水に耐える | 粉塵の多い加工エリア、ホースで清掃する床 |
| IP67 | 粉塵が入らない | 一時的に水に沈めても耐える | 水槽や洗浄槽のそばなど、水に落とすおそれがある場所 |
IPX7は水に沈めたときの等級で、噴流水への保護(IPX5・IPX6)を含むとは限りません。床や設備を水で洗い流すエリアでは、IPX5/IPX7のように両方が表示された機種を選ぶと安心です。また、JIS C 0920は水の試験を真水で行うとし、高い圧力や溶剤で洗浄する場合は保護が不十分なことがあるとしています。切削油や洗浄剤がかかる場所では、メーカーの案内もあわせて確かめてください。
スマホアプリを使う場合は、スマートフォン本体のIPコードを確かめます。防塵・防水や耐衝撃に対応した業務用モデルのスマートフォンもあります。
騒音の中で聞き取るための機器選び
騒音の大きい工場では、遮音性のあるヘッドセットと口元のマイクを選び、聴覚保護具と一緒に使えるかを確かめます。厚生労働省の騒音障害防止のためのガイドラインは、85dB以上の作業場で聴覚保護具を使わせる基準を示しています。そうした作業場では、話す機器も保護具と一緒に着けられることが前提です。
ガイドライン(令和5年4月改訂)は、等価騒音レベル(一定時間の騒音の平均的な大きさ)が85dB以上90dB未満の場所では、必要に応じて労働者に聴覚保護具を使わせるとしています。90dB以上の場所では、聴覚保護具を使わせたうえで、使っているかを管理者に確かめさせることを求めています。
聴覚保護具と通話を両立させたい場合は、イヤーマフとヘッドセットが一体になった製品や、耳栓型のイヤホンで遮音と通話を兼ねる製品が選択肢です。同じガイドラインは、遮音値が必要以上に大きい保護具を選ばないよう配慮することも求めています。危険作業などで周りの音を聞く必要がある場合や、会話が必要な場合の配慮です。警報音やフォークリフトの接近に気づけるかは、試用の段階で確かめておきたい点です。
聞き取りにくさの原因が、話す側のマイクにあることもあります。マイクが口から離れていると、声と一緒に周りの騒音も拾うためです。口元に固定できるブームマイク付きのヘッドセットや、ノイズキャンセリング機能のあるマイクを使うと、相手に届く声が聞き取りやすくなります。喉の振動から声を拾う咽喉マイクも、騒音の大きい現場向けのマイクの一つです。
両手がふさがる作業でも話せるようにする
組み立てや搬送のように両手を使う作業では、送信の操作方法で使いやすさが変わります。PTT(プッシュ・トゥ・トーク)は、ボタンを押している間だけ話せる方式です。ヘッドセットや胸元のボタンで送信できれば、工具を置かずに話せます。
声を検知して送信を始めるVOX機能や、電話のように双方が同時に話せる同時通話に対応した機種なら、ボタンの操作そのものを減らせます。騒音の大きい場所ではVOXが周りの音に反応して送信が始まることがあるため、感度を調整できるかも確かめてください。同時通話は電池の消費が多いと案内する販売会社もあり、交代勤務で長く使うなら予備の電池を用意しておくと安心です。
動き回る作業では、ワイヤレスのヘッドセットが扱いやすくなります。有線のイヤホンマイクを使う場合は、回転する設備や搬送機にケーブルが引っかからないよう、取り回しを決めておいてください。ワイヤレスのヘッドセットにする場合は、今の無線機をワイヤレスで使う方法と、Bluetooth機器を選ぶときの注意点を確かめてから機種を選んでください。
作業シーン別の選び方|設備トラブル・フォークリフト・事務所との連絡
作業ごとに必要な連絡の形が違うため、誰に同時に届けるか、どこまで届けばよいかを作業単位で決めると選びやすくなります。設備トラブルの一報なら関係者に同時に届くグループ通話、両手がふさがるフォークリフトの誘導なら同時通話とハンズフリーのヘッドセットが合います。
| 作業シーン | 求められること | 合う方式・機能 |
|---|---|---|
| 設備トラブル・品質異常の一報 | ラインリーダー、設備保全、品質管理に同時に知らせる | グループ通話、全員が聞く一斉連絡用のチャンネル |
| ライン間の引き継ぎ・段取り替え | 作業を止めずに変更を伝え、聞き逃しを防ぐ | ハンズフリーのヘッドセット、会話を履歴で確かめられる機能 |
| フォークリフトの誘導・クレーンの合図 | 合図をすぐに伝える。両手がふさがる | 同時通話に対応した無線機、ハンズフリーのヘッドセット |
| 屋外ヤード・出荷場 | 離れた場所の作業者どうしで連携する | デジタル簡易無線、回線を使う方式 |
| 事務所・別の工場との連絡 | 棟や拠点を越えて呼びかける | IP無線・スマホアプリ |
フォークリフトやクレーンの合図には同時通話が安心
労働安全衛生規則第151条の8は、フォークリフトなどの車両系荷役運搬機械等に誘導者を置く場合の規定です。事業者は一定の合図を定め、誘導者に合図を行わせなければなりません。クレーン等安全規則第25条も、運転者が1人で作業する場合を除き、クレーンを使う作業では一定の合図を定め、合図を行う者を指名するよう事業者に求めています。条文はe-Gov法令検索の労働安全衛生規則とクレーン等安全規則をご覧ください。
合図は手や笛で送ることもありますが、運転席から誘導者や荷が見えにくい場面ではインカムも使われます。PTT方式では、誰かが話している間はほかの人が送信できず、止めてほしいときの一言をすぐに伝えられません。同時通話に対応した機種なら、運転者と誘導者が互いの声を聞きながら動きを合わせられます。同時通話の機種を選ぶときは、同時に話せる人数と、方式ごとの対応の違いを確かめておくと、誘導や合図に加わる人数に合う機種を絞れます。
棟・事務所・別の工場をつなぐ
工場の連絡は、ラインの中だけでは終わりません。生産管理や品質保証の担当者は事務所に、設備保全の担当者は複数の棟にいることが多く、無線機の電波が届く範囲にいるとは限りません。離れた相手には内線電話やチャットで連絡することになり、連絡の手段が二重になります。
IP無線やスマホアプリなら、ラインの作業者と事務所の担当者を同じグループに入れ、同じ手段で呼びかけられます。会話を履歴で確かめられるサービスを選べば、騒音で聞き逃した一報や引き継ぎの内容を後から聞き直すことも可能です。
スマートフォンをトランシーバーのように使えるアプリには、LINE WORKSラジャーのようなサービスもあります。インターネットにつながっていれば、棟や拠点をまたいでも距離の制限はありません。背後の騒音を抑えるノイズ抑制機能を備え、普段使いのBluetoothイヤホンや有線イヤホンも使えます。無線機と内線電話に分かれていた連絡を、スマホ1台に集約できます。
防爆エリアがある工場の注意点
爆発のおそれがある場所では型式検定に合格した防爆構造の機器しか使えず、一般のスマートフォンやインカムは使えません。可燃性ガスや粉じんを扱う工場では、労働安全衛生規則第280条から第282条で、爆発の危険のある箇所の電気機械器具が防爆構造のものに限られます。防爆構造の機器は労働安全衛生法第44条の2の型式検定の対象です。
対象になるのは、引火性の物の蒸気や可燃性ガス、可燃性の粉じんなどが爆発の危険のある濃度に達するおそれのある箇所です。防爆構造の電気機械器具は、型式検定に合格した型式であることの表示が付いたものだけを使えます(労働安全衛生法第44条の2、同施行令第14条の2)。
こうした場所では、型式検定に合格した本質安全防爆構造などの無線機を使います。防爆構造のスマートフォンやタブレットも販売されていますが、対応する危険箇所の区分や、使いたいアプリが動くかは、機種ごとの確認が必要です。
防爆エリアが工場の一部に限られる場合は、その区画だけ防爆構造の無線機を使い、ほかのエリアは通常の無線機やスマホアプリにする組み合わせもできます。方式が違う機器どうしはそのままでは直接話せないため、防爆エリアとの連絡を誰が中継するかを決めておくと、連絡が途切れません。
工場見学・視察で使うインカム
騒音の中で見学者に説明を届けるなら、案内役が送信機で話し、見学者が受信機で聞くガイドシステムが使いやすい方法です。生産ラインの近くでは、案内役が声を張っても後ろの見学者まで届きにくいためです。見学者の受信機からは声が送られないので、周りの話し声も案内に混ざりません。
受信機はイヤホン付きで、見学者の人数分そろえれば団体の見学にも対応できます。
見学者からの質問を受けたい場合や、説明役が複数いる場合は、双方向で話せる機種や、複数の送信機を使える機種を選びます。手持ちのトランシーバーを受信専用に設定して見学者に貸し出すのも、一つの方法です。複数のグループを同時に案内する場合や、言語ごとに説明を分けたい場合は、グループごとにチャンネルを分けてください。見学が年に数回なら、レンタルで必要な台数だけそろえることもできます。見学の前に準備しておきたいことは次のとおりです。
| 準備すること | 内容 |
|---|---|
| 見学ルートでの試し通話 | 騒音の大きい場所や設備の陰で、説明が聞き取れるかを確かめる |
| チャンネルの固定 | 見学者に渡す端末はキーロックをかけ、チャンネルが変わらないようにする |
| イヤホンの衛生 | 使うたびに耳に触れる部分を消毒する。使い捨てのイヤーピースを用意する |
| 保護具との併用 | ヘルメットや耳栓を着けるルートでは、一緒に着けられるイヤホンを選ぶ |
| 台数と電池 | 見学者の人数に予備を加えた台数と、電池の残量を前日までに確かめる |
導入の進め方と費用の考え方
試し通話、1つのラインでの試験導入、チャンネルとルールの整備の順に進めると、届かない・使われないといった失敗を防ぎやすくなります。電波の届き方や騒音は工場ごとに違うため、全体に広げる前に自社の条件で確かめる手順です。費用は、無線機は本体の購入、IP無線は毎月の通信料、スマホアプリはユーザー数に応じた月額が中心です。
- 使う場所・人数・連絡の相手を書き出し、デモ機やレンタル、アプリの無料プランで、条件の悪い地点どうしの試し通話をする
- 1つのラインや部署で試験導入し、騒音の大きい時間帯や夜勤でも使えるかを確かめる
- チャンネルの分け方、呼びかけ方、緊急時の連絡、充電と保管の担当を決めてから、ほかのラインへ広げる
チャンネルは、ライン別や、設備保全・品質管理などの部署別に分け、全員が聞く一斉連絡用を1つ設けるのが基本です。細かく分けすぎると必要な連絡を聞き逃すため、ラインリーダーや保全担当は複数のチャンネルを聞けるようにしておくと安心です。
無線機の本体価格は販売各社の目安で、特定小電力が1台1万〜4万円程度、デジタル簡易無線が3万〜8万円程度とされています。デジタル簡易無線には、1台あたり年数百円の電波利用料もかかります。デジタル簡易無線を選ぶ場合は、登録や免許の申請の流れと手数料を試験導入の前に確かめておくと、使い始めが遅れません。
IP無線の通信料は、本体とは別に1台ごとにかかる費用です。スマホアプリで業務用のスマートフォンを新たに配る場合は、端末代も必要です。IP無線やアプリを含めて総額で比べるときは、方式ごとの本体価格と月々の費用の相場をそろえて見ると、方式による差が分かりやすくなります。
よくある質問
インカムとトランシーバーは何が違いますか?
現場ではほぼ同じ意味で使われています。ヘッドセットを着けて話す形をインカム、本体を手に持って話す無線機をトランシーバーと呼ぶことが多いです。トランシーバーにヘッドセットをつなげば、インカムとして使えます。両手を使う作業が多い工場では、工具を持ったまま話せるインカムの形が便利です。
私物のスマートフォンを持ち込めない工場でも、アプリ型のインカムを使えますか?
会社が用意した業務用のスマートフォンなら使える場合があります。業務用の端末は、MDM(モバイル端末管理)で設定や紛失したときの利用停止を会社がまとめて管理できる点が、私物との違いです。スマートフォンそのものを持ち込めないエリアだけ、無線機にする方法もあります。無線機とアプリはそのままでは直接話せないため、両方を持つ人が間をつなぐ運用を決めておくと混乱を防げます。
インカムの導入に補助金は使えますか?
使える場合があります。中小企業・小規模事業者向けのデジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)は、ITツールの導入費用の一部を補助する制度です。申請は、IT導入支援事業者を通じて行います。対象は事務局の審査を受けて登録されたITツールのため、インカムアプリが対象かどうかは提供会社かIT導入支援事業者に確認してください。制度の概要は中小機構「補助金活用ナビ」で確認できます。
まとめ
工場のインカム選びは、電波で直接つなぐ無線機にするか、回線を使うIP無線・スマホアプリにするかを決めるところから始まります。選ぶときに押さえておきたい点は次のとおりです。
- 1棟の中の近い距離は特定小電力、広い敷地や屋外ヤードはデジタル簡易無線、棟や拠点・事務所をまたぐ連絡はIP無線・スマホアプリが目安
- 騒音の大きい場所では、遮音性のあるヘッドセットと口元のマイクを選び、聴覚保護具と両立させる
- 粉塵や水にはIPコード、可燃性ガスなどを扱う場所には型式検定に合格した防爆構造の機器
- 工場見学には、案内役が話して見学者が聞くガイドシステムが使いやすい
方式の候補が決まったら、大型設備の陰や棟の端など条件の悪い場所で試し通話をして、実際に届くかを確かめてみてください。
棟や事務所をまたぐ連絡を1つの手段にまとめたい場合は、スマートフォンをトランシーバーのように使えるLINE WORKSラジャーも選択肢の一つです。フリープランは0円で試せます(会話は40分で一度切断)。有償プランは30日間の無償トライアルがあります。