PHSサービス終了後の代替手段と病院・介護施設の移行ガイド

PHSは、1990年代から2000年代にかけて医療現場や介護施設で広く導入された構内向けの小電力移動体通信システムで、ナースコール連携や内線電話の代替として長く使われてきました。公衆PHSサービスはすでに終了しており、構内PHSは制度上まだ使える状況にあるものの、端末・交換機の保守や部材調達が難しくなりつつあります。   後継手段を比較しようとすると、スマートフォンによる内線化、IP無線、インカムアプリ、業務用スマホとナースコール連携など選択肢が多く、どれが自施設の規模・運用に合うのか判断がつきにくい領域です。この記事では、PHSの仕組みとサービス終了の現状・使い続けるリスク、代替手段の特徴と比較、病院と介護施設それぞれの選び方と移行時のチェックポイントを解説します。

目次

    PHSとは|仕組み・歴史・構内PHSの位置付け

    PHSとは、1.9GHz帯を利用したデジタルコードレス電話規格のことです。Personal Handy-phone Systemの略で、1995年7月にサービスが開始されました。低出力で医療機器への影響が小さいことから、病院の院内連絡手段として広く普及し、医療現場では「ピッチ」という愛称で親しまれてきました。同じ1.9GHz帯を使う設備でも、通信事業者が公衆網として提供していたものを公衆PHS、企業・病院・工場が自前の基地局で運用するものを構内PHS(自営PHS)と呼び分けます。

    PHSの基本的な仕組みと特徴

    PHSは、小型の基地局(セルステーション)を建物内に複数設置して、半径100〜500m程度のエリアをカバーする仕組みです。携帯電話と比較すると送信出力が10mW〜500mWと大幅に低く、医療機器への電磁干渉が極めて小さいのが最大の特徴でした。通話品質は固定電話に近い明瞭さがあり、騒がしい院内でも聞き取りやすいと評価されていました。

    構内PHSは内線電話としても外線電話としても使えるため、ナースステーションにいなくても病棟を移動しながら連絡を取り合えるという運用上のメリットがありました。携帯するだけで、どこにいても呼び出しに応じられる。当時としては画期的な仕組みです。

    1990年代のPHS普及と時代背景

    PHSは1995年に携帯電話の代替として登場しました。携帯電話の料金が高かった1990年代に、通話料・端末代ともに安い新しい連絡手段として若年層を中心に急速に広まり、一時は1,000万契約を超えるまでに拡大します。PHSの90年代は、ポケベルからケータイへと移る過渡期を支えた通信手段の象徴でもありました。

    一方で通話エリアや高速移動時の通信安定性の点で携帯電話に劣る部分があり、2000年代に入ると個人向け市場は縮小に向かいます。公衆PHSは事業者の統合・撤退を経て個人契約が減少し、最後まで残った領域が法人向けの構内システムと医療・業務利用でした。

    病院・介護施設でPHSが主流になった背景

    1990年代後半、携帯電話の電波が医療機器に影響を及ぼすリスクが指摘される中、PHSは低出力ゆえに院内利用が認められた数少ない通信手段でした。これが決定打になり、病院ではPHSが標準的な連絡手段として急速に浸透します。構内PHSは院内を移動するスタッフ同士をつなぐ中核インフラとして位置付けられ、ナースコールの転送先にも用いられました。

    介護施設でも同様に、フロア間の連絡やナースコールの転送先としてPHSが活用されました。固定の内線電話では移動中のスタッフに連絡が取れませんが、PHSなら個人が携帯して巡回中でもすぐ対応できます。特に夜勤帯の少人数体制では、離れた場所にいるスタッフ同士がすぐにつながる手段は欠かせないものでした。

    PHSサービス終了のタイムラインと構内PHSの現状

    PHSのサービス終了は段階的に進みました。ここでは、公衆PHS・法人PHS・構内PHSそれぞれの状況を時系列で整理します。

    時期 出来事 影響範囲
    2021年1月31日 公衆PHSサービス終了(ソフトバンク/ワイモバイル個人向け)[1] 個人向けの公衆PHS通話が不可に
    2021年8月3日 総務省が無線設備規則の一部改正省令を公布・即日施行し、旧スプリアス規格の経過措置を「当分の間」延長[2] 旧スプリアス規格設備の使用期限が暫定的に無期限化
    2022年11月30日(当初期限) 旧スプリアス規格の経過措置の当初期限(省令改正により無効化) 本来はこの日で旧規格設備が使用不可になる予定だった
    2023年3月31日 法人向けテレメタリングプラン等サービス終了[3] IoT用途の公衆PHS回線が利用不可に
    2026年4月(現在) 構内PHSは制度上は継続利用可能 ただし端末・基地局の製造終了で保守面の不安が顕在化

    公衆PHSと法人向けPHSの終了経緯

    外に持ち出して使う公衆PHSサービスは、すでに完全に終了しています。ソフトバンク/ワイモバイルは2021年1月31日に個人向け公衆PHSサービスを終了し(ワイモバイル公式)、2023年3月31日には法人向けのテレメタリングプラン等のサービスも終了しました(ソフトバンク公式)。公衆網を使ったPHS通話・データ通信はもうできません。PHSサービスの終了について情報を集める際は、公衆PHSと構内PHSで状況が大きく異なる点に注意してください。公衆側はすでに終了し、構内側は制度上まだ使えるものの保守面で不透明、という二層構造になっています。

    なお、メーカーが提供する構内PHS(自営PHS)の保守サービスについても順次終了の発表が進んでいます。個別機種の保守期限は各メーカーの公式発表をご確認ください。いずれの場合も、保守終了後は故障時の修理・交換が受けられなくなるため、その時点で事実上の利用期限となります。

    構内PHSはいつまで使えるのか

    結論から言えば、構内PHSは2026年4月時点で制度上は引き続き使用可能です。構内PHSがいつまで使えるかという疑問には、法制度上の期限と、メーカー保守の終了時期の2つに分けて答える必要があります。

    法制度の側では、もともと2022年11月30日で満了する予定だった旧スプリアス規格の経過措置期限が、2021年8月3日に公布・施行された総務省の省令改正により「当分の間」延長されています(総務省 電波利用ホームページ)。この措置により、旧規格の構内PHS設備をすぐに撤去しなければならない状況にはなっていません。とはいえ「当分の間」はあくまで暫定的な表現で、将来再び期限が設定される可能性は残ります。

    一方メーカー保守の側では、構内PHSの端末・基地局は主要メーカーが順次生産・保守の終了を発表しており、こちらが実質的な利用期限を決めると考えた方が現実的です。法制度上は使えても、保守部品が枯渇して修理不能になれば、設備全体が段階的に使えなくなります。各メーカーの最新の保守終了スケジュールは公式発表でご確認ください。

    つまり構内PHSの実質的な利用期限は、施設ごとに導入しているメーカー・機種の保守終了時期で決まります。自施設の構内PHSがいつまで安定運用できるかを把握するには、保守契約の内容と、メーカーが公表している保守終了予定を確認するのが最初の一歩です。

    構内PHSを使い続けるリスク

    端末・基地局の保守部品の入手困難

    すでに大手メーカーはPHS端末の生産を終了しており、バッテリーや液晶パネルなどの消耗品の入手が難しくなっています。中古端末を調達してしのぐ施設もありますが、品質にばらつきがあり、いつまで調達できるか見通しが立ちません。基地局装置についても同様で、設備の老朽化に伴い、ある日突然フロア全体の通信が止まるリスクがあります。

    スプリアス規格への適合と今後の制度変更リスク

    旧スプリアス規格の経過措置は延長されたものの、あくまで暫定的な措置であり、将来的に再び期限が設定される可能性は残っています。仮に猶予期間が設定された場合、新しい規格に適合しない構内PHS設備は使用を継続できなくなります。期限が設定されてから慌てて代替手段を検討すると、選択肢が限られたまま移行を迫られることになりかねません。

    ナースコール連携やシステム更新時の制約

    構内PHSはナースコールシステムと連携して運用しているケースが多く、ナースコールの更新時期にPHS側が足かせになる場合があります。ナースコールメーカーが新機種でPHS連携をサポートしなくなれば、ナースコールの更新そのものが制約を受けます。院内のWi-Fi環境を整備する際にも、PHS用の1.9GHz帯との干渉を考慮しなければならないなど、周辺システムへの影響が出始めています。

    医療現場のPHSとナースコール|病院・施設で何が問題になるか

    PHSの課題が最も顕在化しているのが医療現場です。ここでは医療現場でのPHSとナースコール連携という切り口で、病院・施設が実際に直面している論点を整理します。

    病院でPHSがナースコールの受け口として使われてきた理由

    病院のナースコールは、入院患者がベッドサイドのボタンを押すとナースステーションの親機に呼び出しが入る仕組みが基本です。ここに構内PHSを組み合わせると、親機だけでなく担当看護師が携帯しているPHS端末にも呼び出しが届き、どの場所にいても一次応答が可能になります。この連携によって、ナースステーションに常駐しなくても患者の呼び出しに対応できるようになり、看護動線の効率化に寄与してきました。

    ナースコール親機・中継装置とPHS基地局・PBXの組み合わせは、メーカー間の相互接続で長年運用されてきた実績があります。PHS端末を手放しづらい最大の理由は、このナースコール連携の完成度と現場オペレーションの定着にあります。

    PHS後継でナースコール連携を引き継ぐ選択肢

    ナースコール連携を維持しながらPHSを置き換える場合、主な候補は次の3つです。

    • sXGP端末。PHSと同じ1.9GHz帯を使うためナースコール連携対応機が用意されている
    • DECT方式のデジタルコードレス。操作感がPHSに近く、連携対応製品がある
    • ナースコール一体型システム。メーカー純正の新プラットフォームで一括移行

    いずれもナースコールメーカーと通信システムメーカーの組み合わせで対応機種が決まるため、既存ナースコールの更新時期・連携仕様の可否を早い段階で確認することが大切です。反対に、アプリ型インカム(PTT方式)は直接のナースコール連携こそないものの、応援要請やフロア横断の一斉連絡といった、PHSでは不足していた部分を補う形で導入される例が増えています。

    介護施設の連絡手段としてのPHSと、代替検討のポイント

    介護施設では病院ほど厳密な医療機器の電磁波管理は必要ない一方で、夜勤帯のフロア間連携や見守り時の即時応答が重要になります。構内PHSを導入している施設もあれば、業務用携帯やスマートフォンを併用している施設もあり、形は様々です。

    介護現場でPHSからの移行を検討する際は、ナースコール連携の必要性、施設規模、スタッフのITリテラシー、予算の4点が判断軸になります。小〜中規模の施設であれば、既存スマートフォンを活用できるアプリ型インカムは初期コストを抑えやすく、操作もシンプルなため現場に浸透しやすい選択肢です。ナースコール連携が必要な場合は、ナースコール側の更新サイクルに合わせてsXGPやDECTを検討することになります。

    PHSの代替手段5種の特徴と比較

    PHSからの移行先として現在検討されている代替手段は、大きく5つに分類できます。それぞれ通信方式が異なり、コスト構造や導入のしやすさも違います。まずは全体像を比較表で把握してください。

    代替手段 通信方式 初期コスト 月額コスト ナースコール連携 導入期間目安 向いている施設規模
    sXGP端末 1.9GHz帯(TD-LTE) 低〜中 対応製品あり 3〜6か月 中〜大規模病院
    スマホ内線(クラウドPBX・IP-PBX) Wi-Fi / モバイル回線 機種・システムによる 2〜4か月 中規模以上
    アプリ型インカム(PTT方式) Wi-Fi / モバイル回線 低〜中 直接連携なし(併用運用) 数日〜2週間 小〜中規模(介護施設にも適合)
    デジタルコードレス(DECT方式等) 1.9GHz帯(DECT) 中〜高 対応製品あり 2〜4か月 中規模
    ナースコール一体型システム メーカー独自 / Wi-Fi 低〜中 標準搭載 6か月〜1年 大規模病院(ナースコール更新時に一括導入)

    sXGP端末。PHSと同じ1.9GHz帯を活用

    sXGPは、PHSと同じ1.9GHz帯の周波数を使いながら、通信方式をTD-LTEに置き換えた規格です。既存のPHS基地局の設置場所や配線を一部流用できるケースがあり、大規模な工事なしで移行できる可能性がある点が強みです。

    電波特性がPHSに近いため、医療機器への影響が小さいとされています。通話に加えてデータ通信にも対応しており、電子カルテとの連携など将来的な拡張もできます。ただし、対応端末の種類が限られているのと、基地局装置の導入コストが高めである点は考慮が必要です。大規模病院で、PHS設備の資産を活かしながら段階的に移行したい場合に向いています。

    スマホ内線(クラウドPBX・IP-PBX連携)

    業務用スマートフォンにクラウドPBXやIP-PBXのアプリを入れて内線電話として使う方法です。PHSと同じように1対1の通話ができ、外線の発着信も可能です。Wi-Fiまたはモバイル回線を使うため、PHSのように専用基地局を設置する必要がありません。

    スマートフォンがベースになるので、電子カルテの閲覧やチャット、勤怠管理など通話以外の用途にも広げられます。一方で、通話品質がWi-Fi環境に左右される点や、1対1の通話が前提のため一斉連絡には不向きという面もあります。ある程度のWi-Fiインフラが整っている施設であれば、移行のハードルは比較的低いでしょう。

    アプリ型インカム(PTT方式)

    スマートフォンにPTT(Push-to-Talk)アプリをインストールし、ボタンを押して話すだけで複数人に同時に音声を届ける方式です。トランシーバーの使い勝手をスマートフォンで再現したもの、と考えると分かりやすいかもしれません。

    最大の特長は導入のハードルの低さです。既存のスマートフォンをそのまま使えるため、専用端末の購入が不要で、初期コストを大幅に抑えられます。Wi-Fiやモバイル回線を使うため通信距離の制限がなく、離れた棟やフロア間でもつながります。1対1の通話ではなく、グループ全員に一斉に声が届くので、応援要請やフロア全体への連絡に適しています。

    PHSの内線電話としての使い方とは性格が異なるため、そのまま置き換えるというよりは、PHSでカバーしきれなかった一斉連絡や部門間連携を補う手段として導入するケースが目立ちます。ナースコールとの直接連携はできませんが、ナースコールシステムとは独立して並行運用する形で活用されています。

    PHSライクなデジタルコードレス(DECT方式等)

    DECT(Digital Enhanced Cordless Telecommunications)は、PHSと同じ1.9GHz帯を使う国際的なコードレス電話規格です。操作感がPHSに近いため、現場スタッフが違和感なく移行できるのがメリットです。

    ナースコール連携に対応した製品もあり、PHSの運用をできるだけ変えずに移行したい施設に向いています。ただし、データ通信機能は限定的で、将来スマートフォンベースのシステムに移行する際には改めて入れ替えが必要になります。つなぎの手段としては堅実ですが、長期的な拡張性には限界があります。

    ナースコール一体型システム

    ナースコールメーカーが提供するシステムの中には、スマートフォンやPHS代替端末と一体で提供されるものがあります。ナースコールの呼び出しがそのまま手元の端末に届き、応答・通話・記録までをワンストップで処理できるのが特長です。

    最もシームレスな移行を実現できる反面、初期投資が大きく、導入期間も長くなります。ナースコールシステムの更新サイクル(通常10〜15年)に合わせて一括導入するのが現実的で、PHS単体の代替としては導入のタイミングが限られます。大規模病院がナースコール更新とPHS廃止を同時に計画している場合に有力な選択肢になります。

    病院と介護施設で選び方はどう変わるか

    同じPHS代替でも、病院と介護施設では優先すべき要件が異なります。施設の規模、通信用途、既存インフラの状況によって最適な代替手段は変わってきます。

    判断軸 病院で重視 介護施設で重視 対応しやすい代替手段
    ナースコール連携 必須(呼び出し応答の即時性) あると便利(夜勤帯で特に有効) sXGP、DECT、ナースコール一体型
    医療機器への電磁波配慮 高精度機器エリアで厳格な管理 機器が限定的で比較的柔軟 sXGP、DECT(低出力)
    一斉連絡・グループ通話 急変対応や応援要請で必要 フロア間連携や見守り報告で常用 アプリ型インカム
    導入コスト 設備投資として予算確保しやすい 小規模施設は予算が限られがち アプリ型インカム、クラウドPBX
    ITリテラシー・運用体制 情報システム部門がある施設が多い 専任IT担当がいない施設も多い DECT(操作がPHSに近い)、アプリ型インカム(シンプル操作)

    病院で重視される要件

    病院では、ナースコールとの連携が移行判断の大きな分岐点になります。ナースコールの呼び出しを手元の端末で受けられるかどうかは、看護業務の動線に直結するためです。ICUや手術室周辺など高精度医療機器が集中するエリアでは電磁波の管理も厳格になり、使用できる通信方式が限定されます。

    規模の大きい病院では、sXGPやナースコール一体型を軸にしつつ、病棟間の連絡や部門間の応援要請にはアプリ型インカムを併用する、という複合的な運用も現実的です。全館を一つのシステムでカバーしようとするより、用途ごとに分けたほうが運用コストを抑えやすい場合があります。

    介護施設で重視される要件

    介護施設は病院と比べて施設規模が小さく、ICUのような高精度医療機器の集中エリアもほとんどありません。そのため電磁波に関する制約は比較的緩やかで、スマートフォンベースの代替手段を選びやすい環境にあります。

    一方で、IT専任の担当者がいない施設も多く、システム構築や運用保守に手間をかけられないという現実があります。スタッフの年齢層も幅広いため、操作のシンプルさは重視すべきポイントです。PHSに比較的近い操作感のDECT方式か、ボタンを押して話すだけのアプリ型インカムが導入しやすいでしょう。

    夜勤帯は2〜3名で30人以上の入居者を見守るような体制もあり、離れたフロアにいるスタッフに即座に声が届くことは安全面でも大きな意味を持ちます。厚生労働省も介護分野でのICT活用による生産性向上を政策的に推進しており、連絡手段の見直しはその入口として取り組みやすいテーマです。

    医療機関でスマートフォンを使う際の電磁波の影響

    PHS代替としてスマートフォンベースの手段を検討する際に、必ず出てくるのが医療機器への電磁波の影響です。結論として、近年の調査では適切な運用ルールのもとでスマートフォンを院内利用するリスクは大幅に低下しているとされていますが、個別の確認は引き続き必要です。

    電波環境協議会の調査と総務省の手引き

    電波環境協議会(EMCC)が2020年度に実施した「医療機関における適正な電波利用推進に関する調査」では、近年の医療機器は電磁耐性(イミュニティ)が向上しており、一般的な携帯電話やスマートフォンの電波による誤動作のリスクは以前より低下していることが報告されています(電波環境協議会 医療関係公表資料)。

    総務省が公表している「医療機関において安心・安全に電波を利用するための手引き(改定版)」でも、一律に携帯電話の使用を禁止するのではなく、エリアごとにルールを設けて運用することが推奨されています。たとえば、手術室やICUでは使用を制限しつつ、病棟の廊下やナースステーションでは使用を認める、といったゾーン管理の考え方です。

    施設内の電波環境を整備するポイント

    スマートフォンやWi-Fiを院内で活用するには、電波環境の事前調査が欠かせません。既存の医療テレメーター、無線LAN、構内PHSなどが使用している周波数帯と干渉しないか、建物の構造や壁の材質によってWi-Fiの電波が届きにくいエリアがないか、といった点を確認します。

    実際の導入現場では、院内を歩きながらWi-Fiの電波強度を計測するサイトサーベイを行い、アクセスポイントの配置を最適化するのが一般的です。PHSの1.9GHz帯とWi-Fiの2.4GHz帯・5GHz帯は周波数が近接しているため、同時に使用する場合は干渉に注意が必要です。構内PHSを段階的に廃止していく計画であれば、空いた周波数帯域をWi-Fi環境の拡充に活用できるメリットもあります。

    PHS代替への移行チェックリスト

    PHSから代替手段への移行は、一気に切り替えるのではなく、段階的に進めるのが鉄則です。以下の3フェーズに分けて進めると、現場の混乱を最小限に抑えながら移行できます。

    現状把握フェーズ

    やること 確認内容 目安期間
    PHS端末の棚卸し 台数、稼働状況、バッテリー劣化の程度 1〜2週間
    PHS基地局の現状確認 設置台数、設置場所、メーカーの保守契約状況 1〜2週間
    ナースコールとの連携状況 どのフロア・病棟でPHSと連動しているか 同上
    Wi-Fi環境の現状調査 カバレッジ、帯域、アクセスポイント数 1〜3週間
    PHSの利用シーンの洗い出し 1対1通話、グループ連絡、ナースコール転送、外線発信など用途別の利用頻度 1〜2週間

    この段階で、PHSが担っている役割を全て可視化しておくことが後の選定をスムーズにします。端末台数だけでなく、どんな場面で誰が誰に連絡しているのかまで把握してください。

    選定・比較フェーズ

    やること 確認内容 目安期間
    代替手段の候補絞り込み 前述の比較表を参考に、施設要件に合う2〜3候補を選定 1〜2週間
    デモ・トライアルの実施 実際の現場環境で通話品質、操作性、Wi-Fiカバレッジを検証 2〜4週間
    コスト見積もりの比較 初期費用、月額ランニング、保守費用を5年スパンで比較 1〜2週間
    ナースコールメーカーとの協議 更新時期、新システムとの連携可否、費用感 2〜4週間

    トライアルは必ず実際の運用環境で行ってください。会議室でのデモは通話品質が良くても、病棟の廊下や地下のリハビリ室では電波が届かないというケースは珍しくありません。

    導入・並行運用フェーズ

    やること 確認内容 目安期間
    パイロット導入 1病棟・1フロアなど限定エリアで先行導入 2〜4週間
    スタッフ研修 操作方法、運用ルール、トラブル時の対応フロー 1〜2週間
    PHS並行運用 新旧を併用しながら段階的に切り替え 1〜3か月
    全館展開 パイロットの結果を踏まえてエリアを順次拡大 1〜3か月
    PHS撤去・回線解約 全面切り替え完了後に旧設備を撤去 適宜

    全体で6〜12か月程度を見込んでおくと余裕のあるスケジュールになります。アプリ型インカムのように導入が速い手段であれば、まず一斉連絡だけ先に新システムに移し、内線通話は既存PHSを使い続ける、という段階的アプローチも取れます。

    よくある質問

    PHSとは何ですか?

    PHSとは、1.9GHz帯を使うデジタルコードレス電話規格です。Personal Handy-phone Systemの略で、1995年に日本でサービスが開始されました。携帯電話より送信出力が低く、医療機器への電磁干渉が小さいことから、特に病院の院内連絡手段として広く使われてきました。通信事業者が公衆網として提供する公衆PHSと、企業・病院が自前で基地局を設置する構内PHSの2系統があります。

    PHSはいつ頃流行したのですか?

    PHSは1995年7月にサービスが始まり、1990年代後半に若年層を中心に急速に普及しました。通話料・端末代が携帯電話より安かったことが後押しとなり、一時は1,000万契約を超えるまでに拡大したとされています。2000年代に入ると携帯電話の通話エリア拡大と料金低下に押されて個人向け市場は縮小し、最後まで残ったのが法人向けの構内システムと医療・業務利用でした。

    PHSサービスはいつ終了しましたか?

    個人向けの公衆PHSサービスは2021年1月31日に終了しました。法人向けのテレメタリング等のサービスは2023年3月31日に終了しています。外に持ち出して使う公衆網のPHSはすでに利用できません。一方で、企業・病院が自前で運用する構内PHS(自営PHS)は制度上引き続き使用可能ですが、メーカー各社の保守終了が順次発表されているため、安定運用できる期間は年々短くなっています。

    構内PHSはいつまで使えますか?

    2026年4月時点では、構内PHSの使用期限は法制度上は設定されていません。旧スプリアス規格の経過措置は総務省の省令改正により「当分の間」延長されています。ただし実質的な利用期限は、端末・基地局メーカーの保守終了時期で決まります。保守部品が供給されなくなれば故障時に修理できなくなるため、自施設の機種の保守終了スケジュールを各メーカーの公式発表で確認し、そこから逆算して移行計画を立てるのが現実的です。

    ナースコールとPHSの連携はどう引き継げますか?

    ナースコール連携を維持したまま移行する場合、sXGP端末、DECT方式のデジタルコードレス、ナースコール一体型システムの3つが主な候補です。いずれもナースコールメーカーと通信システムメーカーの組み合わせで対応機種が決まるため、既存ナースコールの更新時期・連携仕様の可否を確認することが出発点になります。ナースコール直接連携ではなく、応援要請や一斉連絡の補完としてアプリ型インカム(PTT方式)を並行運用する施設もあります。

    PHSの「ピッチ」とは何ですか?

    ピッチは、PHS端末の通称です。語源はPHSの発音を短縮したもので、特に病院の現場で広く使われていました。院内の連絡手段としてPHSが定着した1990年代後半から自然に広まった呼び方で、正式名称ではありません。

    構内PHSが使えなくなる具体的な期限はありますか?

    2026年4月時点では、使えなくなる期限は設定されていません。旧スプリアス規格の経過措置が総務省によって「当分の間」延長されており、制度上は継続利用が認められています。ただし端末や基地局の製造は終了しているため、保守部品の枯渇により実質的に使用が困難になるリスクは年々高まっています。

    PHSの代替にはどのような通信方式がありますか?

    主な代替手段として、sXGP端末、スマートフォン内線(クラウドPBX・IP-PBX連携)、アプリ型インカム(PTT方式)、デジタルコードレス(DECT方式)、ナースコール一体型システムの5種類があります。それぞれ初期コスト、ナースコール連携の可否、導入期間が異なるため、施設の規模や用途に応じて選ぶ必要があります。

    スマートフォンの電磁波は医療機器に影響しますか?

    電波環境協議会(EMCC)の2020年度調査によると、近年の医療機器は電磁耐性が向上しており、一般的なスマートフォンの電波によるリスクは以前より低下しています(電波環境協議会 医療関係公表資料)。ただし、ICUや手術室などでは引き続き使用制限が必要とされており、施設ごとにゾーン管理のルールを設けて運用することが推奨されています。

    PHS代替の移行にはどのくらいの期間がかかりますか?

    施設の規模と選ぶ代替手段によりますが、現状把握から全館展開まで6〜12か月が一般的な目安です。アプリ型インカムのように既存スマートフォンを活用する方式であれば数週間で導入可能な一方、ナースコール一体型やsXGPは設備工事を伴うため半年以上かかるケースもあります。

    まとめ

    PHSサービス終了後の代替手段について、ここまでの内容を整理します。

    • PHSは1995年に始まった1.9GHz帯のデジタルコードレス電話規格。1990年代後半に急速に普及し、医療現場では院内連絡手段の定番となった
    • 公衆PHSは2021〜2023年に段階的に終了済み。構内PHSは制度上は利用可能だが、メーカー保守の順次終了で実質的な利用期限が近づいている
    • 代替手段はsXGP、スマホ内線、アプリ型インカム、DECT方式、ナースコール一体型の5種。施設規模・ナースコール連携の要否・コスト感で選ぶ
    • 病院では電磁波管理とナースコール連携が最優先。介護施設では導入の手軽さと操作のシンプルさを重視
    • 移行は3フェーズ(現状把握→選定・比較→導入・並行運用)で段階的に進めるのが安全

    すべてを一つのシステムに統一する必要はありません。たとえばナースコール連携にはsXGPやDECTを使いつつ、部門間の一斉連絡にはアプリ型インカムを併用するといった組み合わせも、多くの施設で取られている現実的なアプローチです。

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