北海道南西部に位置する安平町(あびらちょう)では、町長を始めとする外勤者と役場との連絡手段が電話のみであったため、情報共有がスピーディに行われないという課題がありました。また、スケジュールは役場内でしか確認できない環境にあり、職員は場所に縛られた働き方を強いられていました。これらの課題を解決するために、安平町は2021年10月からLINE WORKSを本格導入。情報の分類を3段階に設けた機密レベルの中で、最も機密性の低い情報に限ってLINE WORKSを使い、安全性を確保した環境での運用により、全職員が社会の変化のスピードに適応したまちづくりの対応を実現しています。
本事例のポイント
- 町独自の情報取扱規程を設け、LINE WORKSで安全にやり取り
- スケジュールの可視化で職員の業務量把握および日程調整が簡便に
- 紙資料をデジタル化し、ペーパーレス化および業務時間短縮を実現
北海道安平町の特長を教えてください。
及川町長:
北海道南西部に位置する安平町は、北海道一の木炭生産や日本初のチーズ生産への取り組みなどの実績を誇る早来町(はやきたちょう)と、鉄道の要衝として発展してきた追分町(おいわけちょう)が2006年に合併して誕生した町です。人口は2023年6月末時点で約7,300人です。
現在、安平町では鈴木直道知事も掲げるエネルギー・デジタル・食の3分野に注力した取り組みを実施しています。デジタル分野においては、DX推進計画を策定し、例えば地域住民の移動ニーズに応じたMaaS(マース:Mobility as a Service)タウンの調査・研究などに取り組んでいます。また、2025年4月には次世代半導体の国産化を目指して設立されたRapidus(ラピダス)の工場がお隣の千歳市にて稼働開始される予定です。これは安平町にも大きな経済効果が期待されています。
LINE WORKS導入に至る経緯を教えてください。
及川町長:
2020年の秋から、安平町・厚真町・むかわ町の3町で、LINE WORKSの試験運用を開始しました。この試験運用の背景には、2018年9月に発生した北海道胆振東部地震に関する記録紙作成プロジェクトが始まったことがあります。このプロジェクトに取り組むため、被災地である3町の職員と受託事業者の4者が連絡を取る手段として、LINE WORKSが選ばれました。試験運用期間でLINE WORKSが外出先でも使いやすい便利なツールとして認識されたため、2021年10月に正式にLINE WORKSを導入することになりました。
LINE WORKS導入以前は、どのような課題を抱えていましたか。
塩月さん:
安平町では、総務省が推進する自治体のセキュリティ強靱性向上モデルに基づいて、IT環境と体制の整備を進めています。しかし、このセキュリティ強化の結果、職員の皆さんには業務に制約が生じてしまいました。例えば、システムに登録する職員のスケジュール管理に関して、外出先や自宅など役場外から予定を入力・確認することができず、役場内のネットワーク環境で行う必要がありました。その結果、職員は外出中に一旦手帳に予定を書き留め、後日役場に戻ってからシステムに入力する手間や、外出先で予定が確認できない不便さがありました。さらに、スケジュールの入力時間差により、ダブルブッキングの問題も発生していました。
こうした制約により、町長・職員は「役場に行かなければ業務が進まない」という空間の制約を受ける働き方を強いられていました。
及川町長:
現在の自治体運営は、社会の変化に対応するスピード感が求められているのは言うまでもありません。しかし、LINE WORKSを導入する前は、外勤時の役場との連絡手段が1:1の電話しかなく、情報共有にも制約がありました。このままではスピード感のある対応や円滑なコミュニケーションが難しいと感じていた安平町としては、連絡手段とIT環境を変える必要性を強く意識していました。
LINE WORKS利用時のルールについてご説明ください。
及川町長:
新たなツールを導入する際は、自治体としてセキュリティ面を配慮することが当然です。そのため、安平町では「安平町情報セキュリティ対策実施要綱」で規定される情報分類レベルA・B・Cのうち、最も機密性の低いレベルCの情報のみをLINE WORKSでやり取りするルールを定めました。レベルAは超機密情報、レベルBは機密情報、そしてレベルCはそれ以外の情報という区分です。例えば、公知となる企画書やスケジュール情報などがレベルCに該当します。こうして情報の種類を規定することで、セキュリティ面のハードルをクリアし、自治体でのLINE WORKS利用を実現しました。
塩月さん:
レベルCのさまざまな情報は、職員個々のツールで管理されるリスクがあります。例えば、スケジュールは個人のGoogleカレンダーで管理されたり、企画書は担当者どうしの個人LINEでやり取りされることも考えられます。そうであればいっそのこと、オフィシャルなコミュニケーションツールとしてLINE WORKSを導入し、同ツールで情報のやり取り・管理を統一する方がより安全なのではないかと考えました。なお、職員はBYODでLINE WORKSを利用しています。
LINE WORKSの具体的な活用や導入効果について教えてください。外出時の情報共有やペーパーレス、業務時間の短縮につながったそうですね。
及川町長:
私は、職員の中で一番LINE WORKSを使用しているかもしれません(笑)。私の仕事柄、役場を留守にすることが多く、外出先からLINE WORKSを使って各種情報発信や収集をしています。
実は昨日、町内に熊が出没したので、グループトークを使ってすぐに職員に状況を共有しました。また、成人式など町のイベントで職員から会場準備の様子の写真が共有されると、「ここはこうした方が良いのではないでしょうか」と私から提案することもあります。
また、SNS発信のための情報や写真もLINE WORKSで職員から収集しています。SNS発信は時間との勝負です。LINE WORKSは視認性・操作性にも優れているため、外出先でもグループトーク上に寄せられた写真を選んで、すぐにSNSに投稿することができています。これは電話やメールではできない、気軽に連絡を取り合えるLINE WORKSならではだと思います。
木村さん:
町長・副町長への事前説明や各種打ち合わせに使用する資料は、LINE WORKSのグループトークを使い、PDFやPowerPointなどのファイル形式で送付しています。以前はこれらの資料を紙で配布していましたが、現在はグループトークで事前に資料を共有し、町長や副町長がご自身で資料を読み込んで準備いただけるため、説明時間を短縮できるようになりました。
お互いのスケジュールが可視化され、予定の確認や日程調整がスムーズになったそうですね。
郡さん:
町長だけでなく、職員もスケジュールはLINE WORKSのカレンダーで管理しています。外出先でもお互いのスケジュールが可視化されたことで、日程調整が格段に楽になり、さらに各職員の仕事量も把握できるようになりました。
及川町長:
私は20年以上にわたり、スケジュール管理のために手帳と役場のシステムを併用してきましたが、現在はLINE WORKSのカレンダー機能にすべてまとめることができ、非常に効率化しました。
部署を横断したプロジェクトチームや地域おこし協力隊の方ともLINE WORKSを活用しているそうですね。
及川町長:
千歳市に建設されるRapidusプロジェクトに関するやり取りのため、チーム「ラピダス」というグループを立ち上げ、迅速にプロジェクトに関する連絡やコミュニケーションを取ることができています。
郡さん:
私は移住定住支援担当として、密にやり取りがある地域おこし協力隊の皆さんにも安平町のLINE WORKSのアカウントを付与し、グループトークで企画書や業務連絡のやり取りをしています。
地域おこし協力隊ともグループトークで、スピード感を持ってやり取りができている
このようにLINE WORKSを活用することで、企画のまとまるスピード感が早くなったと感じています。それは、LINE WORKSでは「お世話になっております」「どうぞよろしくお願いいたします」といった定型文の記載なく主題の要件にはいれますし、過去の情報も検索しやすくなって効率的になりました。
LINE WORKSはイメージ的には電話とメールの中間くらいの立ち位置です。地域おこし協力隊とも気軽なコミュニケーションを実現できています。
LINE WORKS活用について、今後の展望を聞かせてください。
及川町長:
LINE WORKSによる迅速なコミュニケーションの有効性は日々感じているところです。今後は、LINE WORKSのトーク画面を大型モニターに映し出すなど、情報共有・発信のやり取りを見える化する予行演習を行うといった、BCP対策ツールとしても活用したいです。
安平町議会でも2024年3月よりペーパーレス化を推進する予定です。色々な場面でLINE WORKSを利用したら、情報共有がよりスムーズになると思います。これらの動きを含め、引き続き、安平町が掲げるDX推進にLINE WORKSを活用していく予定です。
【お話を伺った方】
安平町長
及川 秀一郎さん
安平町長2期目。
総務課 情報グループ 主査
塩月 達也さん
情報システム関連の業務に従事。
政策推進課 政策推進グループ 課長補佐 グループリーダー
木村 誠さん
総合計画の策定・進捗管理や企業誘致等を担当。
政策推進課 政策推進グループ 主事
郡 宏夢さん
移住定住支援担当を務める。
※掲載している内容、所属やお役職は取材を実施した2023年7月当時のものです。