これまで利用してきたグループウェアをLINE WORKSにリプレースした北海道の美瑛町。メールをはじめとする情報のやりとりが迅速になり業務効率が図られました。自然災害が発生した際は、現地で撮影した被害状況の写真を関係者が瞬時に共有する体制を整え、以前より迅速な対応が可能になりました。同町の成澤さん、沼尻さんに、自治体としてのLINE WORKSの使い勝手や、今後の活用に関する展望をお話しいただきました。
本事例のポイント
- 災害時、現場に赴く職員との情報共有は必須。クラウドのグループウェア導入を決断
- 大容量ファイルの送受信時におこるネットワーク全体の遅延が解消。さらにサーバー運用の手間から開放
- トークは端的な要件のみ伝達、グループトークは必要なメンバーに即座に伝達でき、業務速度向上にも貢献
皆さんの主な業務内容をご紹介ください。
成澤さん :
総務課の情報管理係長として、職員が使用する情報系ネットワークをはじめとするITインフラの整備と維持管理を担当しています。
沼尻さん :
主に総務課の情報担当スタッフとして、過去にIT企業で働いた経験を生かしながら、情報管理、情報発信等の業務を担当しています。
LINE WORKS導入以前はどんな課題がありましたか。
成澤さん :
美瑛町ではこれまで、無償のグループウェアを使用しており、約240名いる職員間の業務連絡には、そのグループウェアの「ショートメール」機能で連絡を取っていました。その他カレンダー、外部とのメール、施設予約、全職員に情報を周知する掲示板などの機能も使っていました。
機能性に優れており、特に大きな問題もなく運用が出来ていましたが、年々文書の電子化が進み、ドキュメントファイルのやり取りが大幅に増加したことで、膨大なデータの処理にシステムが対応できない状況となりました。無償提供のグループウェアでは機能に限界があったことに加え、オンプレミスで運用していたサーバーが老朽化していたこともあり、データのやり取りが増えるとシステム・ネットワーク全体が遅くなり業務に支障をきたしていたのです。
沼尻さん :
2016年の夏に台風が相次いで北海道に上陸し、美瑛町でも川が増水して橋が流されるなどの被害が出ました。職員は、現場に赴いて携帯電話やデジカメで被害状況の写真や動画を撮影しますが、共有するには一度職場に戻る必要がありますし、職場のPCに取り込むにも、職場専用カメラであればカードリーダーを使い読み込めますが、私用の携帯で撮影したデータを職場のPCに取り込むことはセキュリティ上できません。迅速な対応をするため、災害現場で撮影した画像を、セキュアかつリアルタイムに役場の災害対策本部へ送信できる環境を構築する必要がありました。
そういったタイミングで、総務省から行政機関専用のネットワーク(LGWAN)と、外部につながるインターネットとを分ける「ネットワーク分離※」の指示通達があったのです。グループウェアはどちらで運用するか検討した結果、いざという時のための情報連絡がスムーズに行えるインターネットのクラウドシステムが良いという判断になりました。
さらに美瑛町にある十勝岳は、数10年の周期で噴火していることから、今後起こりうる災害に向けたBCP対策の一環として、職員間のコミュニケーション環境を整備することも急務でした。
LINE WORKSを選ばれた理由と、運用開始までの流れを教えてください。
沼尻さん :
2016年秋頃から新しいグループウェアを検討し始めました。「もっと操作の簡単なツールはないか」「すべての職員に浸透するか」という面でリサーチし、目にとまったのがLINE WORKSだったのです。
成澤さん :
LINE WORKSは、ネットワーク分離後のインターネットでグループウェアを使用する際の要件を満たしていました。無料トライアルを試した結果、LINE WORKSには必要十分な機能がシンプルに搭載され、操作性にも優れているため、普段の業務連絡から災害時の対応まで幅広い場面での活用が期待できました。また、国際認証を取得しているセキュリティ(暗号化通信)の高さも評価し、上長とも協議して採用に至りました。
その後、各課の係長職を集めた「情報戦略推進委員会」の場で、LINE WORKSを導入することを説明し、2017年5月に運用を開始。自治体のネットワーク分離が行われた同年6月末までは既存のグループウェアと併用しながら、職員に慣れてもらう移行期間を設けました。
多くの職員がLINEの操作に慣れていたこともあり、LINE WORKSはスムーズに定着しました。使用方法については簡易マニュアルを作成してホームに掲示し、カレンダーで別部署の職員の日程を確認する方法や迷惑メールの指定解除法など、よくありそうな疑問への対処法を紹介しています。大半の疑問がそこで解決しているためか、情報管理係に質問が寄せられることはほとんどありません。
LINE WORKSの利用環境を教えてください。
沼尻さん :
ネットワーク分離後、係長職以上の職員のみPCを貸与しています。それ以外の職員は、約20の部署に1台ずつ配布した共用のノートPCで利用しています。モバイル利用に関しては、自治体としてセキュリティ上の観点から、指紋・顔認証精度の高い端末のみに限定し、一部の職員がBYODで利用しています。災害時などの現場確認や外出先で連絡するために貸出用として、LINE WORKSアプリをインストールしたスマホ2台とタブレット3台を共用しています。
LINE WORKSの具体的な活用シーンとその効果についてお聞かせください。
成澤さん :
旧来のグループウェアで使用していた機能のすべてがLINE WORKSに置き換わり、導入前の最大の課題だった、容量の大きいファイルの送受信時にネットワーク全体の動きが遅くなるという状況が解消されました。サーバー運用の手間から開放されたことも、管理者にとっては大きなメリットです。
沼尻さん :
旧来のショートメール機能では、都度件名を入力する必要があり、文面も形式的になりがちでしたが、トークなら端的に要件のみを伝えることができます。スタンプも利用でき、以前より気軽に連絡を取れるようになったので、職員間のコミュニケーション活性化に役立っています。また、ショートメールは送信先のグループを作成できず、複数の職員への送信時にその都度個人の宛先を選択する必要がありましたが、LINE WORKSはグループが作れるため、別の要件で同じメンバーに連絡したい場合、すでに存在しているグループに即座にトークを送れるので、業務速度の向上にも貢献度が高いと考えています。
成澤さん :
旧来のグループウェアでは、全職員への通達を掲示板に投稿し、その旨をメールで伝えていましたが、メールの件名だけ見て自分に無関係と判断したら閲覧しなかったためか、掲示板へのアクセス率があまり高くありませんでした。LINE WORKS導入後は、通達をホーム(掲示板)にアップしたことを全職員にトークで概要を通知しており、トークから直接ホームにとべるため、ホームへのアクセス率が倍増するなど、情報の周知徹底にも役立っています。
災害対策としてはどのように活用されていますか。
成澤さん :
美瑛町には農地が多く、大雨が降ると畑の土砂が道路に流出することがあるので、建設水道課のパトロール担当者が見廻り、必要な場所に土のうを設置したりします。2017年夏の台風襲来時には、パトロール担当者がLINE WORKSアプリが入ったスマホを携行して、作業結果の写真をその場で共有しました。以前であればデジカメの画像を役場に戻ってから確認し、作業に不完全なところがあると再度現場に戻りやり直さなければなりませんでしたが、LINE WORKSのトークで写真が瞬時に共有され、責任者の指示がすぐに出されるので、迅速な対応が可能になりました。
LINE WORKSの活用を、今後どのように発展させていくお考えですか。
成澤さん :
チャットのように情報が流れず、グループメンバーで蓄積しておきたいメモを共有できるノートや、ファイル共有ができるDriveなど、LINE WORKSに備わる豊富な機能を有効活用したいです。職員の要望に応じて、LINE WORKSを使えるPCの増設も検討する予定です。
美瑛町では毎年十勝岳の噴火を想定した防災訓練を実施しており、今年はドローンで撮影した十勝岳の映像を、Skypeで役場の災害対策本部に流すという試みを行いました。今後の防災訓練ではLINE WORKSのビデオ通話機能と画面共有機能を使って十勝岳のドローン映像を流すべく検証を行っています。
沼尻さん :
災害対策においては地域の行政が協力し合うことが不可欠なので、できれば近隣自治体にもLINE WORKSを導入していただきたいと思っています。外部のLINE WORKSユーザーとトークできる外部トーク連携機能を使えば、より密な情報連携が可能になるはずです。
※自治体のネットワーク分離
マイナンバー利用事務系、LGWAN(総合行政ネットワーク)接続系、インターネット接続系の各ネットワークを分けること。ウィルス感染の恐れがあるインターネット接続系を、マイナンバー情報などを扱うネットワークやLGWAN接続系から切り離すことでセキュリティを担保する
※掲載している内容、所属やお役職は取材を実施した2019年9月当時のものです。