神奈川県の箱根で9施設の旅館・ホテルを運営する株式会社一の湯は、全社を結ぶグループウェアとしてLINE WORKSを導入しました。電話・メール・FAXで行っていた連絡をトークに置き換えて従業員間のコミュニケーションを円滑にすることで、温泉設備の故障発生といった緊急事態にも即応できる体制を整備。Drive、掲示板、アンケート、IoTシステム「Gravio*」とのAPI連携など、トーク以外の機能も有効に活用することでさまざまな業務の生産性を向上させ、サービスの質を高めることにつなげています。
本事例のポイント
- 本社や施設間で行われていた電話・メール・FAXなど既存の連絡手段を一本化
- 多彩なLINE WORKSの機能の活用でグループウェアとして運用
- IoTソリューション「Gravio」との連携でフロント業務を合理化
御社の事業内容をご紹介ください。
今泉さん :
当社は1630(寛永7)年創業の「一の湯本館」をはじめとする9施設の温泉旅館・ホテルを、神奈川県の箱根エリアに展開しています。幅広い層のお客様に温泉での滞在を気軽に楽しんでいただくため、歴史ある老舗ながら高級路線を取らず、比較的リーズナブルな価格設定をしているのが特色です。
大野さん :
高品質なサービスを安価に提供できるのは、旅館業では珍しいチェーンストアの手法を採り入れ、経営活動を本社に集中させることで効率化を図っているからです。近年は業務生産性をさらに高めるべく、業務マニュアルの電子化などにも積極的に取り組んでいます。
LINE WORKSの導入前はどのような課題に直面していましたか。
今泉さん :
当社は従業員の勤務する店舗を固定せず、稼働状況などと照らして日ごとに配置することで人員の運用を最適化しています。9施設は離れた場所にあり、従業員は館内の各所を動きながら業務をするので、本社と従業員、あるいは同一店舗内の従業員間でコミュニケーションを取りづらいのが課題でした。主な連絡手段は固定電話と各店舗の共用PCを使ったメールで、これでは特定の従業員または複数人に向けたタイムリーな情報共有ができません。また、短時間のパートタイマーや短期間勤務の派遣社員にはメールアカウントを付与していないので、会社からの通達を全従業員に周知することも困難でした。
大野さん :
各店舗が特に困っていたのは、温泉設備の故障といった緊急時に保守を担当する従業員とスムーズな意思疎通ができないことでした。メールはいつ読んでもらえるか分からず、電話による口頭での説明では状況を十分に伝えられず、設備に不具合が生じたときの早期対処に影響がありました。
また、箱根は夏季の豪雨や冬季の降雪などで交通に影響が出やすく、お客様が店舗に来られるのが困難だと判断されるとキャンセル料不要で、本社にて宿泊の取り消しに応じます。本社の判断は該当する店舗にその旨をFAXで伝えていたため、お客様からのお問い合わせへの対応に追われている従業員が気づきにくいという問題もありました。
課題解決の手段としてLINE WORKSを選ばれた理由と、運用開始までの経緯をお聞かせください。
今泉さん :
誰もが使いやすいコミュニケーションツールとして定評のあるLINE WORKSに興味を持ち、2020年9月に100名まで無料で使えるフリープランを導入しました。9施設を3つのエリアに分けて試用したところ、トーク機能だけでもコミュニケーションが十分に活性化し、業務効率化につながることが確認されたので、同年11月にベーシックプラン(現・アドバンストプラン)に移行。社員間の連絡は原則としてLINE WORKSで行うルールを策定し、社員どうしのメールによる連絡を廃止しました。有料版に切り替えたのはDriveやメール機能なども活用したかったからですが、従業員に「利用料に見合うだけの業務効率化を図ろう」という意識を持ってもらう狙いもありました。
店舗や職種などのグループを作成し、電話やメールで行われていた業務連絡をトークに置き換えることでコミュニケーションの効率化を図った
必要に応じて短期間勤務の派遣社員や短時間勤務のパートタイマーにアカウントを発行したり、退職者に対しても会社との間でしばらくやり取りする必要がある場合に、他の機能を停止してトークだけ使えるようにするなど、管理者権限で細かな利用設定ができるのが便利です。
LINE WORKSのグループトークは本社や店舗におけるコミュニケーション促進にどう役立っていますか。
・温泉設備のトラブル発生の周知や不具合の状況の共有が迅速に
・悪天候時に本社から指示される対応方針が全スタッフに速やかに行き届く
・在宅勤務者とのコミュニケーション手段としても活用
大野さん :
温泉設備などにトラブルが発生した場合、保守担当者や関係者が所属するグループにトークで報告すると、いち早く気づいたスタッフや問題の設備の近くにいるスタッフが「自分が確認します」と手を挙げてくれます。電話と違い1対多で情報をやり取りできるチャットだからトラブルの早期対応が可能になりました。不具合の状況を示す写真や動画もその場で共有できるので、的確な指示も素早くできるようになりました。
悪天候時の宿泊キャンセルに関する通達もFAXではなくトークで行うことで、店舗のスタッフ全員が本社からの指示をリアルタイムにキャッチします。その結果、お客様に間違いのない対応ができるようになりました。雪や大雨による店舗周辺の道路状況も、各店舗から写真や動画で共有してもらうことで、お客様からの問い合わせにもいち早く状況をお伝えできるようになりました。
今泉さん :
以前は従業員の日ごとの勤務シフトの周知や、急なシフト変更の代わりを手配するのに手間がかかっていましたが、今ではトークで簡単に共有や手配ができるようになりました。
大野さん :
非常時以外の従業員間の連絡も、以前とは比較にならないくらい円滑になりました。わざわざ電話やメールで伝えるほどではないちょっとした報告や相談も、トークなら気軽に発信できます。チャットならではの上下関係を気にしないフラットなコミュニケーションが促進され、「報連相」が活性化し、サービスの品質向上にもつながっていることを感じています。
今泉さん :
家庭の事情で北海道に帰郷した従業員には、宿泊予約への対応やコールセンターなどの業務をテレワークで続けてもらっています。接客などと違い、遠隔でもできる仕事であるとはいえ、円滑に業務を遂行するには本社の社員との緻密な意思疎通が欠かせません。電話やメールによるコミュニケーションは煩雑ですが、トークによるやり取りなら手軽に行えます。LINE WORKSは、テレワークの実施が難しいと考えられている宿泊業界で働き方改革を推進する手段ともなり得るのではないかと思っています。
AI搭載IoT統合エッジウエアGravio*とLINE WORKSの連携による店舗の業務効率化も推進されているそうですね。
今泉さん :
フロントを担当するスタッフは、持ち場を離れて別の業務を行うことがあります。フロントが無人のときに到着されたお客様には呼び鈴を押してもらっていましたが、それではスタッフが駆けつけるまでお客様をお待たせすることになってしまいます。そこで、IoTシステムをノーコードで構築できるアステリア社のGravioを導入し、人感センサーを玄関に設置してお客様の来訪を感知すると従業員のLINE WORKSにBotが通知する仕組みを構築しました。通知を受けたスタッフが先回りしてお客様をお迎えできるようになり、人員の運用を合理化しながらサービス品質を高められたことに満足しています。
大野さん :
バルブの開閉など、温泉施設の設備は一定の周期で正しく制御操作をしないと故障の原因となり、お客様に温泉を提供できなくなったり、膨大な水道費・光熱費がかかる可能性があります。これまでは操作漏れをチェックする仕組みがありませんでしたが、Gravioはその課題を解決するのにも活用しています。
今泉さん :
温泉設備のそばにGravioのワイヤレスダブルスイッチを設置し、制御操作をしたスタッフがそのスイッチを押すルールとしました。スイッチが押されたことはGoogleスプレッドシートに自動で記録されます。毎日スプレッドシートをプログラムでチェックして、記録が残っていなければ担当者のLINE WORKSに通知する仕組みを構築することで、操作の漏れを効果的に防げるようになりました。
グループウェアとしてLINE WORKSはどのように活用していますか。
大野さん :
業務マニュアルや共有資料、社内申請用のフォーマットなどをクラウドストレージのDriveに保存することで、必要な情報や書類に素早くアクセスできる環境を整えました。社外秘の重要な資料は部門長など責任者だけが閲覧できるよう制限をかけたDriveに置くことで、セキュリティ対策も施せます。
業務マニュアルや就業規則の変更など、会社からの通知・通達は掲示板にアップすることで素早く周知できるようになりました。
アンケートは従業員の意見を聴取するのに利用しています。カレンダーはメンテナンスのための休館予定などを全従業員で共有するほか、Web会議システムなどを共有設備として登録することで、予約や確認を簡単にできるようにしました。
社外との連絡には、外部トーク機能やメール機能を活用しているそうですね。
今泉さん :
Webサイトの制作会社との連絡を容易にするため、社外のLINE WORKSやLINEと安全につながれる外部トーク連携も活用して、制作にかかわるデータのやり取りや打ち合わせ日時の調整などを迅速に行っています。
LINE WORKSのメールは、取引先からメーリングリストにメールを送ってもらうことで、当社のメンバーがその取引先とのやり取りの内容を速やかに共有するのに活用しています。LINE WORKSのアカウントを取得するとメールアドレスも自動的に発行(アドバンストプランのみ提供)されますし、メールアカウントの管理を別で行う必要がないのは管理者にとって大きなメリットです。
LINE WORKSの活用を今後どのように発展させたいとお考えですか。
今泉さん :
コミュニケーションを一元化して業務生産性を向上させるグループウェアとして、引き続き有効な活用法を多角的に模索するつもりです。清掃回数を最適化するためトイレのドアにドア開閉センサーを取り付けたり、レストランで快適な温度管理をするための温湿度センサーを設置したりしてGravioでデータを収集していますが、今後はそうしたデータがLINE WORKSにBotで自動通知される仕組みも構築することを検討したいと思います。
【お話を伺った方】
今泉 正行さん
組織開発部長として人事業務などを担当。LINE WORKSの導入を推進し、運用後の管理も担う。
大野 正樹さん
店舗運営本部長として、箱根に展開する9施設の旅館・ホテルの運営を管理する。
※掲載している内容、所属やお役職は取材を実施した2023年3月当時のものです。
*Gravio…アステリア社が提供する、ノーコードで汎用的なカメラや各種センサーなど、様々なデバイスとのシステム連携を容易に実現できるIoT統合ソフトウェア。詳しくはこちら