介護DXの最初の3ステップ|ICT導入で現場の負担を減らす進め方

介護DXは、介護現場の記録・見守り・ナースコール・通信といった業務プロセスをICTで見直し、人手に依存してきた作業を省力化しながら、利用者へのケアの質を高めていく取り組みの総称です。夜勤帯の見回りや申し送り、複数部屋に対する呼び出し対応、紙の記録の二重入力など、構造的に負担が集中しやすい業務を技術で少しずつほどいていく領域です。


着手範囲を決めようとすると、見守りシステム・スマホ連携ナースコール・記録ソフト・通信ツールが混在して語られ、どこから手をつければいいのか見えにくい状況でもあります。この記事では、介護DXの全体像と最初に取り組む3ステップ、見守り・ナースコール・フロア間連絡それぞれの進め方、活用できる補助金とつまずきやすいポイントまでを紹介します。

目次

    介護DXとは何か

    介護DXとは、介護現場の業務プロセスをデジタル技術で見直し、職員の負担軽減と介護の質の両立を目指す取り組みです。単にソフトウェアを導入することではなく、紙と口頭で成り立っていた情報の流れを、デジタルで一元化・可視化していく活動全体を指します。

    厚生労働省は「介護分野の生産性向上」施策の中で、ICTや介護ロボットの活用による職員の負担軽減と介護の質向上を重点的に支援しています(厚生労働省「介護分野における生産性向上の取組の推進について」)。背景には、中小企業庁の2025年版中小企業白書も指摘する構造的な人手不足があり、介護業界はその影響を最も受けやすい領域の一つです。

    介護DXで変えられる4つの領域

    現場の業務を俯瞰すると、デジタル化の余地は大きく4つの領域に分けられます。どれか一つだけを導入しても効果は限定的で、組み合わせて初めて負担感が変わるのが実態です。

    領域 対象業務 代表的なツール 導入のしやすさ
    記録・情報共有 介護記録、ケアプラン、LIFE連携、請求 介護記録ソフト、タブレット端末 中(運用設計が必要)
    見守り 居室の状態確認、離床・転倒検知、睡眠計測 見守りセンサー、カメラ型見守り 中(機器設置あり)
    ナースコール 入居者からの呼び出し対応、職員への通知 ナースコール設備、スマホ連携端末 高〜中(既存設備と接続)
    通信・連絡 フロア間連絡、申し送り、夜勤帯の呼び出し インカム、トランシーバーアプリ、業務チャット 高(スマホで始めやすい)

    よく誤解される「介護DX=ロボット導入」ではない

    介護DXと聞くと、介護ロボットや最新テクノロジーを想像する方もいます。厚生労働省の重点分野にロボットが含まれるのは事実ですが、実際に多くの施設で効果を出しているのは、記録ソフトの導入や連絡手段の見直しといった地味な取り組みです。派手な技術から入るよりも、毎日発生する小さな手間を減らす方が、継続しやすく費用対効果も読みやすくなります。

    介護DXの最初の3ステップ

    介護DXを進めるうえで最大のつまずきは「どこから手を付ければよいか分からない」ことです。網羅的な検討から始めると計画倒れになりやすく、補助金の申請期間にも間に合いません。ここでは施設規模にかかわらず汎用的に使える3ステップを紹介します。

    ステップ1: 現場の「繰り返し手間」を棚卸しする

    まず行うのは、技術選定ではなく現場の観察です。朝礼からの1日の流れを時系列で書き出し、以下の問いで棚卸しします。

    • 同じ情報を何度書いている業務はどれか
    • 口頭で伝えていて記録が残らない業務はどれか
    • フロアや建物を物理的に移動して伝達している業務はどれか
    • 夜勤帯で一人にかかる負担が大きい業務はどれか
    • 新人が覚えるのに時間がかかっている業務はどれか

    棚卸しの段階では、解決策を考えずに事実だけを並べます。現場の職員に30分だけ時間をもらい、付箋で書き出してもらうだけでも十分です。

    ステップ2: 「効果が大きく、始めやすい」領域から着手する

    棚卸しした業務を、負担の大きさと導入のしやすさの2軸で並べます。補助金の有無や機器設置の工事期間も加味します。多くの施設では、既存の電話やインカムで不便を感じているフロア間連絡と、紙で管理している記録の2つが最も早く効果を出しやすい領域です。

    ここで重要なのは、一度にすべてを置き換えようとしないことです。優先順位の1位だけを3か月で定着させ、現場が慣れてから次の領域に進む。この刻み方が、結果的に最短距離になります。

    ステップ3: 小さく試して、現場の反応で判断する

    選定した領域のツールを、まずは1フロアや1ユニットで試用します。いきなり全施設で展開するのは、現場の反発や運用設計のミスを拡散させるリスクがあるため避けます。

    試用期間中にチェックする観点は以下の通りです。

    • 職員のITリテラシーで無理なく使えるか
    • 既存業務フローを大きく変えずに組み込めるか
    • 入居者や家族から見て違和感がないか
    • トラブル時にサポート窓口が機能するか

    フリープランや無償トライアルのあるツールを優先すると、意思決定のハードルが下がります。現場の音声連絡を見直す場面では、スマートフォンとアプリで始められる選択肢として、LINE WORKS ラジャーのような現場向け音声コミュニケーションツールが候補になります。専用機器を配る必要がなく、職員が普段使っているスマホでそのまま試せるため、試用段階でのコミットメントが小さく済みます。

    見守りシステムと介護DX

    見守りシステムは、介護DXの中でも「効果が可視化されやすい」領域です。夜間巡視の回数削減や、転倒・離床への早期対応を通じて、職員の心理的負担と身体的負担の両方に関わります。

    見守りシステムの主な方式

    見守りシステムは検知の仕組みによって方式が分かれます。どれが正解ということはなく、施設の構造や入居者の状態像に合わせて選びます。

    方式 仕組み 主な用途 留意点
    ベッドセンサー型 マットや体動センサーで離床・呼吸・心拍を検知 転倒予防、睡眠状態の把握 設置対象ベッドの選定が必要
    カメラ型 居室カメラの画像解析で姿勢・動作を検知 転倒・異変検知、夜間の状況確認 プライバシー配慮と同意取得
    センサー複合型 人感・開閉・環境センサーを組み合わせ 徘徊検知、居室内の活動量把握 誤検知のチューニング
    ウェアラブル型 腕時計型で心拍・活動量を計測 体調変化の早期把握 入居者が装着を受け入れるか

    見守りシステムだけで完結しない理由

    見守りシステムは「異変を検知する」装置です。異変に気づいたあとの「誰が駆けつけるか」「誰に知らせるか」という連携は別の仕組みで設計する必要があります。ここが連絡手段の領域とつながる部分です。検知→通知→駆けつけの流れを施設全体で一本化しないと、せっかくのセンサー情報が活きません。

    ナースコールと介護DX

    ナースコールは介護DXの論点としては見落とされがちですが、夜勤帯の負担を左右する核心的な設備です。家庭用・施設用・スマホ連携と選択肢は広がっています。

    ナースコール家庭用と施設用の違い

    家庭用ナースコールは主に在宅介護や小規模な住宅型施設で使われる、シンプルな押しボタン式の呼び出し機器です。親機と子機の1対1、あるいは少数セットで構成されます。一方、施設用のナースコール設備は、多居室からの呼び出しをナースステーションや職員が持つ端末に集約・記録する大型のシステムです。

    小規模な介護施設であれば、家庭用ナースコールの拡張版で運用できるケースもあります。ただし入居者が増える、夜勤帯の職員数が少ない、フロアが広いといった条件が重なると、施設用または後述のスマホ連携型への切り替えが現実的になります。

    ナースコールをスマホで受ける仕組み

    近年は、既存のナースコール設備にゲートウェイを追加し、職員のスマホや専用端末に通知を飛ばす方式が一般的になりつつあります。利点は次の通りです。

    • ナースステーションに張り付く必要がなくなる
    • 呼び出しの発生場所と内容を画面で確認できる
    • 応答履歴が自動で残り、対応漏れの検証ができる
    • 緊急度の判断を現場で即座にできる

    導入の際は、既存のナースコール設備との互換性、通信エリア(Wi-Fiやモバイル回線のカバー状況)、職員の端末管理ポリシーを事前に確認します。ナースコール本体を新設する場合と、既存設備にスマホ連携を追加する場合では、初期費用も工期も大きく異なります。

    フロア間連絡・申し送りのDX

    記録や見守りの議論に比べて地味ですが、職員同士の連絡手段の見直しは即効性の高い領域です。PHSや家庭用トランシーバー、あるいは館内放送で運用している施設では、呼び出しが届かない、個人を特定できない、記録が残らないといった課題が日常的に発生します。

    口頭申し送りのロスを減らす

    シフト交代時の申し送りは、介護現場で最も情報量が多い瞬間です。全員で集まる方式だと時間がかかり、当直明けの職員の残業を増やす要因にもなります。一方、記録ソフトだけに頼ると「文字では伝わらないニュアンス」が抜け落ちます。

    現場で効果を出しやすいのは、記録ソフトで事実を残しつつ、音声ベースで補足を伝える組み合わせです。音声メッセージや音声をテキスト化する機能があれば、聞き逃した職員が後から確認できるため、全員が同時刻に集まる必要が減ります。

    夜勤帯の呼び出しと安全確保

    夜勤帯は少人数運営が基本です。離れた居室で異変が起きた際、一人で対応するか応援を呼ぶかの判断を瞬時に行う必要があります。館内PHSが古くなり、バッテリーや音質に不安を抱えたまま運用している施設は少なくありません。

    スマートフォンを業務連絡に使う選択肢も広がっています。専用機器を一台ずつ配るコストや管理負担を抑えられる点、聞き逃した連絡を音声履歴で確認できる点、設備更新のタイミングを柔軟にできる点は、特に中小規模の施設にとって現実的です。

    介護DXに使える補助金

    介護DXの初期費用を抑えるうえで、補助金制度の活用は外せない論点です。ただし制度は毎年度の見直しがあり、地域や法人区分によっても条件が変わるため、本記事では代表的な制度の整理にとどめます。最新の要件・金額は各制度の公式情報でご確認ください。

    制度名 主な対象 想定される用途 確認先
    介護ICT導入支援事業 介護記録・情報共有・請求ソフト 記録ソフト、タブレット、ネットワーク整備 都道府県・市区町村の介護保険担当
    介護ロボット導入支援事業 厚生労働省の重点分野に該当する機器 見守りセンサー、移乗支援機器 都道府県の介護保険担当
    IT導入補助金 中小企業向けのITツール全般 業務ソフト、クラウドサービス IT導入補助金事務局(中小企業庁所管)
    業務改善助成金 賃金引上げとセットの設備投資 業務効率化につながる機器・ソフト 厚生労働省・都道府県労働局

    補助金活用で失敗しないために

    補助金は申請期間や交付決定前の発注制限など、手続き上の制約が多い制度です。現場が先に機器を購入してから補助金を探すと対象外になるケースがあります。順番としては、領域を決める→補助金を確認する→対象となるツールを選定する、という流れが確実です。自治体の介護保険担当窓口に早めに相談するのも有効です。

    介護DXでつまずきやすいポイント

    順調に進んでいるように見える介護DXでも、運用開始から数か月で形骸化するケースは珍しくありません。事前に知っておくと回避しやすい失敗パターンを整理しました。

    失敗パターン 内容・対策
    現場の声を聞かずに導入 経営層だけで決めると現場が使わず定着しない。ステップ1の棚卸しに現場職員を必ず巻き込む
    複数領域を同時に着手 記録も見守りも連絡も一気に切り替えると混乱する。1領域ずつ順番に定着させる
    機能の多さで選定 高機能でも現場が使いこなせなければ意味がない。職員のITリテラシーに合うシンプルさを優先する
    無償トライアルを使わない カタログだけで選ぶと実運用とのギャップが大きい。試用できるツールを優先する
    補助金ありきで選定 補助対象だから導入、という順序は失敗しやすい。課題から逆算して対象制度を探す
    運用ルールを決めない ツールを入れても使い方が職員ごとにばらつくと効果が出ない。運用ルールを文書化する

    よくある質問

    介護DXは小規模な施設でも取り組めますか

    取り組めます。規模が小さいほど、一領域への集中投資で変化を実感しやすい面もあります。全施設一斉ではなく、1ユニットから試すアプローチは大規模施設と同じです。ただし補助金の採択枠や要件は規模によって異なる場合があるため、自治体窓口への事前相談を推奨します。

    職員のITリテラシーに不安があります

    介護DXの成否を左右する重要な論点です。現場で日常的に使われているスマートフォンを起点にできるツールは、新しい機器の操作を覚える負担が少なく、浸透しやすい傾向があります。導入前に1週間〜1か月の試用期間を設けて、実際に現場の職員が違和感なく使えるか確認する方法が確実です。

    見守りシステムとナースコールはどちらを優先すべきですか

    施設の構造と入居者の状態像で答えが変わります。転倒や離床の頻度が高く、夜間巡視の負担が大きい施設は見守りシステムから、呼び出し時の応答遅延や誤応答が課題の施設はナースコールから、という考え方が目安です。両方に課題がある場合は、ステップ1の棚卸しで職員が挙げた件数の多い方を優先します。

    介護DXで具体的にどれくらい業務が減りますか

    現場と対象領域によって変動幅が大きいため、一般化した数字で答えることは難しい領域です。記事やベンダーが提示する削減時間はあくまで参考値と捉え、自施設で試用した結果の実測値で判断する方が現実的です。時間ベースで測る場合、記録・申し送り・移動・巡視の4項目を前後で計測する方法が扱いやすい指標になります。

    補助金を使わずに始めることはできますか

    できます。フリープランや低価格のクラウドサービスから始める場合、補助金の申請手続きを経由せずに試用できます。効果を確認したうえで有償プランへ切り替える際に、その時点で使える補助金を改めて確認するアプローチも有効です。

    導入後に効果が出ない場合はどうすればよいですか

    まずは運用ルールを見直します。ツールそのものより、使われ方の問題であるケースが多いためです。職員への再説明、チャンネルや通知先の再設計、朝礼での定着確認といった運用面の調整で改善することが少なくありません。それでも効果が出ない場合は、選定領域そのものが現場の課題とずれている可能性があるため、棚卸しに戻ります。

    まとめ

    介護DXは、最新技術を一度に導入する取り組みではありません。現場で繰り返し発生している手間を棚卸しし、効果が大きく始めやすい領域から順に置き換えていく、地道な積み重ねです。記事で整理した要点を振り返ります。

    • 介護DXの対象は記録・見守り・ナースコール・通信の4領域
    • 最初の3ステップは棚卸し、領域選定、小さな試用
    • 見守りシステムは検知後の連携設計までセットで考える
    • ナースコールは家庭用・施設用・スマホ連携の違いを理解して選ぶ
    • 補助金は領域を決めてから探す順序で使う
    • 現場の声を聞かずに導入しない、複数領域を同時に着手しない

    フロア間の連絡や夜勤帯の呼び出しといった通信領域は、スマートフォンで小さく始められるため、介護DXの入口として検討しやすい領域です。LINE WORKS ラジャーはフリープランがあり、有償プランには30日間の無償トライアルがあります。現場の職員が普段使っているスマホにアプリを入れるだけで試せるため、導入前の意思決定コストを抑えやすい選択肢です。

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