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心理的安全性とは|意味と提唱者
心理的安全性とは、質問や反対意見、ミスの報告をしても罰せられないと、チームのメンバーが思えている状態のことです。
心理的安全性(psychological safety)は、ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・C・エドモンドソン氏が1999年の論文で示した概念です。論文では、チームは対人関係のリスクを取っても安全な場所だという、メンバーに共有された信念と定義されています(出典: Edmondson, A. C. (1999). Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350-383.)。
ここでいう対人関係のリスクとは、基本的な質問をする、自分のミスを認める、新しいアイデアを出すといった、周りからどう見られるかが気になる行動のことです。Google re:Work は、無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる可能性のある行動をしても、このチームなら大丈夫だと信じられるかどうか、と説明しています。
エドモンドソン氏の研究は、製造業の企業で働く51のチームを調べたものです。心理的安全性はチームの学習行動と結びつき、学習行動を通じて成果につながることが示されました。同じ人でもチームが変われば発言のしやすさは変わるため、個人の性格ではなく、チームの状態として扱います。
ぬるま湯・仲良しチームとの違い
心理的安全性は、仲が良いことや、厳しいことを言わないことではありません。意見がぶつかっても、それを理由に関係が壊れたり評価が下がったりしないと思えることが中心にあります。
エドモンドソン氏の著書を紹介する記事などでは、心理的安全性と仕事の基準(求める成果の高さ)を別の軸とし、職場を次の4つの状態に分ける考え方が紹介されています。
| 仕事の基準 | 心理的安全性が低い | 心理的安全性が高い |
|---|---|---|
| 高い | 不安な職場。ミスを恐れて発言や挑戦を控える | 学習する職場。率直な指摘が出て、改善が進む |
| 低い | 無関心な職場。誰も仕事に深く関わろうとしない | ぬるま湯。居心地はよいが、成長が止まる |
ぬるま湯を避けるために心理的安全性を下げる必要はありません。目標や役割、仕事の基準をはっきり示したうえで、率直に意見を言える状態をつくることが大切です。
心理的安全性が注目された理由|Googleの研究
Googleの社内調査で、成果を上げるチームに共通する条件のうち最も重要だとされたことで、広く知られるようになりました。
Googleは Project Aristotle と名付けた社内調査で、効果的なチームの条件を調べました。対象はエンジニアリング系115、営業65の計180チームです。その結果、誰がチームのメンバーかよりも、チームがどのように協力しているかのほうが重要だと結論づけています(出典: Google re:Work「『効果的なチームとは何か』を知る」)。
効果的なチームに共通する5つの因子
チームの効果性に影響する因子は、重要な順に次の5つとされています。
| 因子 | 内容 |
|---|---|
| 心理的安全性 | ミスを認める、質問する、新しいアイデアを出すことに不安を感じない |
| 相互信頼 | メンバーが質の高い仕事を時間内に仕上げる |
| 構造と明確さ | 求められていること、そのためのプロセス、行動の成果を一人ひとりが理解している |
| 仕事の意味 | 仕事そのもの、またはその成果に目的意識を感じられる |
| インパクト | 自分の仕事に意義があり、組織の目標に貢献していると思える |
心理的安全性が高いチームのメリット
re:Work によると、心理的安全性の高いチームのメンバーは離職率が低く、ほかのメンバーの多様なアイデアをうまく活かし、収益性が高く、効果的に働くとマネージャーから評価される機会が2倍多いという特徴がありました。
背景にあるのは、問題や疑問が早く表に出ることです。ミスや遅れを早く言えれば手を打つ時間が生まれ、率直な指摘があれば仕事の質を見直せます。役割があいまいだと誰かが言い出せないチームでは、構造と明確さのようなほかの因子も整いにくくなります。
心理的安全性の4つの因子
日本の職場では、話しやすさ・助け合い・挑戦・新奇歓迎の4つの因子で心理的安全性を捉える考え方が知られています。
4つの因子は、石井遼介氏の著書『心理的安全性のつくりかた』(日本能率協会マネジメントセンター、2020年)で紹介された枠組みです。版元の紹介では、日本での研究成果をもとにしたものとされています(参考: 日本能率協会マネジメントセンター『心理的安全性のつくりかた』)。エドモンドソン氏の原典やGoogleの5つの因子とは別の整理なので、出所を分けておくと混乱しません。同書の紹介や要約では、4つの因子はおおむね次のように説明されています。
| 因子 | どんな状態か | チームに問いかけたい質問 |
|---|---|---|
| 話しやすさ | 悪い報告も隠されず、事実として上がってくる | ミスや遅れを、結果が出る前に言い出せるか |
| 助け合い | 困ったときに相談でき、チームで支え合う | 助けてほしいと言えるか。言われた側は手を止めて話を聞くか |
| 挑戦 | 粗いアイデアや仮説を試すことが歓迎される | 未完成の案でも、試してみようと言い出せるか |
| 新奇歓迎 | 立場や経歴の違う人の視点、新しいやり方が受け入れられる | 年次や職種が違う人の意見が、その場で受け止められるか |
心理的安全性が低い職場で起きること
心理的安全性が低い職場では、表面上は穏やかでも、悪い情報や反対意見が上がらなくなり、問題の発見が遅れます。
質問すると無知だと思われる、ミスを報告すると責められる、反対すると場を乱すと思われる。そうした経験が重なると、人は黙るほうが安全だと学びます。発言がなくなるわけではなく、会議では無難な意見だけが出て、本音は会議の外で語られるようになります。
ヒヤリとした出来事や小さなミスは共有されないまま残り、大きなトラブルになってから初めて表に出る、という順番になりやすくなります。医療や介護、製造のように、小さな異常を早く伝えることが安全につながる職場では、影響が特に大きくなります。新しく入った人も周りを見て黙ることを覚えるため、人が入れ替わっても空気が変わりにくくなります。
立場や部署を越えて情報と意見が流れる職場の特徴は、風通しの良い職場について解説した記事で紹介しています。
心理的安全性を高める方法
高める方法の中心は、リーダーのふるまい、発言の仕組み、失敗の扱い方、情報共有の手段を具体的に変えることです。
リーダーが学ぶ姿勢を先に見せる
re:Work は、エドモンドソン氏がTEDxの講演で挙げた、個人でできる取り組みとして次の3点を紹介しています。仕事を実行の機会ではなく学習の機会と捉えること、自分も間違うと認めること、好奇心を持って積極的に質問することです。上司が「私も分からないので教えてほしい」「見落としがあれば指摘してほしい」と先に言うと、メンバーは発言しやすくなります。
日々の反応の違いも積み重なります。
| 心理的安全性を育てる行動 | 心理的安全性を損なう行動 |
|---|---|
| 悪い報告に、まず「知らせてくれてありがとう」と返す | 悪い報告に、真っ先に誰のせいかを問う |
| 分からないことを分からないと言う | 質問したメンバーにあきれた顔をする |
| 発言の少ないメンバーに順番を回す | 声の大きい人の意見だけで決める |
| 根拠のある反対意見を歓迎する | 反対意見を場の空気を乱すものとして扱う |
発言の機会を仕組みにする
自由に発言してくださいと呼びかけるだけでは、話す人が固定されやすくなります。会議の冒頭で全員が一言ずつ近況を話す(チェックイン)、意見を付箋やオンラインのボードに書き出してから共有する、名前を呼んで意見を尋ねる、といった方法があります。定期的な1on1も含め、発言を仕組みにすると、性格に左右されずに声が集まります。re:Work もマネージャーができることの一つに、チームからの意見やアイデアを求めることを挙げています。
失敗と悪い報告の受け止め方を決めておく
ミスの報告を受けたときは、原因の振り返りを責任追及の場ではなく、次の手を考える場にします。ヒヤリとした出来事を定期的に共有する時間をとると、個人の経験がチームの知識になります。
ただし、どんな失敗も問わないとすると、仕事の基準が下がります。決められた手順を守らなかった場合と、挑戦した結果うまくいかなかった場合とで扱いを分け、その線引きをチームで共有しておくと、安全性と基準を両立しやすくなります。報告の伝え方と受け止め方は、報連相の意味とやり方を解説した記事で紹介しています。
情報共有の手段を整える
店舗や介護施設、工場のように、フロアが離れていたりシフトがずれていたりする職場では、話したいときに相手がそばにいないことがよくあります。気になったことを伝える機会そのものが限られるため、話しやすい雰囲気だけでは共有が進みません。チャットで気軽に投稿できる場所をつくる、短い音声で連絡できるようにする、あとから読み返せる記録を残す、といった手段があると、小さな気づきも伝えやすくなります。
スマートフォンをトランシーバーのように使えるアプリには、ボタンを押して話した内容がグループに届き、履歴に残るものがあり、LINE WORKS ラジャーもその一つです。アドバンストプランでは発話を自動でテキストに変換できます。
心理的安全性の測定方法と定着のさせ方
心理的安全性は原典の7つの質問を使った匿名アンケートで測り、変化を追いながら研修や1on1と組み合わせて定着させます。
エドモンドソン氏の7つの質問
エドモンドソン氏の論文では、次の7項目への回答で心理的安全性を測っています。日本語は Google re:Work の訳です。
- チームの中でミスをすると、たいてい非難される
- チームのメンバーは、課題や難しい問題を指摘し合える
- チームのメンバーは、自分と異なるということを理由に他者を拒絶することがある
- チームに対してリスクのある行動をしても安全である
- チームの他のメンバーに助けを求めることは難しい
- チームメンバーは誰も、自分の仕事を意図的におとしめるような行動をしない
- チームメンバーと仕事をするとき、自分のスキルと才能が尊重され、活かされていると感じる
原典では、それぞれ「まったく当てはまらない」から「とてもよく当てはまる」までの7段階で答えてもらいます。1・3・5番目は否定的な言い回しなので、当てはまらないほど心理的安全性が高いと読みます。
大切なのは一度の点数より変化です。同じ質問で定期的に測り、低く出た項目をチームで話し合う材料にします。Googleでも、匿名化した集計結果をチームリーダーに渡し、メンバーとの話し合いに使うよう促していました。
研修・1on1・サーベイの使い分け
取り組みを一度きりで終わらせないためには、研修・1on1・サーベイに役割を分けて組み合わせると整理しやすくなります。
| 施策 | 主な役割 | 単独だと起きやすいこと |
|---|---|---|
| 研修 | 考え方と共通の言葉をそろえる | 知識で終わり、行動が変わらない |
| 1on1 | 日々の行動と関係性を変える | 上司一人ひとりのやり方に左右される |
| サーベイ | 変化を数値で定期的に確かめる | 測るだけで、打ち手につながらない |
心理的安全性に関するよくある質問
心理的安全性が高いと、厳しいフィードバックはしにくくなりますか?
いいえ。心理的安全性が低い職場ほど、関係が壊れることを恐れて厳しい指摘は避けられやすくなります。心理的安全性の高いチームでは、根拠と敬意のある指摘を受け止める余裕があるため、耳の痛いフィードバックも改善の材料として機能します。
心理的安全性にデメリットはありますか?
心理的安全性そのものより、仕事の基準を示さないまま進めたときに問題が起きます。何を言っても許される雰囲気と取り違えるとぬるま湯になり、全員の合意を待って決定が遅れることもあります。目標と役割をはっきりさせ、意見を集める範囲と最終的に決める人を分けておくと防げます。
少人数のチームでも高める意味はありますか?
あります。人数が少ないほど、一人が黙ることの影響は大きくなります。会議の進め方を変える、1on1で困りごとを聞くといった小さな運用の見直しでも、全員に効果が届きやすいのが少人数の利点です。
テレワークのチームでも心理的安全性は高められますか?
高められます。Googleの調査では、同じオフィスで近くに座って働くことは、社内のチームの効果性に大きく影響していなかったと報告されています。オンライン会議の冒頭に近況を話す時間を置く、チャットで意見を求める、1on1を定期的に行うといった方法で、発言の機会を補えます。
まとめ
心理的安全性を職場で高めていくうえで、押さえておきたい点は次のとおりです。
- 心理的安全性は、対人関係のリスクを取っても安全だとチームで共有された信念
- 仲の良さではなく、高い仕事の基準と両立させるもの
- 日本の職場では、話しやすさ・助け合い・挑戦・新奇歓迎の4因子でも捉えられる
- 高める鍵は、リーダーのふるまい、発言の仕組み、失敗の扱い方、情報共有の手段
- 7つの質問で定期的に測り、低い項目をチームで話し合う
まずは次の会議で、悪い報告や反対意見を歓迎すると一言伝え、出てきた意見にお礼を返すところから始めてみてください。小さなやりとりの積み重ねが、チームの空気を変えていきます。
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