京都府長岡京市の社会福祉法人 恩賜財団 京都済生会病院は全職員の情報基盤としてLINE WORKSを導入し、電話、対面、メールを主体に行われてきたコミュニケーションを改善。迅速かつ確実に情報を伝達できる体制の整備により、職員どうしの連携が強化され、チーム医療の円滑化、さらには会議資料や議事録などのペーパーレス化も実現しています。
本事例のポイント
- 情報伝達の速度が向上し、緊急時の意思決定や対応がスムーズに
- 院内の情報が集約され、ペーパーレス化にも貢献
- 情報セキュリティ対策を講じ安全に運用
京都済生会病院の概要をご紹介ください。
吉田院長 :
当院は1929年に「済生会京都府病院」として京都市で開院しました。開院から50年以上が過ぎた1983年に長岡京市から誘致を受けて移転し、京都府乙訓地域(長岡京市・向日市・大山崎町)の唯一の公的医療機関として約15万人の住民の健康を支えてきました。そして、2022年6月に、建物の老朽化や交通不便の課題を解消するために長岡京市内に新築移転。それを機に、病院名を現在の「京都済生会病院」に改め、新たなスタートを切りました。
新病院は旧病院と同じ26診療科で、288床の病床を擁します。当院のある地域には、6民間病院と100近いクリニックがあり、それらの医療機関と緊密に連携しながら“地域完結医療”を実現することが当院の使命です。
以前はどのような課題を抱えていましたか。
松岡さん :
私が、広報担当として当院に着任した当時、各部署への案内は紙で行われ、大量のコピーを取って配布する手間やコストが発生していました。また、インターネットから分離された電子カルテ用のPCをメインで使う職員とのデータの受け渡しには、セキュリティのかかったUSBを使っていたためスムーズな共有ができず、不便さを感じていました。電子カルテを使わない事務職員どうしはメールで連絡を取り合うため、非効率さとセキュリティ面への懸念を感じていました。こうした状況から、院内の全員が便利かつセキュアに情報共有ができる環境が必要だと考えました。
田中さん:
看護部長として看護部を統括する私は、看護師はもちろん、医師や事務部門、診療放射線技師やリハビリテーション技士など、院内のあらゆる人とかかわるため、円滑な情報共有は非常に重要です。以前は、院長から検討すべき事項や通達を受けると、病棟やHCU(高度治療室)など各部門の責任者に電話か対面で伝達し、その後に各上長が自部門のスタッフに周知する流れだったので、重要な情報を迅速かつ一斉に伝達できませんでした。また、看護師は、交代制で24時間365日勤務していますが、重要な会議には休みの日でも出席しなければならないこともあり、労務上の課題となっていました。
課題解決に向けてLINE WORKSを選択した理由と導入経緯をお聞かせください。
宮部さん :
院内の情報共有体制を根底から見直すことで経営状態も改善すると考え、グループウェアの導入を検討しました。しかし、600名近い職員がいる組織でグループウェアを導入・運営するとなると、大きな費用がかかります。そこで注目したのが、チャットに加えてグループウェアと同等の機能がありながら、比較的安価に利用できるLINE WORKSでした。
松岡さん :
2020年3月、新型コロナ感染症の流行期に、一部の管理職と事務職員で試用を開始しました。新型コロナ感染者の緊急対応について、医師や看護師、職員らで構成されたグループトークで対面せずにタイムリーに情報を共有できたことで、LINE WORKSの便利さを実感しました。その後、院内から管理職だけではなく係長以下の職員との情報共有にもLINE WORKSを使いたいとの要望が出たのを受け、全職員へのアカウント付与を決定。2022年6月に、職員用Wi-Fiが整った新病院に移転するタイミングで、本格的に利用をスタートさせました。
「3省2ガイドライン」への準拠や管理体制について教えてください。
中川さん :
私は、院内の情報システム管理やDX推進なども担当しています。導入を検討した際に、LINE WORKSは、システムそのものが強固なセキュリティで担保されており、ユーザーデータも国内のデータセンターで安全に管理されている点など、病院でも安心して運用できることを選定段階で確認しました。
そのうえで、厚生労働省による「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」をはじめ、医療機関がデータ活用をするときに望まれる「3省2ガイドライン」に沿い、セキュアに利用できる環境の整備に努めました。
新病院のWi-Fiは、職員用と患者さん用の2系統があります。LINE WORKSは職員用の系統につなぎ、院内で患者さんがご利用になるインターネットと完全に切り離されていることはもちろん、職員用のネットワークも電子カルテ用のネットワーク系統とは別のため、セキュリティは担保されています。
さらに、LINE WORKSはクローズドな環境ではありますが、万一にもカルテの内容などが流出しないよう、院内の個人情報管理委員会でケースごとの使い方を検討し、医局会や傘下の会議を通じてLINE WORKSの適切な利用法を周知しました。個人名など患者さんの特定につながる情報をやり取りしないことは、LINE WORKSの利用に限らず病院全体の情報セキュリティポリシーとして位置づけています。システム管理者は適宜に監査ログを検証し、もしも危険性が認められたときは職員を個別に指導しています。
松岡さん :
病院の情報セキュリティポリシーに則ったLINE WORKSの運用ルールも定めています。全職員での運用開始に際しては、「患者さんの個人情報をやり取りしない」のほか、「利用は業務時間内に限り、緊急時以外は翌営業日にする」、「ハラスメント行為や情報漏えい行為があれば管理者がログのモニタリングをする」といったルールを明記した運用ガイドラインを作成し展開しました。
また、BYODで利用する職員には、個人の端末へのMDM(遠隔デバイス管理ツール)のインストールも促しています。管理者機能で、個人のデバイスへのファイルのダウンロード制限やトークでやり取りしたデータは1年で削除される等の設定をしています。
LINE WORKSの具体的な活用シーンをお聞かせください。
松岡さん :
LINE WORKSによって、院内の情報共有体制が整った結果、600人近い職員への情報周知もスピーディに行え、重要な情報も素早くキャッチできるようになりました。
田中さん :
LINE WORKSは1対1だけではなく1対多でやり取りできるので、情報共有の速度が飛躍的に高まりました。当院の看護部には300名以上の看護師がいますが、わざわざ招集することなくトークで一斉に情報が伝わるため時間の節約になっています。また既読機能で送ったメッセージが誰に見てもらえたかが分かるので、より確実に情報が届くようになりました。
新型コロナ感染症の拡大期には、院長や事務部長などの幹部に判断を仰がなければならないことがいくつもありましたが、LINE WORKSによってスピーディに意思決定が行われ、迅速な対応ができました。
宮部さん :
旧病院で老朽化した院内設備が不具合を起こした際、その報告がトークで速やかになされたことで、スムーズな対応ができました。病院には職員の緊急連絡網もありましたが、全員の電話番号が載っているわけではなかったため、LINE WORKSがあったおかげで、各部門の担当者が瞬時に情報を共有できました。出張の多い職員にとっても、院内外どこにいてもスピーディにやり取りができるツールがあるのは本当に便利です。
ペーパーレス会議を実現
宮部さん :
10名程が参加する事務課長会議では、会議の告知から資料の配付、会議中の資料の閲覧、議事録の共有まですべてLINE WORKSで行っており、ペーパーレス化を実現しています。また、事務だけでなく、薬剤部や診療放射線技師、臨床検査技師、福祉相談、栄養科など専門職での会議でも、有効に活用されています。
田中さん:
看護部でもペーパーレス化が進み、体感ベースで紙の使用量は以前の半分以下になっています。会議内容がその日のうちに共有されるので、労務上の課題となっていた看護師の休日の会議への参加も減っています。
LINE WORKSの掲示板はどのように活用されていますか。
松岡さん :
各種お知らせや研修の案内、紙で発行している広報誌、院長による年頭の挨拶の動画やLINE WORKSの利用ガイドなどを、職員がいつでも閲覧できるよう掲示板にアップしています。動画や写真、URLリンクなど紙では表現し難い媒体の共有に掲示板は非常に便利です。
宮部さん :
人事や総務など管理部門からの職員への通達や、感染制御部による新型コロナやインフルエンザに関する情報なども、今は紙文書に替わって掲示板で発信されています。
LINE WORKSを導入した効果について教えてください。
松岡さん :
企画広報室では定期的に、院内の情報共有に対する職員の評価をアンケートで収集しています。院内外の広報の改善に取り組んだ結果「当院は院内情報共有ができていると思うか」「あなたは必要な情報を適切に入手できているか」という項目に対する評価は、統計分析上有意な形で年々向上。LINE WORKSに関しては、2022年の全職員での運用開始後のアンケートでは、およそ8割の職員が「LINE WORKSから情報を得ている」と回答し、高い導入効果が得られています。
LINE WORKSなら伝えたいことを電話よりも気軽に発信できるため、情報共有に対するストレスが軽減しました。医師ともスタンプを使いながら和やかな雰囲気でやり取りでき、院内のコミュニケーションが大きく活性化したことを実感しています。また、「職員満足度が上がると顧客満足度が上がる」というサービスプロフィットチェーンの概念がありますが、コミュニケーションが活性化して職場の雰囲気がよくなることは、結果的に患者さんの満足にもつながっているはずです。
吉田院長 :
地域の医師会や行政機関から、新築移転後に当院の職員のモチベーションやアクティビティが高まったことを評価していただいています。紹介される患者さんの数も、以前と比べ2~3割増加しました。LINE WORKSの導入によって横の連携が円滑にできる体制が構築されたことで、患者さんのよりよいケアにつながっていると感じます。
また当院で働くことを希望する医師や看護師も増えました。その背景には、新築移転を機に最新の設備を整えたこともありますが、LINE WORKSによって院内コミュニケーションが活性化したことも大きいと思っています。
LINE WORKSの活用を今後どのように発展させたいとお考えですか。
松岡さん :
当院は、災害拠点病院であり、BCP対策が極めて重要です。今後は全職員の災害発生時や緊急時の安否確認にLINE WORKSを活用したいです。
また、済生会には全国に82の病院があり、さまざまな研究会や部会が組織横断的に活動しています。済生会全体としての利用が広がれば、よりスムーズな情報連携ができるようになると考えています。
吉田院長 :
高齢者医療やポストコロナ医療はこれから本格化します。そこでは複数の専門職によるチーム医療が展開されるので、組織内の横の連携を強化するツールとしてLINE WORKSの重要性がますます高まると考えています。また組織内だけでなく、外部の医療機関との連携ツールとしての可能性も感じています。
【お話を伺った方】
院長
吉田 憲正さん
日本消化器病学会認定消化器病専門医。2019年10月より京都済生会病院 院長を務める。
中川 雅夫さん
次長として事務部の業務を管理。院内の情報システム整備と運用管理の責任者でもある。
経営企画課 企画広報室 室長
松岡 志穂さん
企画広報室 室長として広報活動と院内外のコミュニケーション活性化を担う。
田中 五月さん
看護部長として各診療科に所属する看護師全体を統括する。
宮部 剛実さん
京都府済生会支部の事務局長を兼務し、組織運営と経営改善などにあたる。
※掲載している内容、所属やお役職は取材を実施した2023年7月当時のものです。