福岡市南部の中核病院である福岡赤十字病院は、スムーズな院内コミュニケーション環境を整えるため、LINE WORKSを導入しました。グループウェアや紙文書、電話、メールなど複数あった連絡手段がLINE WORKSに統一され、迅速で確実な情報共有が可能になりました。院内の情報が集約されたことで、問い合わせ業務の負担軽減も実現しています。また、医師への連絡も緊急度に応じて電話とLINE WORKSを使い分けることができるようになり、診察中の電話対応の減少や患者さんへの対応向上にもつながっています。
本事例のポイント
- 多くの職員が使い慣れているLINEの使い勝手とセキュリティが導入の決め手
- 医師への連絡はトークも活用し、電話対応による診察の中断が減少
- 掲示板にFAQを掲示し、問い合わせ業務の負担が3分の1に軽減
福岡赤十字病院の概要をご紹介ください。
本山さん :
1947年に開設された福岡診療所を出発点とする当院は、「信頼と調和に基づく最良の医療〜地域を尊重、世界を視野に〜」を理念に、福岡市南部エリアで医療サービスを幅広く提供しています。36の診療科と500床以上の入院ベッドを擁し、がん診療の中核病院としての役割も果たしている病院です。
院内のIT環境整備にも力を入れており、2024年1月に電子カルテシステムを刷新したほか、セキュリティに十分な配慮をしたうえで医師がスマホでカルテ情報にアクセスできる環境を整えるなど、医療DXに積極的に取り組んでいます。
これまでどのような課題に直面していましたか。
安達さん :
当院には1,000名以上の職員がおり、交代制で24時間勤務をしている部門もあります。そのため情報をリアルタイムに伝えることが容易ではなく、特に部門をまたいでの連絡や情報周知が困難でした。
前角さん :
個人PCを支給されている職員は限られているため、医師や師長以外の看護師は病棟に設置された共用のPCを利用しています。連絡事項は、電子カルテシステムと連携するグループウェアで共有していたのですが、PCを常に確認できるわけではないためタイムリーな情報共有が課題でした。また、グループウェア以外にも紙文書や電話、メールなど連絡手段が複数あったため、重要なメッセージの見落としを防ぐ対策も必要でした。
本山さん :
医師としてもっとも困っていたのが診察中の電話対応でした。主な連絡手段は電話だったので、緊急度の高くない用件でも、電話対応のために診療を中断することがありました。患者さんを待たせてしまうことや、診察中の会話が途切れるとまた最初から話をしなければならなくなることもあり、患者さんも医師も時間を奪われてしまっていました。
また、医師が「明日の手術の予定はなくなりました」や「今から急患の対応をするのでしばらく連絡が取れなくなります」など緊急連絡を多数の関係者に周知するために、個人携帯でLINEを利用している診療科もありました。ただ、そこではセキュリティ上、患者名などの個人情報は絶対にやりとりできませんし、逆に個人情報を伏せることによって患者さんを取り違えてしまうリスクもあったので、院内の情報共有手段の改善が必要だと考えていました。
高橋さん :
私が所属する手術室では、各診療科の担当者からの連絡を取りまとめて週単位で手術スケジュールを組んでいます。以前は、関係者に調整したスケジュール表の写真をメールに添付して送付し、スケジュールに問題ないかどうかを確認してもらっていましたが、なかなか返信がなく、直前まで手術日程を確定できないことが多々ありました。
グループウェアで発信していた連絡事項も誰に情報が届いているのか分からないため、電話をかけて確認することが多く、手間がかかるうえに、相手の業務を中断させてしまうのも悩みの種でした。
安達さん :
このような課題を抱えていた中で、職員に支給していた携帯電話をスマホに入れ替えることになりました。グループウェアにもチャット機能はありましたが、PC利用が前提のもので閲覧可能なPCが限られており、業務中に確認することが難しかったため、スマホで利用できるチャットツールを新たに導入しようと考えました。
数あるチャットツールの中から、なぜLINE WORKSを選定されたのでしょうか。
安達さん :
いくつかのツールを比較してLINE WORKSを選んだのは、多くの職員が使い慣れているLINEに操作性が近く、導入教育をしなくてもスムーズに定着することが期待できたからです。新しいツールを導入しても上手く活用してもらえずに結局定着しない、ということは避けたかったですし、加えてチャットツールはさまざまな職種や年齢層の職員が利用するだけに、誰でも簡単に使えるものである必要があります。LINE WORKSはその条件を満たすチャットツールだったので、当院のコミュニケーション基盤として導入を決めました。
本山さん :
以前からLINE WORKSを導入している他の病院事例を耳にしており、使い勝手が良いというイメージを持っていました。また、患者さんの医療情報などを扱う病院ではセキュリティを担保することが非常に重要ですが、LINE WORKS上でやりとりした情報が国内のデータセンターで管理されていること、データが端末ではなくクラウド上に保存されることから情報漏えいリスクが低いのも決め手でした。
最終的に、スマホを支給した医師、師長、日替わりの看護師リーダー、その他パート・アルバイトを除く職員用に500近くのアカウントを発行して、運用を開始しました。
LINE WORKSの利用にあたってどのような整備・運用ルールを制定されましたか。
前角さん :
医療従事者どうしで機密情報を扱うため、支給しているスマホは院内のネットワークにしか接続できないようにしています。また、指紋認証でのログインの推奨やデバイス紛失時の速やかな報告を義務づけています。LINE WORKSの管理者機能で、テキストをコピーできない設定にしています。
当院で必要なセキュリティ対策を講じ、LINE WORKSでは患者名を出してやりとりできるようにしましたが、同姓同名の方などを取り違えるリスクを低減させるために、患者さんの情報をやりとりする場合は必ずIDを明記して連絡することをルールとしています。また、患者さんの容態を連絡するために血液検査結果やレントゲン写真は共有できても、機微な個人情報を含むカルテの記載内容を撮影して共有することは禁止するなど、細心の注意を払って運用しています。
本山さん :
LINE WORKS導入にあたって説明会を3回に分けて行いましたが、その際に、テキストコピーなどセキュリティの観点から管理者側で制限している機能とその理由を説明することで、職員に納得してもらうことができました。
LINE WORKSの具体的な活用シーンをご紹介ください。
・緊急度によって電話とトークで使い分けができるようになり、診察中の電話対応が減少
・診療科を横断した関係者との会議や手術などの日程調整もスピーディに
本山さん :
急ぎでない連絡はトークでやりとりするようにしています。医師として最大のメリットだと感じているのは、電話対応によって診療を中断することが少なくなったことです。患者さんとしっかり向き合って診察をすることができるようになりました。
また、病院としてLINE WORKSで患者さんの情報にある程度触れてやりとりできるようにしているので、より分かりやすい状況説明が可能ですし、手術日程や自身の予定の変更など早めに確認してほしい情報の伝達がスピーディになりました。グループウェアやLINEで連絡していたときに比べて情報を安全かつリアルタイムにやりとりできるようになったと感じています。
電話連絡がトークに置き換わり、情報伝達がスムーズに
高橋さん :
手術のスケジュールは、専用のグループをつくって関係者全員に共有しています。スケジュール表の写真をトークルームで送れば速やかに確認してもらえるので、手術日直前まで確定しなかったスケジュールが、今では手術日の前の週には確定するようになりました。
関係者からのレスポンスが速くなり、スムーズにスケジュール調整できるようになった
医師や看護師、臨床工学士、薬剤師など、職種をこえたやりとりも電話やメールに代わってグループトークで行うようになりました。以前は電話をして相手の業務を中断させてしまうことに抵抗がありましたが、LINE WORKS導入後は、返信がなくても誰が既読か分かるので、以前のように何度もメールを送ったり電話をかけたりして連絡が行き届いているか確認する手間がなくなりました。
前角さん :
総務課など事務系の部門でも、委員会ごとのグループを作成し情報共有をしています。トークで流されてほしくない情報は、グループのノートに保存しておくことができるのも便利です。
導入前に期待したとおり、LINE WORKSは誰にとっても使いやすいようで、操作方法に関して問い合わせを受けたことはこれまで一度もありません。複数あった連絡手段がLINE WORKSに集約されたことで、重要な情報の見落としを減らすことができました。
他にはどのようなLINE WORKSの機能を活用されていますか。
【掲示板】FAQをアップして問い合わせ対応業務の負担を軽減
【アンケート】多数の職員の意見収集が大幅に効率化
本山さん :
2024年1月に電子カルテシステムをリプレースした際、医師や看護師から使い方などに関する多くの問い合わせが情報システム課に寄せられてきました。同じような内容の問い合わせが多かったことから、LINE WORKSで「電子カルテ情報」という掲示板を作成してFAQを掲載して周知することで、一般的な疑問は掲示板を確認して解決してもらえるようになり、対応業務の負担が軽減しました。
これまでの経験から、掲示板にFAQを掲載していなければ2~3倍の数の問い合わせがあったと思います。
FAQを掲示板に掲載することで、情報システム課の問い合わせ対応の負担が軽減された
本山さん :
他にも、アンケート機能を利用して他の病院支援の出張に協力してくれる医師の募集や、職員の意見収集を実施しました。多数の職員に対面や電話で一人ひとりに意見を確認するよりもスムーズで便利なので、今後さらに積極的に活用していきたいと考えています。
一人ひとりに意見を確認する手間がかからず、回答結果も自動集計される
LINE WORKSの活用を今後どのように発展させたいとお考えですか。
前角さん :
例えばPCが不具合を起こしたときなど、機材のトラブルがあった際にトークで質問を送信するとBotが自動回答をするような仕組みを構築することで、問い合わせ対応業務をさらに省力化できればと考えています。また、現在は院内のみでLINE WORKSを利用していますが、災害対策専用のPCにもLINE WORKSをインストールして、非常時にも活用することを検討しています。
本山さん :
管理者機能のさらなる活用など、LINE WORKSを有効活用することで業務効率化を進めて、医師や看護師を含む職員の働き方改革、DXの実現につなげていきたいです。
【お話を伺った方】
本山 健太郎さん
副院長と移植外科部長を兼務。IT推進委員会の委員長も務める。
安達 浩平さん
総務課総務係長と事業推進課 事業推進係長を兼務。LINE WORKS導入も支援。
前角 崚さん
ネットワークエンジニアとして院内のネットワーク整備や通信端末の管理などに携わる。
高橋 美弥子さん
手術室長として手術部門に所属する全31名の看護師を統括する。
※掲載している内容、所属やお役職は取材を実施した2024年当時のものです。