製造業DXは、データとデジタル技術を使って設計・生産・保全・品質・サプライチェーン・現場連携までを見直し、競争力を持続的に高める取り組みです。工場の基幹システム刷新から、日々の現場連絡の電子化まで、対象範囲が広く全体像をつかみにくいテーマでもあります。
どこから手をつければよいか判断しにくいまま時間だけが過ぎている現場も少なくありません。この記事では、製造業DXの定義と背景から、業務領域別の取り組み・推進手順・国内事例・進まない理由までを整理します。
目次
製造業DXとは何か
製造業DXは、デジタル技術を使ってモノづくりに関わる業務や組織のあり方そのものを変え、競争力を持続的に高める取り組みを指します。設計から生産、保全、品質、サプライチェーン、現場の情報共有まで、工場の前工程から現場の細かいやりとりまでを対象とする広い概念です。
製造業DXの定義
製造業DXは、データとデジタル技術を活用して製品・サービス、業務プロセス、ビジネスモデル、企業文化を変革し、競争優位性を確立する活動を製造業の文脈に当てはめたものです。経済産業省が2018年9月7日に公表した「DXレポート~ITシステム『2025年の崖』の克服とDXの本格的な展開~」では、DXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。
ここで大事なのは、単なるIT化やシステム導入を指す言葉ではない点です。現場のタブレット導入や生産管理システムの更新はDXの手段であって、それ自体がゴールではありません。工程の流し方、品質の作り込み方、設備の守り方、人の動かし方まで含めて見直すことがDXの本質にあります。
デジタイゼーション・デジタライゼーションとの違い
DXという言葉は、デジタイゼーション・デジタライゼーションと混同されがちです。IPAが公表した「DX白書2023 エグゼクティブサマリー」でも、この3つは段階の異なる概念として整理されています。製造業の現場で使い分けるときの目安をまとめると、次のようになります。
| 概念 | 意味 | 製造業での例 | 変わる範囲 |
|---|---|---|---|
| デジタイゼーション | アナログ情報をデジタル形式に置き換える | 紙の日報・帳票をPDFやExcelにする | 情報の形式 |
| デジタライゼーション | 個別業務や工程をデジタル技術で効率化する | 生産管理システムで工程進捗を自動集計する | 業務プロセス |
| デジタルトランスフォーメーション | データとデジタル技術で組織・ビジネスモデルを変革する | 現場データを経営判断に直結させ、保守ビジネスや販売方法まで組み替える | 業務・組織・ビジネスモデル |
| IT化(参考) | IT機器やソフトウェアを導入する | ノートPCや業務システムを配備する | ツール |
紙を電子化するだけではDXとは呼べません。逆に、いきなり組織改革から入っても現場はついてきません。この段階を飛ばしながらも意識して進めるのが、製造業DXの現実的な道筋です。
攻めのDXと守りのDX
製造業DXは、「攻め」と「守り」の2つの軸で整理すると全体像がつかみやすくなります。攻めのDXは、売上や付加価値を新しく生み出す動きです。設計データを活かした個別受注、稼働データを使ったサブスク型サービス、需要予測に基づく生産計画の組み替えなどが該当します。守りのDXは、既存業務のムダやリスクを減らし、現場の働き方を整える動きです。ペーパーレス、工程進捗の見える化、保全記録のデジタル化、現場の連絡手段の刷新などが含まれます。
攻めと守りは独立したテーマではなく、連続したものです。守りのDXで現場のデータと時間が整ってはじめて、攻めのDXが回りはじめます。最初から攻めに突っ込むと、足元のオペレーションが追いつかずに頓挫するケースが多く見られます。
製造業でDXが求められる背景
なぜいま、どの工場でも製造業DXという言葉が出てくるのでしょうか。背景は大きく3つあります。レガシーシステムの老朽化、人材不足と技能継承の危機、そして脱炭素と国際競争の激化です。
2025年の崖とレガシーシステム
製造業DXの出発点として必ず引用されるのが、経済産業省のDXレポートが2018年9月に警告した「2025年の崖」です。老朽化・ブラックボックス化したレガシーシステムを刷新できない場合、2025年以降に最大で年間12兆円の経済損失が発生する可能性があると試算しています。基幹システムのベンダーサポート終了、技術者の高齢化、データ連携の難しさが、同時に押し寄せてくる状況を指しています。
2025年を迎えた後、経済産業省は「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」を2025年5月28日に公表しました。このレポートでは約4,000社規模の調査結果として、ユーザー企業の61%がレガシーシステムを保有し、大企業に限れば74%に達することが報告されています。製造業も例外ではなく、生産管理・購買・原価・会計といった基幹領域で、20年以上前に作り込まれたシステムを延命しながら使っている工場は少なくありません。DXに着手しようとしてもデータが取れない、連携できないという壁は、この構造に由来しています。
人材不足と技能継承の危機
2つ目の背景は、人材不足と技能継承の危機です。経済産業省・厚生労働省・文部科学省がまとめた「2020年版ものづくり白書」では、国内の製造業就業者数が2002年の1,202万人から2019年には1,063万人へと、約20年間で11.6%減少したことが示されています。同白書では、ものづくり企業が直面する経営課題として「人手不足」を挙げる企業の割合が大企業で41.9%、中小企業で42.2%となり、企業規模を問わず人材面の課題が深刻化している状況が整理されています。
人の数だけでなく、中身の問題も大きくなっています。熟練工の高齢化が進み、段取り・加工条件・設備の癖といったノウハウが属人化したまま引き継がれないケースが増えています。技能者の頭の中に蓄積された知識は、紙のマニュアルや口頭指導だけでは継承しきれません。ここをデータと映像、音声、センサーで補完するのが、製造業DXの重要なテーマの1つです。2025年版中小企業白書でも、中小企業・小規模事業者が「構造的な人手不足」に直面していると整理され、省力化投資と生産性向上が必須の論点として扱われています。
脱炭素・サプライチェーンリスク・国際競争
3つ目が、外部環境の急激な変化です。脱炭素の要請が強まり、取引先からScope3(サプライチェーン全体の排出量)の開示を求められる場面が増えています。排出量を把握するためには、工程ごとの稼働データ・エネルギー消費データをつなぎ、算定できる状態を作る必要があります。これはデータ基盤の話であり、そのままDXの延長線上にあります。
地政学リスクや自然災害、物流コストの変動によって、サプライチェーンの組み替えも頻繁に必要になりました。どの部品がどこから届き、在庫がどこでどれだけ滞留し、どこで詰まっているかを素早く可視化できなければ、切り替え判断そのものが遅れます。国際競争の面では、海外メーカーがスマート工場やデジタル人材の活用で先行しており、国内製造業も同じ土俵で勝負を迫られています。守りの業務効率化と攻めの価値創出を両立させないと、競争力の維持が難しい局面に入っています。
製造業DXがもたらすメリット
製造業DXに取り組むメリットは、単なる「効率化」という一言では表しきれません。生産性・品質・技能継承・意思決定・働きやすさの5つの観点で効果が重なることで、現場に目に見える変化が出ます。
生産性・品質の向上
もっとも典型的なのが、生産性と品質の向上です。工程ごとの進捗や稼働状況が見える化されると、段取り替えのムダ、設備の待ち時間、原因不明のチョコ停がどこで発生しているかが把握できます。従来は月次の集計でしか見えなかった損失が、日次・時間単位で掴めるようになると、改善の当たりが大きく変わります。品質面でも、検査データを蓄積し工程データと突き合わせることで、不良の発生条件を絞り込めるようになります。「なぜ今週だけ不良率が跳ねたのか」を、経験と勘ではなくデータから説明できる状態に近づけられます。
技能・ノウハウの継承
ベテラン技能者の動きを映像や音声で記録し、作業手順・判断根拠を構造化して残せるようになります。さらに、センサーや加工データを組み合わせれば、熟練者がどのような条件で機械を使っているかを定量的に把握できます。紙のマニュアルと口頭指導だけでは残らなかった「暗黙知」の部分を、若手が参照しやすい形に変換できる点は、製造業DXの大きな価値です。
意思決定スピードの向上
現場データと経営指標がつながると、意思決定のサイクルが短くなります。週次の会議で先週の数字を振り返るのではなく、前日の生産実績を今日の朝会で議論できるようになります。在庫・受注・稼働の状況をダッシュボードで1枚にまとめれば、複数部門が同じ事実を前提に話せるようになり、合意形成の時間も削減できます。
現場の働きやすさ改善
忘れがちな論点ですが、現場の働きやすさの改善も大きな効果です。日報・指示書・点検表の記入負荷を減らし、口頭確認や電話での呼び出しを減らすことで、作業者が本来の加工・検査・組立に集中できる時間が増えます。現場の情報共有がリアルタイム化すると、拠点間の移動や伝言ゲームが減り、若手・女性・シニアなど多様な人材が働きやすい環境づくりにもつながります。
業務領域別の取り組みテーマ
製造業DXのテーマは、工場のどの業務領域を対象にするかで大きく変わります。全部を同時に進めるのは現実的ではないため、どこから着手するかを決めるときにも、業務領域と「攻め/守り」の軸で整理しておくと判断しやすくなります。
| 業務領域 | 攻めのDXの例 | 守りのDXの例 |
|---|---|---|
| 設計・開発 | 3D CAD・デジタルツインで試作を削減し、新製品の投入サイクルを短縮 | 図面・BOMを一元管理し、版管理ミスによる手戻りを削減 |
| 生産・製造 | 稼働データを使ったダイナミックな生産計画・個別受注生産への対応 | 工程進捗の見える化、ペーパーレス化、作業手順の電子化 |
| 保全・設備 | センサーデータによる予知保全、稼働ベースの保守サービスへの展開 | 設備台帳・保全履歴の電子化、点検漏れの防止 |
| 品質 | 画像AIによる外観検査の自動化、不良条件の予測モデル | 検査記録の一元管理、トレーサビリティの確保 |
| サプライチェーン | 需要予測と連動した調達・物流計画、取引先データ連携 | 在庫・納期の見える化、帳票のEDI化、属人化解消 |
| 現場連携・情報共有 | 現場データと経営会議の直結、異常検知からの即時対応 | 拠点・職場間の連絡手段の刷新、スマホでの情報共有、口頭伝達の記録化 |
設計・開発
設計・開発領域では、3D CADとPLM(製品ライフサイクル管理)を軸にデータを一元化する動きが広がっています。試作回数の削減、図面の版管理ミスの防止、設計変更の即時共有といった効果が期待できます。デジタルツインを使えば、物理的な試作に入る前に性能や組立性を検証でき、開発リードタイムを大幅に短縮できます。攻めのDXと守りのDXが同時に進みやすい領域です。
生産・製造
生産・製造領域は、製造業DXの中核です。PLC・MES・生産管理システムと連携させ、工程進捗・設備稼働・作業実績をリアルタイムに把握する仕組みが出発点になります。多品種少量・短納期への対応力を高めるために、計画の組み替えや段取り替えの自動化もテーマになります。一方で、紙の指示書・日報をどこまで電子化するかという守りの論点も同時に抱えることが多い領域です。
保全・設備
保全・設備領域は、センサーとデータ活用のインパクトが出やすい領域です。振動・温度・電流の変化から異常の予兆を捉え、計画保全から予知保全に近づけることで、停止時間と修理コストを抑えられます。保全台帳・点検記録の電子化は地味な守りの施策ですが、この基盤がないと予知保全のデータ活用も難しくなります。
品質
品質領域は、画像AIによる外観検査、工程データと検査データを突き合わせた不良要因分析が代表的なテーマです。検査工程の一部を機械に任せられるようになると、検査員の負担軽減と検査精度の底上げが同時に進みます。また、ロット・シリアル単位でのトレーサビリティを確保しておくことは、品質不具合が発生した際の原因究明と影響範囲の特定にも直結します。
サプライチェーン
サプライチェーン領域では、需要予測・在庫最適化・調達管理のデジタル化が中心になります。EDIやAPIで取引先とデータを連携し、注文書・請求書・納期回答を人手で回さずに済む状態を目指します。脱炭素対応のCO₂算定も、この領域の延長で扱われることが増えています。
現場連携・情報共有
見落とされやすいのが、現場連携・情報共有の領域です。いくらMESやダッシュボードを整えても、現場の作業者同士が紙・口頭・個人のスマホでばらばらに連絡していては、データと現場の間にギャップが残ります。拠点間の連絡、ライン間の呼び出し、トラブル発生時の即時共有は、現場主導の守りのDXとして位置づけられます。ここはトップダウンだけでは進まず、現場の使いやすさを重視したツール選定と運用設計が成果を左右します。
製造業DXの進め方(7ステップ)
製造業DXは、「何から手をつければいいか分からない」という声がもっとも多いテーマです。理想像から逆算する進め方より、現場の課題から積み上げる進め方のほうが成果に結びつきやすい傾向があります。ここでは実務で使いやすい7ステップを紹介します。
- 現状課題の棚卸しと優先順位付け:工程別・部門別に「いま困っていること」を洗い出し、効果・実現性・投資額の3軸でスコア化する。抽象的な目標ではなく、具体的な痛みから出発する
- 経営層のコミットとビジョン言語化:経営層がDXを「IT部門の仕事」として切り離さず、経営課題として引き受ける宣言を行う。3〜5年後の工場の姿を短い言葉で言語化し、全社で共有する
- 小さな成功事例(PoC)の設計:最初から全社基幹システムに手をつけず、効果が測定できる小さな単位で実証する。1ライン・1工程・1拠点に絞って、期間と評価指標を決めて取り組む
- 現場を巻き込む推進体制づくり:現場のキーマン(ベテラン工程リーダー、若手デジタル人材、保全担当など)を推進メンバーに入れる。現場の納得感がないDXは、導入後に使われなくなる
- データ基盤・インフラの整備:PoCの成果を横展開する段階で、データを集めるためのネットワーク・IoT基盤・セキュリティを整える。基幹システムのモダン化もこのタイミングで検討する
- 段階的な横展開:成功したPoCを、似た工程・似た拠点へ順番に広げる。1つの型を作り、それを量産していくイメージで進めると、投資対効果の説明もしやすくなる
- 効果測定と改善サイクル:生産性・品質・稼働率・リードタイム・残業時間などのKPIを事前に決め、導入後も定点観測する。うまくいかなかった施策は素直に引き返し、原因を共有する
このステップを順番どおりに一気に駆け上がる必要はありません。小さなPoCを複数並行で走らせながら、全体のロードマップを少しずつ更新していく進め方が現実的です。経営層・情シス・現場の三者が、同じロードマップを見ている状態をつくることが何より大事です。
製造業DXが進まない理由
ここまでの必要性を理解しても、多くの現場で製造業DXは計画通りに進みません。つまずきは、1つの原因だけでなく経営・組織・現場・技術の4レイヤーにまたがって起きる構造になっています。まずは全体像を表で押さえ、それぞれの層をほぐす発想で取り組むのが現実的です。
| レイヤー | 主な症状 | 対策の方向性 |
|---|---|---|
| 経営レイヤー | ビジョン不在、DXをIT部門に丸投げ、短期ROIを過度に求める | 経営課題としての位置づけを明確化し、中期計画にKPIと投資枠を組み込む |
| 組織レイヤー | 部門間の壁、縦割りによる情報分断、評価制度がDXを後押ししない | 部門横断チームの設置、評価・昇進制度の見直し、外部人材との協業 |
| 現場レイヤー | 業務負荷増への合理的な懸念、使いにくいツール、目的の共有不足 | 現場主導のPoC、使いやすさ優先のツール選定、小さな成功体験の共有 |
| 技術レイヤー | レガシーシステムの連携困難、データの分断、セキュリティの不安 | データ基盤の整備、段階的モダン化、クラウドとセキュリティ設計 |
経営レイヤーの壁
もっとも根深いのが経営レイヤーの壁です。経営層がDXをIT部門やDX推進部の仕事として認識してしまうと、予算と権限が現場レベルに下りてきません。短期のROIを厳しく問い続けると、本質的な基盤投資より見栄えのいい単発施策に流れやすくなります。経営課題の中でDXがどの位置にあるかを言語化し、中期経営計画の中にKPIと投資枠としてはっきり組み込むことが出発点になります。
組織レイヤーの壁
製造現場は、設計・製造・品質・保全・購買・営業といった部門ごとに強い縦割り構造を持ちます。データを横でつなごうとすると、部門ごとに違うコードや業務ルールがぶつかり合い、誰も調整役を引き受けないまま止まってしまうことがあります。部門横断のチームを正式に発足させ、その権限と評価制度を会社全体で支える構えが必要です。
現場レイヤーの壁
製造業DXでもっとも丁寧に扱う必要があるのが、現場レイヤーの壁です。現場の作業者がDXに抵抗感を示す背景には、ツールが使いにくい、教育が足りない、導入によって自分たちの業務負荷だけが増えるのではないか、という合理的な懸念があります。これは「現場がデジタルに弱いから」と単純化してはいけない論点です。作業者が日々こなしているミッションの量と重さを正面から認識し、そこを軽くする施策から始めることが信頼獲得の近道になります。経営層と現場の間に立つミドル層が現場の声を経営へ届けられるかどうかも、成否を大きく左右します。
技術レイヤーの壁
技術面では、レガシーシステムがデータ連携を阻んでいるという問題が大きくあります。経済産業省のレガシーシステムモダン化委員会総括レポート(2025年5月28日)でも、ユーザー企業のIT人材需要に対してベンダー企業のIT人材供給が66%の充足率に留まるというデータが報告されており、技術者不足が改善を遅らせている構造が浮かびます。クラウド・APIを軸にしたデータ基盤の整備、段階的なモダン化、セキュリティ設計を並行で進める必要があります。
製造業DXの国内事例から学ぶ視点
具体的な社名を挙げた成功事例は、ネットや書籍にたくさんあります。ここでは個別の社名に踏み込まず、よく見かけるパターンを整理することで、自社に引き寄せて考える材料にしてもらうことを狙います。
中小製造業の取り組み傾向
中小製造業では、全社一括の大規模投資より、現場起点のピンポイントな改善から入るパターンが多く見られます。たとえば生産日報のペーパーレス化、工程進捗の簡易ダッシュボード、設備稼働のIoT計測など、1工程・1ラインから小さく始めて成果を積み上げていく進め方です。経営者が現場に近く、決裁のスピードが速いという中小ならではの強みを活かしやすい領域です。一方で、データ基盤やセキュリティの専門人材が不足しがちなため、外部の支援機関や商工団体、地域のIT人材との協業が鍵になります。
大手メーカーの取り組み傾向
大手メーカーでは、複数工場・複数製品ラインを前提とした標準化と横展開が中心テーマになります。1工場でのPoCを成功させたあと、同じ仕組みをグループ全体に広げる段階で、データの定義・コード体系・業務プロセスのばらつきが噴き出してきます。ここを乗り越えるために、グループ共通のデータ基盤と、部門横断のDX推進組織を整えるアプローチがよく見られます。また、サプライヤーや販売店までを巻き込み、サプライチェーン全体でのDX推進を狙う事例も増えています。
製造業DX成功のためのポイント
ここまで整理してきた内容を踏まえて、製造業DXをうまく回すためのポイントを5つに絞ってまとめます。どれも特別なことではありませんが、順番を間違えると一気に効果が落ちるため、チェックリスト的に使ってください。
- 経営層の継続的な関与:DX推進部に丸投げせず、経営会議の定例議題にKPI進捗を組み込む
- 現場の課題を起点にした設計:理想像から逆算せず、現場の痛みと時間を起点にテーマを選ぶ
- 小さく始めて速く学ぶ:1ライン・1工程・1拠点のPoCから始め、失敗してもダメージが小さい範囲で検証する
- データを集める前に業務プロセスを整える:入力ルール・帳票・コード体系が揃っていないままデータを集めると分析に使えない
- 情報共有・現場連携の改善から着手する:守りのDXの基礎であり、成果が見えやすく現場の納得感を得やすい
このうち特に見落とされがちなのが、最後の情報共有・現場連携の改善です。生産管理システムや画像AIのような大型投資の影に隠れやすい領域ですが、現場の人がストレスなく情報をやりとりできる状態は、その後のあらゆるDX施策の土台になります。
よくある質問
製造業DXとIT化の違いは何ですか?
IT化は、業務にITツールやシステムを導入すること自体を指します。一方、製造業DXはITの導入をきっかけに、業務プロセス・組織・ビジネスモデルまでを変革して競争力を生み出す活動です。タブレットを配るだけで止まるのはIT化、そこから現場の動き方や経営判断の仕方が変わっていくのがDXだと考えると区別しやすくなります。
2025年の崖とは何を指しますか?
経済産業省が2018年9月に公表したDXレポートで警告した概念で、老朽化したレガシーシステムを刷新できない場合、2025年以降に最大で年間12兆円の経済損失が発生する可能性があると試算されました。ベンダーサポート終了、技術者の高齢化、データ連携の困難が同時に重なる状況を指します。2025年5月28日にはレガシーシステムモダン化委員会総括レポートが公表され、その後の対応状況が整理されています。
中小製造業はどこからDXに着手すればよいですか?
現場の痛みがもっとも大きい1工程を選び、そこに絞って改善するところから始めるのが現実的です。生産日報のペーパーレス化、設備稼働の簡易計測、現場連絡手段の刷新など、投資額が小さく効果が見えやすいテーマから着手すると、社内の支持を得やすくなります。いきなり基幹システムの全面刷新から入ると、投資額と期間が大きくなり、途中で頓挫しやすくなります。
製造業DXの推進に必要な期間はどれくらいですか?
テーマとスコープによって大きく変わります。現場の小さなPoCであれば3〜6か月で成果が見え始めますが、全社レベルで業務プロセスや基幹システムまで含めて変革するとなると、3〜5年単位の取り組みになることが一般的です。短期の成果と中期のロードマップを並行して描いておくと、経営層と現場の双方に納得してもらいやすくなります。
DX人材は外部採用か社内育成か?
結論から言うと、両方を組み合わせるのが現実的です。データサイエンスやクラウド基盤の設計など希少スキルは外部採用や外部パートナー活用に頼り、現場の業務知識とデジタルの橋渡しを担う人材は社内育成で確保するのが基本線です。自社の工程や製品を理解している人材を、外部の知見と掛け合わせて育てていく発想が近道になります。
製造業DXは何から効果が見えますか?
現場の「時間」から効果が見え始めるケースが多いです。日報記入、連絡の往復、帳票の転記、探し物、会議の準備といった付帯業務の時間が削減されると、加工・検査・組立といった本来業務に使える時間が増えます。生産性・品質の改善はその後にじわじわ効いてきます。売上や利益といった経営KPIは、改善が積み上がった先で動き出すイメージで捉えておくと、途中で失望せずに済みます。
製造業DXが失敗する最大の原因は何ですか?
単一の理由で失敗するケースより、経営・組織・現場・技術の複数レイヤーの壁が重なって動かなくなるパターンが目立ちます。特に多いのは、経営層のコミット不足と、現場への説明不足の組み合わせです。経営層が掛け声だけでコミットしない、現場の業務負荷増への合理的な懸念が放置される、この2つがそろうとどれだけ良いツールを入れても定着しません。
まとめ
製造業DXは、単なるIT化ではなく、データとデジタル技術を使って業務プロセス・組織・ビジネスモデルまで変革する取り組みです。背景には、2025年の崖と呼ばれるレガシーシステムの問題、構造的な人手不足と技能継承の危機、脱炭素やサプライチェーンリスクといった外部環境の変化があります。この記事で整理した要点を振り返ると、次のようになります。
- 製造業DXはデジタイゼーション・デジタライゼーションの先にある組織変革の概念
- 攻めのDXと守りのDXは連続しており、守りで基盤を整えてから攻めに進む順番が現実的
- 業務領域は設計・生産・保全・品質・サプライチェーン・現場連携の6つで整理すると判断しやすい
- 推進は7ステップの小さなPoCから積み上げ、経営・組織・現場・技術の4レイヤーの壁をほぐす
- 成功のカギは、現場の時間を軽くする守りのDXから着手して信頼を積むこと
特に忘れがちなのが、現場連携・情報共有の改善という守りの論点です。生産管理システムや画像AIといった華やかな投資の影に隠れがちですが、ここが崩れているとどれだけ上位の仕組みを整えても現場に届きません。拠点間の呼び出し、ライン間の連絡、トラブル発生時の即時共有など、現場の声をリアルタイムでつなぐ手段を整えることは、DXの土台づくりそのものと言えます。
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