介護施設でインカムを導入するメリット・選び方・補助金活用ガイド

フロアをまたいだ呼び出しに走って対応する。夜勤帯で複数フロアを少人数でカバーしながら、離れた棟のスタッフに用件を伝えようとして諦める。介護施設でのスタッフ間連絡には、こうした場面が少なくありません。
こうした課題への解決策として、インカムの導入を検討する施設が増えています。ただし、一口にインカムといっても、専用機器型からスマートフォンアプリ型まで選択肢は幅広く、施設の規模や環境によって最適な選択は異なります。
この記事では、介護施設でインカムを選ぶ際に確認すべき5つのポイントを中心に、専用機とスマホアプリ型の違い、ICT補助金の活用方法、夜勤配置基準との関係まで整理しました。製品選定の判断材料としてお役立てください。

目次

    介護施設でインカムが選ばれる理由

    PHSサービス終了による代替ニーズの急増

    介護施設で長く使われてきたPHSは、ソフトバンクが2024年1月にサービスを終了しました。長年の連絡手段を失った施設が、インカムやスマートフォンへの移行を急ぐ状況が続いています。

    PHSは施設内の内線として機能しており、代替手段には同等以上の通話品質、管理のしやすさ、コストの妥当性が求められます。Wi-Fiやモバイルデータ回線を使うインカムアプリが選ばれるケースが増えているのは、既存のスマートフォンをそのまま活用できる点が大きいからです。

    少人数で複数フロアをカバーする現場の実情

    人手不足が続く介護現場では、1人のスタッフが複数フロアや複数棟を担当する場面が珍しくありません。入居者の呼び出し対応、服薬確認、緊急時の連絡など、迅速なコミュニケーションが求められる局面は1日に何度も訪れます。

    そのたびに内線電話を探して移動するか、別のスタッフを呼びに行くかでは、対応が遅れるだけでなく、他の業務が中断されます。ハンズフリーで話せるインカムは、こうした移動コストを減らす手段として評価されています。

    インカムの種類:専用機とスマホアプリ型の比較

    介護施設で検討されるインカムは、大きく「専用機器型」と「スマートフォンアプリ型」に分かれます。どちらが向くかは施設の環境・規模・予算によって変わります。まず両者の違いを整理します。

    比較項目 専用機器型インカム スマホアプリ型インカム
    初期費用 端末代が1台数万円〜。台数分が必要 既存スマホを活用できる場合は端末代不要
    電波・通信範囲 免許不要タイプは施設内限定が多い。建物構造で届かない箇所が出やすい Wi-Fi・モバイル回線を使うため棟間・拠点間も通信可能
    端末管理 専用機として一元管理しやすい。紛失・充電管理が必要 個人スマホとの兼用可。管理ルールの整備が必要
    衛生管理・防水 業務用途で設計された防水・耐久モデルが多い 端末によりIP規格が異なる。カバー・ケース利用が一般的
    記録機能 音声記録なし〜基本的な通話ログのみが多い アプリにより音声をテキスト変換して記録できるものもある
    PHS代替可否 施設内限定用途には対応。棟間・多拠点には課題が残る インターネット接続があれば棟間・多拠点も対応可

    専用機を選ぶケース

    利用するのが1棟のみで通信エリアが限られる施設、または全スタッフに同一の業務端末を持たせたい場合は、専用機が適しています。業務用として設計された端末は耐久性・防水性が高く、介護の現場環境でも安心して使えるモデルが揃っています。

    ただし、端末の初期投資はまとまった金額になります。また、電波の届き方は建物の構造に大きく左右されるため、導入前に実機テストを行うことが不可欠です。

    スマホアプリ型を選ぶケース

    複数棟・複数フロアをまたいだ連絡が必要な施設、または既存のスマートフォンを活用してコストを抑えたい場合は、アプリ型が向いています。Wi-FiやモバイルデータでつながるためPHSの代替として機能しやすく、棟が離れていても通信が途切れません。

    音声をテキストに自動変換できるアプリであれば、聞き取りにくかった内容を後から文字で確認できます。この二重記録の仕組みは、伝達漏れのリスクを下げる実務的な価値があります。

    介護施設のインカム選び方:5つの確認ポイント

    施設の通信環境と電波到達範囲

    インカム導入で最初に調べるべきは、施設内の通信環境です。専用機を使う場合は電波が届くエリアの確認が必須で、コンクリートの厚い壁や地下フロアでは電波が遮断されることがあります。アプリ型を使う場合はWi-Fiの設置状況を確認し、電波が弱いエリアにアクセスポイントを追加する必要があるかを事前に把握しておきましょう。

    施設が複数棟に分かれている場合や、本部と離れた分館がある場合は、インターネット経由で通信するアプリ型のほうが制約を受けにくい選択肢です。

    端末の購入コストと運用コスト

    導入費用は初期投資だけでなく、ランニングコストも含めて試算することが重要です。専用機は端末代に加えて修理・交換コストが発生します。アプリ型は月額の利用料が必要ですが、既存スマートフォンを使えれば端末への投資を抑えられます。

    また、ICT補助金の対象になるかどうかも総コストに影響します。補助金については後述のセクションで詳しく整理します。

    衛生管理と防水性能

    介護施設では、排泄介助・入浴介助など水濡れのリスクがある場面でも端末を携帯します。業務端末として選定する場合は、IPX規格(防水等級)を確認してください。

    スマートフォンをアプリ型インカムとして使う場合、端末の防水性能は機種によって異なります。利用シーンに合ったIP等級を持つ端末を選ぶか、防水ケースの使用を前提とした運用ルールを設けることが現実的です。

    操作性とスタッフの習熟コスト

    ITリテラシーには個人差があります。スマートフォンの操作に不慣れなスタッフが多い施設では、画面操作が最小限で済むシンプルなインカムのほうが定着しやすい傾向があります。専用機は電源を入れてボタンを押すだけという設計のものが多く、覚えることが少ない点が強みです。

    一方、アプリ型でもボタン1つでPTT(Push-to-Talk)通話が始まるシンプルな操作性を持つものがあります。実際に試用してみて、現場のスタッフが無理なく使えるかを確認することが、導入後の運用定着につながります。

    聞き逃し防止と記録機能の有無

    インカムで問題になりやすいのが、聞き逃しです。騒音の多い介護現場では、伝えたつもりが届いていないという状況が起きます。従来型の専用インカムは音声が消えると確認できませんが、音声をテキストに変換する機能を持つアプリ型では、後からメッセージを文字で読み返せます。

    申し送り内容や緊急時の指示が文字として残ることは、情報共有の精度を高めるだけでなく、スタッフ間の認識齟齬を防ぐ観点からも有効です。施設での情報管理や記録の観点から、この機能を重視する担当者が増えています。

    ICT補助金でインカムを導入する方法

    介護ICT補助金の対象機器と補助上限

    介護分野のICT化を支援する補助金として、厚生労働省が所管する介護ロボット・ICT機器の導入支援事業があります。都道府県を通じて事業者に補助金が交付されるもので、インカムやスマートフォンが対象機器に含まれる場合があります。

    補助上限額や対象機器の範囲は都道府県・年度によって異なります。国の事業は「介護現場革新」関連の補助制度として毎年予算措置が行われていますが、具体的な補助率・上限額は各都道府県の担当窓口またはe-Govの告示内容をご確認ください。

    補助金申請の一般的な流れ

    補助金の申請は、概ね以下のステップで進みます。都道府県や年度によって手順が異なるため、あくまで一般的な流れとしてご参照ください。

    1. 都道府県の担当窓口またはWebサイトで公募開始を確認する
    2. 対象機器・補助要件・申請期間を確認する
    3. 見積書・導入計画書などの必要書類を準備する
    4. 期限内に申請書を提出する(電子申請または郵送)
    5. 採択通知後、機器を導入して実績報告を提出する

    補助金のスケジュールは年度によって前倒しになることがあります。導入を検討している場合は、早めに管轄の都道府県担当課に問い合わせることをおすすめします。また、Wi-Fi環境の整備費用も補助対象になるケースがあるため、インカム本体と合わせて申請できないかを確認する価値があります。

    夜勤配置基準の緩和とインカムの関係

    厚生労働省は、介護施設の夜間配置基準について段階的な緩和の検討を進めています。2024年度介護報酬改定では、夜勤職員配置加算や見守り機器を組み合わせた配置基準の柔軟化について一部の施設種別で制度的な議論が進みました。

    こうした動きの中で、インカムを含むICT機器の活用が条件の一つとして言及されるケースがあります。ただし、どの機器が要件を満たすか、またどのような運用が必要かは施設の種別・都道府県・申請内容によって異なります。インカム導入が夜勤配置基準の緩和要件を満たすかどうかは、所管の都道府県窓口または運営指導の担当機関に個別に確認してください。

    なお、ICT機器の活用を前提とした配置基準の緩和は、あくまで適切な機器活用と研修実施を条件としており、機器の導入だけで自動的に要件が満たされるわけではありません。制度の最新情報は厚生労働省の通達・告示内容でご確認ください。

    インカム導入でよくある失敗と対策

    失敗パターン 内容と対策
    電波が届かないエリアが発生した 専用機は建物構造に依存する。導入前に施設全体のエリアテストを実施する。アプリ型の場合はWi-Fiカバレッジマップを事前に作成する
    高齢スタッフが使いこなせなかった 操作手順書を1枚にまとめ、導入前に全スタッフへのトレーニング時間を設ける。実際に使う前に練習できる環境を用意する
    充電切れで使えなくなった 充電ルールを運用ルールとして明文化する。充電器を共有スペースに常設し、シフト交代時に確認する習慣をつける
    会話が周囲の利用者に聞こえてしまった Bluetoothイヤホンを使ってスピーカー音量を下げる。個室対応や廊下での会話のルールを別途定める
    端末紛失・破損が想定より多かった 端末の貸し出し管理台帳を作成する。防水ケース・ストラップを必須とする運用ルールを設ける

    よくある質問

    インカムはICT補助金の対象になりますか?

    インカムが補助対象になるかは、都道府県ごとの補助事業の設計によります。厚生労働省が所管する介護ICT導入支援事業では、コミュニケーション機器を対象としている場合がありますが、年度・都道府県によって対象範囲が変わります。管轄の都道府県担当窓口にご確認ください。

    インカムの音が周囲の利用者に聞こえてしまいませんか?

    スピーカーから音声を出す設定では、周囲に聞こえる可能性があります。Bluetoothイヤホンやヘッドセットを使うことで、スタッフのみが音声を受け取る形にできます。個人情報を含む会話をする場所・タイミングについては、別途運用ルールを設けることをおすすめします。

    PHSが廃止になりましたが、代わりに何が使えますか?

    PHSの代替としては、施設内限定の専用インカム機器、またはWi-Fi・モバイル回線を使ったスマートフォンアプリ型インカムが選択肢になります。複数棟・多拠点での利用や、音声記録が必要な場合はアプリ型が向いています。施設内1棟のみで端末管理を一元化したい場合は専用機器型も検討に値します。

    専用端末とスマホアプリ型はどちらが費用を抑えられますか?

    既存のスマートフォンを流用できる場合は、アプリ型のほうが初期投資を抑えられます。ただし月額利用料が発生するため、長期で見たときの総コストは規模と料金プランによって変わります。専用機は初期費用が高くなりますが、端末の耐久性・管理のしやすさという観点では優位なケースがあります。

    介護施設のインカムに防水性能は必要ですか?

    入浴介助や排泄介助など、水濡れリスクの高い場面でも端末を携帯する可能性がある場合は、防水性能を確認することを推奨します。業務用インカムではIPX4(水しぶき程度)以上の等級が一般的です。スマートフォンを使う場合も、機種ごとのIP規格を確認しておきましょう。

    まとめ

    介護施設でインカムを選ぶ際に確認すべきポイントを、以下にまとめます。

    • 通信環境の確認:Wi-Fiカバレッジ・棟間通信の可否を事前に調べる
    • コストの全体像:初期費用・月額費用・補助金活用の可能性を合わせて試算する
    • 衛生・防水性能:利用シーンに応じたIP規格の確認とケース運用の検討
    • 操作性:スタッフのITリテラシーに合った操作感か、試用して確認する
    • 記録機能の有無:音声のテキスト変換対応で情報共有精度が変わる

    スマートフォンアプリ型のインカムとして、既存スマホで始められる選択肢の一つがLINE WORKS ラジャーです。PTT通話とともに音声のテキスト変換機能を備えており、聞き逃した内容を文字で確認できます。インターネット経由の通信なので棟間・拠点間でも使え、Bluetooth対応でハンズフリー通話も可能です。フリープランは0円で試せます(会話は40分で一度切断)。有償プランには30日間の無償トライアルがあります。

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