目次
申し送りとは|意味と引き継ぎとの違い
申し送りは、交代のたびに直近の状態や残った作業を次の担当者へ伝えることで、業務全体を渡す引き継ぎとは範囲が異なります。看護や介護のように人が入れ替わりながら同じ仕事を続ける現場で、勤務帯が替わるたびに行う情報の受け渡しを指す言葉です。
国語辞典のデジタル大辞泉は、「申し送り」を「次の者に言って伝えること。特に、事務・命令などの内容を後任者に伝えること」と説明しています(コトバンク「申送り」)。ホテルのフロントや小売・飲食店、警備、工場など、交代制で働く職場でも使われる言葉です。
申し送りの目的は、交代した担当者が状況をつかみ、迷わずに次の判断と作業へ移れるようにすることです。情報が抜けると、次の担当者は変更前の指示のまま作業を進めてしまうおそれがあります。日本医療機能評価機構は、指示の変更が関係部署に伝わらなかった医療事故を医療安全情報No.20「伝達されなかった指示変更」で取り上げ、注意を促しています。
申し送りと引き継ぎ・連絡の違い
3つの言葉は意味が重なり、職場によっては区別せずに使われます。一般的な使い分けは次のとおりです。
| 言葉 | 主な場面 | 伝える内容 |
|---|---|---|
| 申し送り | シフトや勤務帯が交代するたび | 次の勤務ですぐに必要になる状態の変化、残った作業、注意点 |
| 引き継ぎ | 異動・退職・休職などで担当者が替わるとき | 業務全体の進め方、関係者、資料、進行中の案件 |
| 連絡 | 交代に関係なく、必要が生じたとき | 関係者に知らせたい事実や決まったこと |
異動や産休で担当業務をまるごと渡すときは、毎日の申し送りとは別に引き継ぎ書を作るのが一般的です。
申し送りの使い方と言い換え
辞書には「順繰りに申し送りをする」「申し送り事項を確認する」という用例が載っています。動詞の「申し送る」も辞書にあり、「後任者に申し送る」と言えます(コトバンク「申送る」)。ビジネスマナーの解説には名詞の形で言うよう勧めるものもあるので、迷ったときは「申し送りをする」「申し送りを受ける」と言えば安心です。
申し送りは、主に職場の中で使う言葉です。お客様や取引先に対しては、「担当の者に申し伝えます」「担当の者に引き継ぎます」のように言い換えると意味が伝わります。近い意味の言葉には、申し伝える、伝達する、伝言する、引き継ぐなどがあります。
申し送り事項とは|伝える7項目と優先順位
申し送り事項は、交代のときに次の担当者へ伝える一つひとつの内容で、7つの項目で確かめると伝え漏れを減らせます。患者さんや利用者さん、お客様に接する仕事では7項目がおおむね共通で、急変のおそれなどすぐに対応が必要な情報から話すと、聞き手は何から手をつけるかを決めやすくなります。
中身は業種によって変わりますが、共通する7項目は次のとおりです。
- 患者・利用者・お客様の状態の変化(バイタル、症状、行動、気持ち)
- 前の勤務帯で行ったケアや対応と、その結果
- 次の勤務帯に残る作業と、その時刻
- 医師・家族・外部の機関からの指示や連絡
- 入退院・入退所、来客、行事などの予定
- 設備・備品の不具合と注意点
- 転倒やヒヤリハット、感染対策など、安全に関わる特記事項
7項目を毎回同じ重さで話す必要はありません。緊急度の高いものから話す順番の目安は、次のとおりです。
- 急変のおそれなど、すぐに対応が必要な情報
- 次の勤務帯で必ず行う作業と時刻
- 状態の変化と、続けて観察してほしい点
- 家族や外部への連絡など、漏れると影響が大きい事項
出来事を時刻の順に並べるより、患者さんや利用者さんごとに項目でまとめて話すほうが、聞き手は内容を整理しやすいものです。
申し送りのコツ|伝わる申し送りにする5つのポイント
伝わる申し送りのコツは、型に沿って結論から話し、事実を数値で示して、次にとる行動まで具体的に伝えることです。「落ち着いていました」のような感想だけでは、次の担当者は状態を判断できず、何をどこまで確かめればよいかも分からないためです。最後に復唱と質問の時間をとると、聞き漏らしにも気づけます。
1. 型を決めて、結論から話す(5W1HとSBAR)
話す人ごとに順番が変わると、聞き手は抜けている項目に気づけません。職場で型を1つ決めておけば、誰が話しても同じ順番で情報を受け取れます。最初に結論を一言で伝え、理由や経過はその後に続けてください。
どの職場でも使いやすい型は5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・なぜ・どのように)です。医療や看護の現場ではSBARもよく使われます。SBARは、状況(Situation)、背景(Background)、評価(Assessment)、提案(Recommendation)の頭文字をとった報告の型です。米国医療研究・品質局(AHRQ)は、チーム医療の研修プログラムTeamSTEPPSで、SBARを最も広く使われているツールの一つに挙げています(AHRQ「Tool: SBAR」、英語)。
2. 事実と所感を分け、数値で伝える
「落ち着いていました」「元気でした」だけでは、次の担当者は状態を判断できません。時刻や数値、観察した事実を先に伝え、自分の印象はその後に添えます。
| 伝わりにくい例 | 伝わる例 |
|---|---|
| 「なんとなく熱っぽい感じでした」 | 「16時の体温は37.8度で、日中より0.6度高くなっています。20時に再検をお願いします」 |
| 「痛みがあるみたいです」 | 「創部の痛みはNRS(痛みを0〜10で表す尺度)で5です。15時に鎮痛剤を使いました」 |
| 「食欲がなさそうでした」 | 「昼食は主食3割、副食2割、水分は200mlでした。夕食の様子も見てください」 |
| 「あとはよろしくお願いします」 | 「21時の点滴交換と、ご家族への折り返しの電話をお願いします」 |
3. 話す前に、伝えることをメモで整理する
交代の直前に思い出しながら話すと、伝え漏れが起きやすくなります。勤務中に気づいたことはその都度メモし、申し送りの前に7項目と優先順位に沿って並べ直してください。カルテや介護記録を読めば分かる数値は、口頭で読み上げずに記録を見てもらえば足ります。
4. 次の担当者がとる行動まで具体的にする
「様子を見てください」と頼まれても、次の担当者は何をどこまで確かめればよいか分かりません。「17時にもう一度体温を測り、37.5度以上なら主治医に連絡してください」のように、いつ、何を、どの基準で判断するかまで伝えてください。
5. 復唱と質問の時間をとる
最後の1〜2分を、聞き手が確認や質問をする時間にすると、聞き漏らしに気づけます。数値や指示は受け手に復唱してもらうと、聞き間違いをその場で直せます。新人や応援のスタッフが入る日は、復唱を決まりにしておくと安心です。
日本医療機能評価機構の医療安全情報No.102「口頭指示の解釈間違い」も、口頭で指示や依頼を受けるときは対象を復唱して確認するよう勧めています。AHRQが紹介する申し送りの型I-PASSでも、最後の手順は受け手による確認です(AHRQ「Tool: I-PASS」、英語)。受け手は聞いた内容をまとめ直し、質問をして、次にする作業を言い直します。
申し送りの例文|看護・介護・接客のテンプレート
看護はSBAR、介護は食事や排泄などの生活の項目、接客は時間帯ごとの出来事を軸にすると、例文の型がそろいます。SBARは、医療や看護の現場でよく使われる、状況・背景・評価・提案の頭文字をとった報告の型です。項目の順番が決まっていると、勤務帯が替わっても聞き手は同じ順番で情報を受け取れます。
看護師の申し送り例文(SBAR形式)
SBARの各項目に入れる内容の目安は次のとおりです。
| 要素 | 入れる内容の目安 |
|---|---|
| S:Situation(状況) | 患者氏名、病室、いま起きていること、バイタルサイン |
| B:Background(背景) | 診断名、既往歴、入院からの経過、最近の検査や処置 |
| A:Assessment(評価) | 現状をどう捉えているか、考えられる原因やリスク |
| R:Recommendation(提案) | 次の勤務帯に頼む作業、観察のポイント、医師へ報告する基準 |
術後2日目の患者さんについて、日勤から準夜勤へ申し送る例です。
S(状況):305号室の佐藤様、術後2日目です。16時のバイタルは血圧118/72、脈拍82、体温37.2度、SpO2 98%でした。創部の発赤や腫れはなく、痛みはNRSで2〜3です。
B(背景):大腸ポリープの切除後で、経過は順調です。朝から飲水を始め、昼は五分粥を半量召し上がりました。
A(評価):夕方から体温がわずかに上がっていますが、ほかに大きな変化はありません。術後の軽い炎症反応と考えています。
R(提案):20時にバイタルを測り直してください。38.0度以上、またはNRS5以上の痛みがあれば当直医への報告をお願いします。明朝に採血の指示があり、点滴は21時に交換する予定です。
急変の兆候がある患者さんでは、R(提案)で観察の間隔と報告の基準を数値で伝えます。準夜勤から深夜勤への例です。
S(状況):412号室の山田様、肺炎で入院4日目です。22時のバイタルは体温38.4度、SpO2 93%(室内気)、呼吸数22回でした。咳が少し増えています。
B(背景):抗菌薬を投与中で、日中のSpO2は96〜97%でした。夕方から微熱とだるさの訴えがあります。
A(評価):熱が下がりにくく、酸素化もやや低下しています。呼吸状態の悪化に注意が必要です。
R(提案):2時間ごとにSpO2と呼吸数を確認してください。SpO2が90%を下回るか、呼吸数が25回以上になったら当直医への報告をお願いします。酸素投与は2L/分までの指示が出ています。
例文の数値や報告の基準は一例です。実際には、医師の指示や病棟の基準に合わせて書き換えてください。1人にかけられる時間が短いときは、B(背景)をカルテに任せて短くし、A(評価)とR(提案)に時間を使うと伝わりやすくなります。
新しく入院した患者さんについては、年齢と病名、入院の経緯、アレルギー歴、既往歴、感染症の有無、歩行や車いすなどの移動の方法を最初に伝えましょう。受け持つ看護師が準備を進めやすくなります。
介護の申し送り例文(生活の項目別)
介護の申し送りは、食事・排泄・入浴・服薬・睡眠といった生活の項目ごとにまとめるのが一般的です。項目を決めておくと、勤務帯が替わっても、利用者さんの生活のリズムに沿ったケアを続けやすくなります。
| 項目 | 伝える内容 |
|---|---|
| 食事 | 食べた量、水分量、むせの有無 |
| 排泄 | 回数、量、性状、介助の程度 |
| 入浴・清潔 | 入浴の有無、皮膚の状態、清拭をしたか |
| 服薬 | 服薬したか、飲み残しや拒薬、頓服の使用 |
| 睡眠 | 寝ついた時刻、夜中に目が覚めた回数、夜間の様子 |
| ADL・気持ち | 歩行や移乗の様子、表情、発語、落ち着かない様子の有無 |
| 家族・外部連絡 | 面会、電話、ご家族や主治医からの連絡事項 |
特別養護老人ホームで、日勤から夜勤へ申し送る例です。
102号室の田中様:昼食は主食8割、副食7割で、水分は1,200mlとれています。排泄は午後にトイレ介助で2回、普通便でした。14時の入浴はご本人の希望で中止し、清拭のみ行いました。左のふくらはぎに軽い発赤があり、軟膏を塗っています。夕食後の薬は予定どおりです。日中は穏やかに過ごされました。転倒歴があるため、夜間は1時間ごとの巡視をお願いします。
認知症のある方については、落ち着かなくなったきっかけと、落ち着いたときの関わり方も伝えると、次の担当者が同じ対応を続けられます。
205号室の高橋様:午前中は穏やかでしたが、15時ごろに「家に帰る」と玄関へ向かわれました。無理に止めず、一緒にお茶を飲みながらお話を伺うと落ち着かれました。服薬と食事は問題なく済んでいます。夕方は同じ訴えが出やすい時間帯です。声をかけて、別の作業にお誘いいただけると安心です。
訪問介護では、ヘルパー同士が顔を合わせる機会が少ないため、次に訪問する人が記録を読んだだけで動けるように書きましょう。
佐々木様(身体介護):14時に訪問し、60分滞在しました。入浴介助を行い、皮膚の状態に異常はありません。水分はお茶を200ml召し上がりました。作り置きのおかずが残りわずかで、次回は買い物のご希望があります。歩くときにふらつきが見られたため、次回は移動のときの見守りを重点的にお願いします。
状態の変化を看護師やご家族に報告するときは、介護でもSBARの順番を使うと便利です。生活の項目で気づいた変化をS(状況)に置き、主治医やご家族、ケアマネジャーへの連絡が必要かどうかをR(提案)で伝えると、相手が判断しやすくなります。
施設の形態によって、詳しく伝えたい項目も変わります。
| 形態 | 特に詳しく伝えたい項目 |
|---|---|
| 特養・老健(入所) | 夜間の睡眠と巡視、服薬、皮膚の状態、転倒のリスク |
| デイサービス(通所) | 来所時のバイタル、活動への参加、送迎時のご家族への連絡 |
| 訪問介護 | 行ったケアの内容、次回への依頼、住まいの様子の変化 |
| グループホーム | 認知症の症状の変化、落ち着かなくなるきっかけと効果のあった関わり方 |
接客・店舗の申し送り例文(時間帯別)
小売・飲食・ホテルなどの申し送りは、担当した時間帯に起きたことと、次の時間帯に頼みたいことが中心です。
11〜17時帯:14時にレジ2番でレシートの印字不良があり、修理を手配しました。明日の午前に業者が来ます。ピーク時に特売品が品切れになり、お客様からのご意見が1件ありました。店長には共有済みです。閉店までに補充をお願いします。明日10時から新人スタッフが初めて出勤するので、ロッカーとタイムカードの案内をお願いします。
誰に、いつまでに、何を頼むのかを1〜2文で言い切るのがコツです。忙しい時間帯でも、次の担当者がすぐに動けます。
申し送りを効率化する方法
申し送りの効率化は、記録と口頭の役割分担、書式の統一、音声を文字で残す仕組みの3つから進められます。すべてを口頭で伝えようとすると時間が延び、聞き手も覚えきれないためです。
記録と口頭の役割を分ける
伝える手段ごとに役割を決めておくと、口頭で話す量を減らせます。
| 手段 | 適した内容 |
|---|---|
| 記録(カルテ・介護記録) | バイタル、摂取量、処置、服薬など、事実の積み重ね |
| 申し送りノート・チャット | 勤務帯をまたぐ作業、家族への連絡、注意事項 |
| 口頭 | 急変や転倒など緊急度の高い情報、判断の背景、細かなニュアンス |
書式を統一し、使われているか見直す
誰が書いても同じ順番と同じ項目で情報が並ぶようにすると、読む人は必要な情報をすぐに見つけられます。紙のノート、電子カルテの申し送り欄、チャットのテンプレートのどれでも考え方は同じです。書式がそろうと記入漏れに気づきやすく、新人にも教えやすくなります。
申し送りノートが読まれなくなっている場合は、項目が現場の実態と合っていないことがあります。実際に使う項目だけを残して書式を作り直し、書く時間と読む時間を勤務の中に確保してください。
音声を文字にして記録に残す
口頭の申し送りや勤務中の声かけを後から読み返せると、聞き逃しや記憶違いに気づきやすくなります。スマートフォンをトランシーバーのように使えるアプリの中には、話した内容を自動で文字に起こせるものもあります。選ぶときは、次の点を確かめておくと安心です。
- 使う予定の端末と施設のWi-Fi環境で動くか
- 文字にした内容を見られる人と、保存する期間を決められるか
- 端末をなくしたときにデータを消せるなど、管理の機能があるか
こうしたアプリの一つがLINE WORKSラジャーです。ボタンを押して話すと、同じチャンネルのメンバーに声が届きます。アドバンストプランでは、会話を発話者名と時刻付きで自動的に文字に起こせます。
よくある質問
申し送りの時間はどのくらいが目安ですか?
決まった基準はなく、受け持つ人数や業務の内容によって変わります。職場で1人あたりの持ち時間の目安を決め、記録を読めば分かることを口頭から外すと、時間が延びにくくなります。長くなりやすい場合は、いま口頭で話している内容を一度書き出し、記録で足りるものがないか見直してみてください。
申し送りはメールやチャットで済ませてもよいですか?
メールやチャット、申し送りノートなど、文字で申し送る職場もあります。文字で残すと後から読み返せますが、急変のおそれや判断の背景など取り違えると影響が大きい内容は、直接話して伝えると確実です。AHRQも、電子的な申し送りは当事者2人の直接のやりとりで補うと最も効果を上げやすいとしています(AHRQ「Tool: Handoff」、英語)。
新人はどうやって申し送りを覚えればよいですか?
先輩の申し送りを書き起こし、型をまねるところから始めるのがおすすめです。SBARや職場の書式に当てはめて書いてみると、自分が飛ばしやすい項目が分かります。最初のうちは、話す前にメモを用意して問題ありません。慣れてくると、メモを見なくても大事な順に話せるようになります。
申し送りのメモや録音は残してもよいですか?
残す場合は、事業所の個人情報の取り扱いの決まりに沿って扱います。個人のメモは持ち帰らず、必要な内容を記録に移してから勤務の終わりに処分すると安全です。個人情報保護委員会と厚生労働省のガイダンスも、不要な個人データは復元できない形で廃棄するよう示しています(個人情報保護委員会「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」)。録音する場合は、保存期間と聞ける人を先に決めておきましょう。
まとめ
申し送りは、交代した担当者が迷わず動けるように情報を渡す仕事です。押さえておきたい点は次のとおりです。
- 状態の変化、行ったこと、残った作業、外部からの指示など7項目を、緊急度の高い順に伝える
- 型を決めて結論から話し、事実を数値で示し、次にしてほしいことは時刻と基準まで伝える
- 看護はSBAR、介護は生活の項目、接客は時間帯を軸に例文の型をそろえる
- 記録にあることは口頭で繰り返さず、書式の統一と記録の仕組みで時間を短くする
まずは次の勤務で、申し送りの最後に1〜2分、復唱と質問の時間をとるところから始めてみてください。
勤務中の連絡を声でやりとりする手段を見直す場合は、スマートフォンをトランシーバーのように使えるLINE WORKSラジャーも選択肢の一つです。フリープランは0円で試せます(会話は40分で一度切断)。有償プランは30日間の無償トライアルがあります。