介護施設のインカム選び方|種類・費用・補助金と加算の要件を解説

介護施設のインカムは、介助中の応援要請や夜勤の少人数連携を支える連絡手段で、種類によって届く範囲や費用、補助金の扱いが変わります。   この記事では、種類と選び方、補助金と加算の要件、定着させる運用ルールまで解説します。

目次

    介護施設でインカムを使うメリットと注意点

    インカムはその場を離れずに応援を呼べるため移動を減らせますが、装着の負担や定着の難しさといった注意点もあります。

    介護施設では、移乗や排泄の介助中に人手が必要になったり、別のフロアで転倒に気づいたりと、離れた場所にいる職員へすぐ声をかけたい場面が1日に何度もあります。内線電話まで戻ったり相手を探しに行ったりすると、対応が遅れるうえ、進めていた介助も中断されます。インカムを使うと、次のような変化が期待できます。

    • 介助の手を止めずに、その場から応援を呼べる
    • 1回話すだけで、同じグループの職員全員に伝わる
    • 夜勤のような少人数の時間帯でも、互いの居場所と状況をつかみやすい
    • 経験の浅い職員に、離れた場所から声で助言できる

    一方で、導入の前に知っておきたい注意点もあります。

    • 長時間つけると耳が痛くなる、会話がずっと聞こえて疲れるといった負担
    • 端末代や月額料金、充電と紛失の管理
    • 入居者の近くで話すと、個人情報が周りに聞こえるおそれ
    • 使い方のルールがないと、使う職員と使わない職員に分かれてしまうこと

    注意点の多くは、機器の選び方と使い方のルールで軽くできます。

    介護施設で使われるインカムの種類と費用の目安

    主な種類は特定小電力・デジタル簡易無線・IP無線・スマホアプリ型の4つで、届く範囲と費用のかかり方が異なります。

    大きな違いは、端末どうしで電波を直接やりとりするか、携帯電話の回線やWi-Fiを通すかです。

    種類 届く範囲の目安 免許・手続き 費用の目安 向く施設
    特定小電力トランシーバー 同じフロアや近い距離が中心。鉄筋コンクリートの床をまたぐと届きにくい 不要 本体1台5,000円〜3万円程度 1フロアで完結する小規模な施設
    デジタル簡易無線 特定小電力より広い範囲 総合通信局への登録または免許(無線従事者の資格は不要) 本体1台3万〜8万円程度と毎年の電波利用料 敷地が広い施設、建物が分かれている施設
    IP無線 携帯電話の回線が届く範囲(距離の制限なし) 不要 本体1台5万〜10万円程度と毎月の回線費 送迎など施設の外との連絡が多い事業所
    スマホアプリ型 Wi-Fiや携帯電話の回線につながる範囲(距離の制限なし) 不要 手持ちのスマートフォンを使えば端末代はかからず、1ユーザーごとの月額が中心 複数階・複数棟の施設、法人内の別の事業所ともつなぎたい場合

    届く範囲と本体価格は、販売各社の案内に見られる目安です。建物の構造や機種によって大きく変わります。方式ごとの価格は業務用インカムの値段と価格相場で比べています。

    内線電話や構内PHSを使っている施設もあります。ワイモバイルの通話向けPHSは2021年1月31日に提供を終了しましたが(出典:ワイモバイル「PHSのサービス終了のご案内」)、施設の中に基地局を置く構内PHSは別の仕組みで、今も使えます。ただ、構内PHSは相手を呼び出して1対1で話す使い方が中心です。複数の職員に同時に伝える連絡には、インカムが向いています。

    専用機とスマホアプリ型のどちらを選ぶか

    判断の分かれ目は、建物の構造と、どこまで連絡を届けたいかです。1フロアで完結する施設なら、特定小電力の専用機で届くことが多く、月額の費用もかかりません。複数階・複数棟の施設や、同じ法人の別の事業所ともつなぎたい場合は、回線を使うスマホアプリ型やIP無線のほうが電波の制約を受けにくくなります。

    専用機は防水や耐衝撃に配慮した業務用のモデルが多く、電源を入れてボタンを押すだけで使える手軽さがあります。スマホアプリ型は、施設のWi-Fiが全館で安定していることが前提です。そのうえで、文字での連絡やナースコールの受信を1台のスマートフォンにまとめやすく、話した内容を文字で残せるアプリもあります。

    介護施設のインカムの選び方|5つの確認ポイント

    電波が届くか、長時間つけても負担が少ないか、防水と衛生、ナースコール連携、記録と個人情報の5点を確かめます。

    1. 施設の中で電波が届くか

    専用機は、鉄筋コンクリートの床や防火扉、エレベーターの中で電波が弱まりやすく、同じ建物の中でも届かない場所が出ることがあります。スマホアプリ型は施設のWi-Fiが前提になるため、居室の奥や浴室、階段に電波の弱い場所がないかを確かめます。

    導入の前には、1階の事務所と最上階の奥の居室のように、条件の悪い場所どうしで試し通話をしておくと安心です。Wi-Fiを整えるための機器は、後で紹介する補助金の対象になる場合があります。

    2. 長時間つけても負担が少ないか

    介護職員は、勤務のあいだ長い時間インカムをつけたまま動きます。耳をふさぐイヤホンは痛みや蒸れが出やすく、入居者の声やナースコールの音も聞き取りにくくなります。片耳タイプや、耳をふさがない骨伝導タイプなら、周りの音を聞きながら通話できます。

    話し始めの操作も確かめておきます。ボタンを押している間だけ話せるPTT(Push-to-Talk)方式は操作が分かりやすい一方で、両手がふさがる介助中は押せません。イヤホン側のボタンで送信できるか、声を検知して送信を始める機能があるかを見ておくと、介助中でも話しやすくなります。

    3. 防水と衛生管理に対応できるか

    入浴や排泄の介助では、端末やイヤホンに水がかかることがあります。防塵・防水の性能は、IP67のようなIPコードで確かめます。2桁目の数字が水への強さを表し、7は一時的に水に沈めても耐える等級です。

    感染対策の面では、消毒液で拭ける素材か、イヤホンを職員ごとに分けられるかも確認しておきたい点です。スマートフォンを使う場合は機種によって等級が違うため、防水ケースを使う前提でルールを決める方法もあります。

    4. ナースコール・見守りセンサーと連携できるか

    ナースコールの呼び出しをスマートフォンで受けられる製品もあります。呼び出しを受ける端末と、職員どうしで話す端末をそろえると、持ち歩く機器を減らせます。連携できるかどうかや方式はナースコールのメーカーや機種で異なるため、今の設備で何ができるかを先に確認します。詳しくはナースコールとスマートフォンの連動で解説しています。

    見守りセンサーは、入居者の離床などを検知して知らせる機器です。インカムは、その知らせを受けて誰がどう動くかを職員どうしで決めるための手段で、役割が違います。後で紹介する加算や夜間の人員配置基準の緩和も、見守り機器とインカム等を組み合わせて使うことが前提になっています。

    5. 記録を残せるか、個人情報をどう守るか

    音声は流れて消えるため、聞き逃した連絡を後から確かめられません。スマホアプリ型の中には話した内容を文字に起こして残せるものがあり、夜勤中に気づいた小さな変化を、日勤の職員が出勤後に読んで確かめられます。

    入居者やご家族の近くで話すと、会話が周りに聞こえることがあります。氏名や病状を声でそのまま伝えないルールを決め、記録を残す場合は、誰がいつまで見られるかも決めておきます。個人情報の扱いは、個人情報保護委員会「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」が参考になります。

    スマートフォンをインカムのように使えるアプリには、LINE WORKS ラジャーのようなサービスもあります。インターネットにつながっていれば、フロアや棟をまたいで距離の制限なく話せます。アドバンストプランでは、発話を自動でテキストに変換できます。

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    インカム導入に使える補助金|介護テクノロジー導入支援事業

    インカムは介護テクノロジー導入支援事業で補助を受けられる場合があり、補助率や上限額は年度と都道府県で変わります。

    介護テクノロジー導入支援事業は、介護ロボットやICT機器を導入する介護事業所に、都道府県が費用の一部を補助する事業です。国の地域医療介護総合確保基金を財源にしています。令和7年度の厚生労働省の事業概要では、ICTの補助対象として、介護ソフトやタブレット端末と並んでインカムが挙げられています(出典:厚生労働省「介護テクノロジー導入支援事業」(令和7年度))。

    項目 令和7年度の主な内容
    実施主体 都道府県(申請先も都道府県)
    ICTの補助対象 介護ソフト、タブレット端末、インカム、クラウドサービスなど。Wi-Fi環境を整えるための機器も対象(通信費は対象外)
    ICTの補助上限額 事業所の職員数に応じて100万〜250万円
    補助率 2分の1が下限。職員賃金への還元を効果報告に明記することなどの要件を満たすと4分の3が下限
    主な要件 業務改善計画の提出と効果の報告、第三者による業務改善支援や研修などの受講。入所・泊まり・居住系は委員会の設置

    令和7年度補正予算では「介護テクノロジー導入・協働化・経営改善等支援事業」が設けられました。見守り機器・介護記録ソフト・インカムは業務時間の削減効果が確認されているとして、集中的に支援するとされています。Wi-Fi環境の整備費用も対象に含まれています(出典:厚生労働省「介護保険最新情報Vol.1448」)。要件は年度ごとに見直されており、令和8年度の概算要求では、介護情報基盤の利用準備を整えることが要件に加わっています(厚生労働省 老健局「令和8年度概算要求の概要」)。

    申請の前には、都道府県の公募要領で次の点を確かめておくと進めやすくなります。

    • 公募の時期と申請の締め切り
    • 導入したいインカムが補助対象になるか、対象の判定方法
    • 契約や購入をしてよい時期
    • 補助で購入する端末は業務専用にし、私物と区別すること
    • Wi-Fi工事や見守り機器とあわせて申請する場合の対象経費

    機器によっては、テクノエイド協会の福祉用具情報システム(TAIS)に登録されているものもあり、補助対象の判定で参照されることがあります。ただ、TAISに登録されていることと、その年度に補助対象になることは別で、最終的には都道府県が判断します。介護のICT補助金全体の見取り図は、介護ICT補助金の主要制度で紹介しています。

    インカムが要件になる加算と夜間の人員配置基準

    生産性向上推進体制加算や夜間の人員配置基準の緩和では、インカム等を職員全員が使うことが要件の一部になっています。

    生産性向上推進体制加算

    令和6年度の介護報酬改定で新しく設けられた加算です。見守り機器などのテクノロジーを導入し、ガイドラインに沿った業務改善を続ける事業所を評価します。対象は、施設系・居住系・短期入所系・多機能系のサービスです。

    区分 単位数 テクノロジーの要件 そのほかの主な要件
    加算(Ⅱ) 月10単位 見守り機器、インカム等、介護記録ソフト等のうち1つ以上 委員会の開催と安全対策、ガイドラインに沿った業務改善の継続、年1回の効果データの提出
    加算(Ⅰ) 月100単位 3つすべて(見守り機器はすべての居室に導入) 加算(Ⅱ)の要件を満たし、データで成果が確認されていること。職員間の役割分担の見直し

    ここでいうインカム等は、マイク付きのイヤホン(インカム)やビジネス用のチャットツールなど、職員間の連絡調整を速くするICT機器を指します。加算(Ⅰ)(Ⅱ)のどちらも、同じ時間帯に勤務するすべての介護職員が使うことが求められます(出典:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定 生産性向上推進体制加算について」)。

    夜間の人員配置基準の緩和

    見守り機器とインカム等を組み合わせて使う施設では、夜間の人員配置基準を緩和できる仕組みもあります。介護老人福祉施設などでは、令和3年度の改定でこの緩和が設けられました。令和6年度の改定では、介護老人保健施設(ユニット型を除く)と短期入所療養介護でも、要件を満たせば夜間の配置人員を2人以上から1.6人以上にできるようになりました。主な要件は次のとおりです。

    • すべての利用者に見守りセンサーを導入している
    • 夜勤職員全員がインカム等のICTを使っている
    • 委員会の設置、休憩時間の確保、緊急時の体制、機器の定期点検、職員への教育などで安全体制を確保している

    導入後は少なくとも3か月試行し、委員会で安全やケアの質、職員の負担軽減が確保されていることを確かめてから届け出ます(出典:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」)。機器をそろえるだけでは要件を満たせないため、施設の種別ごとの要件は指定権者である都道府県や市町村に確認してください。

    導入後に定着させる運用ルール

    インカムは全員が同じルールで使うほど役に立つため、呼び出し方や伝える内容、充電と管理の決まりを先に決めておきます。

    機器を配っても、使い方が人によって違うと、使う職員と使わない職員に分かれてしまうことがあります。加算や夜間の人員配置基準の緩和では全員が使うことが前提になるため、決め事は導入の時点で職員全員と共有しておくと安心です。

    決めておくこと 内容の例
    呼び出し方 相手の名前と自分の居場所から話す。応援を呼ぶときの決まった言い方を決めておく
    伝える内容 入居者の近くでは氏名や病状を声に出さず、居室番号など決めた呼び方で伝える
    チャンネルの分け方 全体連絡用と、フロアやユニットごとの連絡用に分ける
    ほかの手段との使い分け 急ぎの連絡はインカム、長い内容は介護記録や申し送りノートに書く
    装着と充電 出勤時に受け取り、退勤時に充電場所へ戻す。予備の端末を用意しておく
    紛失・故障への備え 貸し出しの台帳をつける。スマートフォンは紛失時に利用を止める手順を決める
    ルールの見直し 導入から1〜3か月後に職員の意見を聞き、使いにくい点を直す

    新しく入った職員にも同じ説明ができるよう、ルールは1枚の紙にまとめて掲示しておくと伝わりやすくなります。

    よくある質問

    職員の私物のスマートフォンをインカムとして使ってもよいですか?

    法人のルールで認めていれば使えますが、個人情報の管理や、端末をなくしたときの対応を先に決めておく必要があります。通信費や手当の扱いも、職員と話し合っておくと安心です。補助金を使う場合は、購入した端末を業務専用にする必要があるため、私物の端末とは分けて考えます。

    デイサービスや訪問介護でもインカムは使えますか?

    使えます。デイサービスでは、送迎車の到着や利用者の体調の変化を事業所の中で共有する場面で役立ちます。訪問介護のように職員が別々の場所で働く場合は、距離の制限がないIP無線やスマホアプリ型が向いています。車を運転している間は話さず、停車してから確認するルールにしておきます。

    インカムは何台用意すればよいですか?

    同じ時間帯に働く職員の人数分に、故障や充電のための予備を加えるのが目安です。生産性向上推進体制加算や夜間の人員配置基準の緩和を目指す場合は、同じ時間帯の介護職員全員(夜間は夜勤職員全員)が使うことが要件になるため、その人数分が必要です。スマホアプリ型は1ユーザーごとの料金が多いため、勤務帯をまたいで端末を共有できるかも確認しておきます。

    まとめ

    介護施設のインカムを選ぶときに押さえておきたい点は次のとおりです。

    • 1フロアで完結するなら特定小電力、複数階・複数棟や別の事業所との連絡はスマホアプリ型やIP無線が目安
    • 電波、装着の負担、防水と衛生、ナースコール連携、記録と個人情報の5点を施設の条件で確認
    • 補助金は介護テクノロジー導入支援事業。補助率・上限額・対象は都道府県の公募要領で確認
    • 生産性向上推進体制加算や夜間の人員配置基準の緩和では、インカム等を全員で使うことが要件の一部

    まずは電波が届きにくい場所どうしで試し通話をして、あわせて都道府県の公募の時期を確かめるところから始めてみてください。

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