製造業DXとは|IT化との違い、進め方と課題、取り組み例を解説

製造業DXとは、データとデジタル技術を使って、製品や業務、組織のあり方まで変え、競争力を高める取り組みです。   この記事では、IT化との違いと求められる背景、主な領域と取り組み例、進め方と進まない理由、使える補助金を解説します。

目次

    製造業DXとは|IT化・デジタル化との違い

    製造業DXは、ツールの導入そのものではなく、データを使って仕事の進め方や事業のあり方まで変えることを指します。

    経済産業省は、DXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています(出典: 経済産業省「デジタルガバナンス・コード」)。製造業に当てはめると、設計・生産・保全・品質・調達で生まれるデータをつなぎ、工程の組み方や人の動き方、製品の売り方までを見直す取り組みです。

    IT化・デジタイゼーション・デジタライゼーションとの違い

    DXと混同されやすい言葉に、IT化、デジタイゼーション、デジタライゼーションがあります。製造業の例で並べると、次のようになります。

    言葉 意味 製造業での例
    IT化 ITツールや機器を導入する タブレットや業務システムを配備する
    デジタイゼーション 紙やアナログの情報をデジタルに置き換える 紙の日報や点検表を電子化する
    デジタライゼーション 個別の業務や工程をデジタルで効率化する 生産管理システムで工程の進み具合を自動で集計する
    デジタルトランスフォーメーション(DX) データを軸に業務・組織・ビジネスモデルを変える 設備の稼働データをもとに、生産計画の立て方や保守サービスの売り方を組み替える

    IPA(情報処理推進機構)の「DX白書2023」によると、紙のデジタル化や業務の効率化で成果が出ている日本企業は約8割に達し、米国と差がなくなっています。一方、新しい製品・サービスの創出やビジネスモデルの変革で成果が出ている割合は20%台で、米国の約70%と大きな差があります(業種全体の調査。出典: IPA「DX白書2023 エグゼクティブサマリー」)。電子化や効率化は出発点であり、その先の変革までつなげられるかが製造業DXの分かれ目です。

    守りのDXと攻めのDX

    製造業DXの取り組みは、既存業務のムダやリスクを減らす守りのDXと、新しい付加価値や売上を生む攻めのDXに分けると整理しやすくなります。守りの例は、ペーパーレス化や工程の見える化、保全記録の電子化、現場の連絡手段の見直しです。攻めの例は、稼働データを使った保守サービスや、需要予測にもとづく生産計画、設計データを生かした個別受注です。守りで現場のデータと時間が整うと、攻めの取り組みに回せる余力が生まれます。

    製造業でDXが求められる背景

    背景には、働き手の減少と技能継承、古い基幹システム、外部環境の急な変化という3つの事情があります。

    働き手の減少と技能継承

    2026年版ものづくり白書によると、製造業の就業者数は2002年の1,202万人から、2025年には1,033万人に減っています。中小企業の従業員の過不足を示す指標でも、製造業は2025年にマイナス17.9と不足の側にあり、感染症が広がる前の2019年に近い水準です(出典: 経済産業省・厚生労働省・文部科学省「2026年版ものづくり白書 概要」)。

    人数だけでなく、技能の引き継ぎも課題です。同白書で紹介された調査では、技能継承のための取り組みとして最も多かったのが、再雇用や勤務延長で高年齢の従業員に働き続けてもらうこと(54.8%)でした。段取りや加工条件、設備の癖といったベテランの知識を、映像や作業記録、センサーのデータとして残していくことは、製造業DXの大切なテーマの一つです。

    2025年の崖と古い基幹システム

    経済産業省は2018年9月のDXレポートで、2025年の崖という言葉を使って警鐘を鳴らしました。複雑化・ブラックボックス化した既存システムを使い続けると、2025年以降に最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性があるという試算です。

    2025年5月に公表された経済産業省「レガシーシステムモダン化委員会総括レポート」でも、ユーザー企業の61%がレガシーシステム(古い技術で作られ、改修やほかのシステムとの連携が難しくなったシステム)を持ち、大企業では74%に上ると報告されています。生産管理や購買、原価計算の基幹システムからデータを取り出せない、つなげられないという壁は、この構造から生まれています。

    外部環境の急な変化

    原材料やエネルギーの価格高騰、関税措置や輸出規制など、製造業を取り巻く環境は短い期間で大きく動くようになりました。2026年版ものづくり白書でも、米国の関税措置や中国によるレアアースの輸出制限などを、影響の大きかった出来事として挙げる事業者が多かったと整理されています。

    部品がどこから届き、在庫がどこに滞っているかをすぐに把握できなければ、調達先の切り替えや生産計画の見直しが遅れます。取引先から温室効果ガスの排出量の開示を求められることもあり、工程ごとのエネルギー使用量をデータでつかむ必要も出てきています。

    製造業DXで得られる効果

    主な効果は、生産性の向上、品質の安定、技能の継承、判断の速さ、現場の働きやすさの5つです。

    効果 具体的な変化
    生産性の向上 設備の停止や段取り替えの待ち時間がどこで起きているかが分かり、改善する工程を絞り込める
    品質の安定 検査データと工程データを突き合わせ、不良が出やすい条件を特定できる
    技能の継承 ベテランの作業を映像や加工データで残し、若手が参照できる形にできる
    判断の速さ 前日の生産実績を翌朝の会議で確認でき、部門をまたいで同じ数字をもとに話せる
    働きやすさ 日報の記入や転記、人を探す移動や呼び出しが減り、本来の作業に使える時間が増える

    最初に変化が表れやすいのは、売上や利益より現場の時間です。日報の記入や帳票の転記、連絡の往復にかかっていた時間が減り、その分が加工や検査、改善活動に回るようになります。経営指標の変化は、こうした改善が積み重なった先で見えてきます。

    製造業DXの主な領域と取り組み例

    取り組みは設計から現場の連絡まで幅広く、どの領域もデータを取る・つなぐ・使う流れでつながっています。

    領域 取り組み例 主な技術・ツール
    設計・開発 図面や部品表の一元管理、試作前のシミュレーション 3D CAD、PLM(製品のライフサイクル全体のデータを管理する仕組み)、デジタルツイン
    生産・製造 工程の進み具合や設備稼働の見える化、作業手順の電子化 IoTセンサー、MES(製造実行システム)、生産管理システム
    保全・設備 保全記録の電子化、故障の予兆をとらえる予知保全 振動・温度センサー、保全管理システム
    品質 外観検査の自動化、ロット単位のトレーサビリティ 画像検査AI、検査データの管理システム
    サプライチェーン 在庫と納期の見える化、受発注データの電子化 EDI(企業間の電子データ交換)、需要予測
    現場の連携 ライン間・拠点間の連絡、トラブル時の即時共有、指示の記録 ビジネスチャット、音声で連絡できるアプリ、タブレット

    IoTで設備のデータを集める

    多くの取り組みの土台になるのが、IoT(機器をネットワークにつなぎ、データを集める仕組み)による設備データの収集です。稼働状況や振動、温度、電流を自動で記録できると、設備がいつ、どんな状態で動いていたかを後から追えるようになります。

    古い設備には通信機能がないことも多く、外付けのセンサーや信号の取り出しが必要になります。全ラインを一度に対応させるより、停止や手待ちの多いボトルネック工程から計測を始めると、投資の効果を確かめやすくなります。

    スマートファクトリーと予知保全

    スマートファクトリーは、集めたデータをシステムやAIで分析し、工場全体の生産を最適化・自動化していく考え方です。その代表的な使い方が予知保全で、設備データから故障の予兆をとらえ、壊れる前に部品交換や修理を行います。定期点検でまとめて交換する方法や、壊れてから直す方法に比べて、まだ使える部品の交換と突発的な停止の両方を減らせます。

    予知保全には、正常なときのデータの蓄積が欠かせません。高度なAIを検討する前に、保全台帳や点検記録を電子化し、設備ごとの稼働データをためておくことが近道になります。

    現場の連絡と情報共有

    見落とされやすいのが、人と人をつなぐ連絡の領域です。異常をダッシュボードで検知できても、現場の作業者が応援や指示をすぐに呼べなければ、対応は遅れます。広い工場やフロアをまたぐ現場では、呼びかけが届かない、伝言が抜けるといったことも起きやすくなります。

    この領域は大きな設備投資を必要としないことが多く、現場も変化を実感しやすいため、守りのDXの最初の一歩にも向いています。工場で使われる連絡手段の種類と選び方は、工場のインカムの選び方で詳しく紹介しています。

    スマートフォンをトランシーバーのように使えるアプリには、LINE WORKS ラジャーのようなサービスもあります。ボタンを押して話すと、インターネット回線を通じてフロアや拠点をまたいで音声が届きます。届いた音声は履歴に残り、アドバンストプランでは発話を文字起こしして読み返せます。

    LINE WORKS ラジャーの資料請求をする

    LINE WORKS ラジャー公式サイトをみる

    製造業DXの進め方|6つのステップ

    進め方の基本は、現場の困りごとから対象を絞り、小さく試して効果を確かめてから広げることです。

    ステップ やること ポイント
    1. 課題の棚卸し 工程・部門ごとに困っていることと、かかっている時間を書き出す 抽象的な目標より、具体的な困りごとから始める
    2. 目的と指標の設定 何をどれだけ改善するかを決め、経営層が方針として示す 稼働率・不良率・リードタイム・残業時間など、測れる指標にする
    3. 小さく試す 1ライン・1工程・1拠点に絞り、期間を決めて試す(PoC=本格導入前の小規模な検証) 効果の数字と、運用上の困りごとの両方を集める
    4. 現場を巻き込む体制づくり 工程リーダーや保全担当など、現場のキーマンを推進メンバーに入れる 使う人の声を仕組みの設計に反映する
    5. データ基盤の整備と横展開 成果が出た型を似た工程・拠点へ広げ、ネットワークやセキュリティを整える 基幹システムの刷新はこの段階で検討する
    6. 効果測定と見直し 決めた指標を定期的に確認し、うまくいかない施策は止める 結果を社内で共有し、次のテーマ選びに生かす

    中小企業では、ステップ1〜3を1つの工程で回すところから始めると、投資額を抑えながら社内の理解を得やすくなります。生産日報のペーパーレス化、設備稼働の簡易的な計測、現場の連絡手段の見直しなどは、比較的小さな費用で始められるテーマです。工場で取り組める具体的な改善策は、工場の業務効率化を進める方法で紹介しています。

    ステップは順番どおりに一気に進めなくても問題ありません。小さな検証を並行して進めながら、全体の計画を少しずつ更新していく形でも十分です。

    製造業DXが進まない理由と対策

    進まない理由は、データを生かす仕組みと人材の不足、部門の壁、現場の負担への懸念が重なって生じます。

    2026年版ものづくり白書によると、製造プロセスのデータを何らかの目的で取得している事業者は7割弱です。ただ、取得したデータを活用して効果が得られた事業者は約4割にとどまります。企業間のデータ連携も、2年前からほとんど進んでいません。AI・デジタル技術を活用するうえでの課題としては、知識・ノウハウや人材の確保の難しさが挙がっています(出典: 経済産業省・厚生労働省・文部科学省「2026年版ものづくり白書 概要」)。つまずきやすい点と対策の方向性は、次のように整理できます。

    つまずく層 起きやすいこと 対策の方向性
    経営 DXを情報システム部門だけの仕事にしてしまう、短期の費用対効果だけで判断する 経営課題として位置づけ、中期計画に指標と投資枠を組み込む
    組織 部門ごとにコードや業務ルールが違い、データがつながらない 部門横断のチームをつくり、権限と評価の仕組みで支える
    現場 ツールが使いにくい、教育が足りない、負担が増える不安がある 現場の作業が軽くなるテーマから始め、使いやすさを優先して選ぶ
    技術・人材 古いシステムと連携できない、データを扱える人がいない 段階的にシステムを刷新し、外部の専門家と社内育成を組み合わせる

    現場の負担を先に軽くする

    現場がDXに慎重になるのは、デジタルが苦手だからとは限りません。入力の手間が増える、使い方を覚える時間がない、といった負担への懸念は自然なものです。最初のテーマを現場の作業が軽くなる施策にすると、次の取り組みへの協力も得やすくなります。経営層と現場の間に立つ管理職が、現場の声を計画に反映できるかどうかも大切です。

    人材は外部の力と社内育成を組み合わせる

    データ分析やクラウド基盤の設計のような専門的なスキルは、外部の専門家やパートナーの力を借りると進めやすくなります。一方、自社の工程と製品を理解し、現場とデジタルの橋渡しをする役割は、社内で育てる方が向いています。公的な支援機関や地域の商工団体の相談窓口を活用する方法もあります。

    製造業DXに使える補助金

    主な支援策は、デジタル化・AI導入補助金、省力化投資補助金、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金です。

    制度名 支援の対象 製造業DXでの使いどころ
    デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金) 労働生産性の向上を目的とした、AIを含むITツールの導入 生産管理・在庫管理システム、業務のデジタル化、情報共有のツール
    中小企業省力化投資補助金 人手不足に悩む中小企業等の省力化投資 検査や搬送などの省力化設備、現場に合わせた設備導入やシステム構築
    新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 新製品・新サービスの開発、新市場への進出、輸出体制の強化に係る設備投資等 新製品の開発や新分野への進出に伴う設備投資

    IT導入補助金は、令和7年度補正予算事業からデジタル化・AI導入補助金に名称が変わりました。対象や申請の流れは、デジタル化・AI導入補助金(IT導入補助金)の解説にまとめています。

    中小企業省力化投資補助金には、カタログに掲載された汎用製品から選ぶカタログ注文型と、個別の現場に合わせた設備導入やシステム構築を支援する一般型の2つの類型があります。既存の工程を自動化・省力化したい場合の選択肢になります。

    2026年6月には、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の第1回公募要領が公開されました。新製品・新サービスの開発や新市場への進出を支援する制度で、革新的新製品・サービス枠では、既存の製品の生産プロセスを改善するだけの事業は対象外とされています。事務局は、従来のものづくり補助金(ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金)や中小企業新事業進出補助金とは異なる補助金だと案内しています。

    補助率や上限額、公募期間は公募回ごとに変わるため、申請前に各事務局の最新の公募要領をご確認ください。

    よくある質問

    スマートファクトリーと製造業DXはどう違いますか?

    スマートファクトリーは、IoTやAIで工場の生産を最適化・自動化する取り組みで、製造業DXの一領域にあたります。製造業DXは工場の中だけでなく、設計や調達、販売、組織のあり方まで含む広い考え方です。工場の現場をどう賢くするかがスマートファクトリー、事業全体をどう変えるかが製造業DX、と捉えると整理しやすくなります。

    製造業DXに使うツールにはどのようなものがありますか?

    目的によって選ぶツールが変わります。工程や設備の見える化にはIoTセンサーやMES、生産計画や在庫の管理には生産管理システム、紙の帳票を減らすにはワークフローや電子帳票のツールが使われます。現場の連絡や情報共有には、ビジネスチャットや音声で連絡できるアプリがあります。どれを入れるかより先に、解決したい課題を決めておくと選びやすくなります。

    製造業DXにはどれくらいの期間がかかりますか?

    対象の範囲によって大きく変わります。1つの工程で試す小規模な検証なら数か月で効果を確かめられることもありますが、基幹システムの刷新や全社の業務改革まで含めると、数年がかりの取り組みになります。短期で成果を確かめる計画と中長期の計画を分けて立てておくと、経営層と現場で進み具合を共有しやすくなります。

    まとめ

    製造業DXは、ツールを入れることではなく、データを使って工程や組織、事業のあり方まで見直していく取り組みです。進めるうえで押さえておきたい点は次のとおりです。

    • IT化や電子化は出発点で、データを使った業務や事業の見直しまでつなげるのがDX
    • 背景には働き手の減少と技能継承、古い基幹システム、外部環境の急な変化がある
    • 現場の困りごとから対象を1つに絞り、小さく試して効果を確かめてから広げる
    • 補助金は目的に合う制度を選び、最新の公募要領で要件を確かめる

    何から始めるか迷ったときは、1つの工程を選び、どの作業に誰がどれだけ時間を使っているかを書き出してみてください。紙の記録や連絡の往復など、デジタルで軽くできる作業が見えてくるはずです。

    現場の連絡手段を見直す場合は、スマートフォンをトランシーバーのように使えるLINE WORKS ラジャーも選択肢の一つです。フリープランは0円で試せます(会話は40分で一度切断)。有償プランは30日間の無償トライアルがあります。

    LINE WORKS ラジャーの資料請求をする

    LINE WORKS ラジャー公式サイトをみる