介護DXとは|国の施策・メリット・進め方と補助金を解説

介護DXとは、デジタル技術とデータで介護現場の業務を見直し、職員の負担軽減とケアの質の向上を両立させる取り組みです。   この記事では、背景と4つの領域、LIFEや介護情報基盤などの国の施策、進め方と補助金を解説します。

目次

    介護DXとは|ICT化・デジタル化との違い

    介護DXは、機器やソフトを入れること自体ではなく、それを使って仕事の進め方とケアの質を変えていく取り組みです。

    DXはデジタルトランスフォーメーションの略です。介護の現場に当てはめると、紙の記録や口頭の申し送り、ナースステーションに集まる呼び出しといった日々の業務を、ICT機器やデータを使って組み立て直すことを指します。厚生労働省も「介護DXの推進」として、ICT等を活用した業務の効率化や、関係者が利用者の情報を電子で共有できる介護情報基盤の整備を進めています。

    ICT化・デジタル化との違い

    ICT化やデジタル化は、介護DXの手段や途中の段階にあたります。経済産業省のDXレポート2が示す3つの段階を介護の例に当てはめると、次のようになります。

    段階 意味 介護現場での例
    デジタイゼーション アナログの情報をデジタルデータにする 紙の介護記録をタブレット入力に変える
    デジタライゼーション 個別の業務やプロセスをデジタルで変える 入力した記録を多職種で共有し、申し送りや転記の手間を減らす
    デジタルトランスフォーメーション 組織全体の業務や事業のあり方を変える たまった記録や見守りのデータをもとに、ケアの内容や職員の配置、働き方を見直す

    記録ソフトを入れても紙との二重入力が残っている状態は、まだ入口の段階です。データが日々のケアの見直しや業務の組み替えにつながったとき、介護DXと呼べる状態に近づきます。

    介護DXが求められる背景

    2040年に向けて介護の需要が増える一方で働き手は減るため、限られた人数で質を保つ仕組みが求められています。

    厚生労働省は「介護DXの推進」の中で、2040年頃に団塊ジュニア世代が65歳以上となり、医療と介護の両方を必要とすることが多い85歳以上の人口が増えると見込んでいます。その一方で、生産年齢人口は急減していくとしています。

    厚生労働省の「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」によると、介護職員は2022年度の215万人に対して、2026年度には約240万人、2040年度には約272万人が必要と推計されています。

    採用を増やすだけでこの差を埋めるのは難しいため、記録の転記や人を探して歩く時間といった間接的な業務を減らし、生まれた時間を利用者と向き合うケアに充てることが求められています。厚生労働省も、介護テクノロジー導入支援事業の目的を、職員の負担を軽くし、生み出した時間を直接的な介護ケアの業務に充てることと説明しています。

    介護DXのメリット

    主なメリットは、職員の負担軽減、情報共有の速さ、データにもとづくケア、加算や制度への対応のしやすさの4つです。

    メリット 現場で起きる変化
    職員の負担軽減 記録の転記や集計、人を探す移動が減り、見守り機器の情報を見てから訪室を判断できる
    情報共有の速さ 記録や呼び出しがその場で共有され、申し送りや応援の依頼にすぐ対応できる
    データにもとづくケア 記録や見守りのデータから利用者の変化に気づきやすくなり、ケアの見直しに使える
    制度への対応 LIFEへのデータ提出、介護情報基盤での情報共有、生産性向上推進体制加算の要件に対応しやすくなる

    負担が軽くなり情報が行き届く職場は、働き続けやすい職場にもつながります。効果を法人内で共有するときは、導入前後の業務時間や残業時間を比べると伝わりやすくなります。

    介護DXで取り組む4つの領域

    介護DXの対象は、記録・情報共有、見守り、ナースコール、職員間の連絡の4領域に整理でき、課題の大きいところから選びます。

    厚生労働省は、見守り機器・介護記録ソフト・インカムについて業務時間の削減効果が確認されているとして、導入費用の補助で集中的に支援する方針を示しています(出典: 厚生労働省「ケアプランデータ連携システムの統合と介護情報基盤について」)。

    領域 主な対象業務 代表的なツール
    記録・情報共有 介護記録、ケアプラン、LIFEへのデータ提出、請求 介護記録ソフト、タブレット端末
    見守り 居室の状態確認、離床・転倒の検知、睡眠の把握 見守りセンサー、カメラ型の見守り機器
    ナースコール 利用者からの呼び出しへの対応 ナースコール設備、スマートフォンとの連携
    職員間の連絡 フロア間の連絡、応援の依頼、申し送り インカム、スマートフォンのトランシーバーアプリ、ビジネスチャット

    記録・情報共有

    介護記録ソフトとタブレットを使うと、ケアの直後にその場で入力でき、紙からパソコンへの転記がなくなります。LIFEへのデータ提出や請求に対応したソフトなら、日々の入力をそのまま使えるため、記録の電子化はほかの領域の土台にもなります。居宅介護支援事業所とサービス事業所の間では、ケアプランをデータでやりとりするケアプランデータ連携システムも使われています。

    見守り

    見守り機器は、利用者の離床や体動などを検知して職員に知らせる機器です。方式ごとの特徴は次のとおりです。

    方式 仕組み 導入時に確かめたい点
    ベッドセンサー型 マットや体動センサーで離床・呼吸・心拍を検知する どの利用者のベッドに設置するか
    カメラ型 居室の映像を解析し、姿勢や動作の変化を検知する プライバシーへの配慮と、本人・家族の同意
    センサー複合型 人感・開閉・環境センサーを組み合わせる 誤検知を減らすための調整
    ウェアラブル型 腕時計型などの端末で心拍や活動量を計測する 利用者が装着を負担に感じないか

    見守り機器が担うのは、異変に気づくところまでです。通知を受けたあと誰に知らせ、誰が駆けつけるかは、ナースコールや職員間の連絡とあわせて決めておきます。

    ナースコール

    既存のナースコール設備にスマートフォンとの連携を加えると、職員はナースステーションに戻らなくても、呼び出しの場所や内容を手元で確認できます。応答の履歴が残る仕組みなら、対応の振り返りにも使えます。導入前には、既存設備との互換性、館内のWi-Fiの届き方、端末の管理方法を確認しておきます。仕組みはナースコールとスマートフォン連携の解説で詳しく紹介しています。

    職員間の連絡・申し送り

    PHSや館内放送、家庭用のトランシーバーで連絡している施設では、呼び出しが届かない、誰が応じたか分からない、内容が記録に残らないといった困りごとが起きやすくなります。夜勤帯のように少人数で離れた居室を見ている時間は、ケアで手がふさがったまま応援を呼びたい場面もあります。

    インカムを使うと、ハンズフリーで声をかけ合えます。スマートフォンのアプリを使う方法なら、インターネット回線を通じて離れたフロアや別の建物にも声が届き、専用機を人数分そろえる必要もありません。介護施設での選び方は介護施設のインカムの解説にまとめています。

    スマートフォンをトランシーバーのように使えるアプリには、LINE WORKS ラジャーのようなサービスもあります。ボタンを押して話すとグループに音声が届いて履歴に残り、アドバンストプランでは発話を自動でテキストに変換できます。

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    国が進める介護DXの施策|LIFE・介護情報基盤・加算

    国の施策は、LIFE、介護情報基盤、生産性向上推進体制加算の3つを押さえると、自施設で準備することが見えてきます。

    LIFE(科学的介護情報システム)

    LIFEは、利用者の状態やケアの内容などのデータを事業所が提出し、分析結果をフィードバックとして受け取れる厚生労働省のシステムです。フィードバックはケアの見直しに使えます。LIFEへのデータ提出は、科学的介護推進体制加算などの算定要件になっています(出典: 厚生労働省「科学的介護情報システム(LIFE)について」)。

    紙の記録から様式に書き写していると、提出のたびに手間がかかります。LIFEへの出力に対応した記録ソフトを使えば、日々の入力を提出に生かせます。

    介護情報基盤(2026年4月から順次開始)

    介護情報基盤は、自治体・利用者・介護事業所・医療機関などが介護情報を電子的に閲覧できるようにする仕組みで、介護保険法の改正にもとづいて整備が進められています(出典: 厚生労働省「介護情報基盤について」)。事業所では、利用者の資格や要介護認定、給付の状況などを確認しやすくなり、自治体への問い合わせの負担が減ることが期待されています(厚生労働省 Webマガジン)。

    令和8年(2026年)4月1日以降、準備が整った市町村から順に利用が始まり、令和10年(2028年)4月1日までに全市町村での活用開始を目指すスケジュールです。事業所は、インターネットにつながった端末から介護保険資格確認等WEBサービスを使って情報を確認します。カードリーダーなどの準備が必要で、導入費用の助成や自治体ごとの開始時期は介護情報基盤ポータルで案内されています。また、ケアプランデータ連携システムは、2027年(令和9年)1月に介護保険資格確認等WEBサービスへ統合される予定です。

    生産性向上推進体制加算

    生産性向上推進体制加算は、令和6年度の介護報酬改定で新設された加算です。委員会を開いて安全対策を検討したうえでテクノロジーを導入し、業務改善を続けて、その効果を示すデータを年1回提出する事業所を評価します。対象は、短期入所系・居住系・多機能系・施設系のサービスです(出典: 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定 生産性向上推進体制加算について」)。

    算定に使うテクノロジーは、次の3種類です。

    種類 内容 留意点
    見守り機器 利用者の離床などを感知し、職員に通報できるセンサー 加算(Ⅰ)ではすべての居室への導入が必要
    インカム等 インカムやビジネス用のチャットツールなど、職員間の連絡調整を速くするICT機器 同じ時間帯に勤務するすべての介護職員が使うことが必要
    介護記録ソフト等 記録の作成を効率化するICT機器 データの入力から記録・保存・活用までを一体的に支援するものに限る

    加算(Ⅱ)(10単位/月)は1種類以上の導入で算定できます。加算(Ⅰ)(100単位/月)は、3種類すべての導入に加えて、加算(Ⅱ)のデータで成果が確認されていることや、職員間の役割分担の取り組みなどが必要です。

    令和8年度の介護報酬改定では、介護職員等処遇改善加算に、生産性向上や協働化に取り組む事業所向けの上乗せ区分が設けられました。その要件(令和8年度の特例要件)の選択肢には、施設サービス等では生産性向上推進体制加算の取得、訪問・通所サービス等ではケアプランデータ連携システムへの加入が含まれます(出典: 厚生労働省「令和8年度介護報酬改定について」)。単位数や要件は改定で変わるため、算定を検討するときは最新の通知をご確認ください。

    介護DXの進め方|4つのステップ

    進め方は、業務の棚卸し、取り組む領域と目標の決定、1フロアでの試行、定着と効果の確認という4つのステップが基本です。

    ステップ1 業務を棚卸しする

    1日の流れを時系列で書き出し、次のような業務を洗い出します。現場の職員に短い時間をもらい、付箋で書き出してもらうだけでも十分です。

    • 同じ情報を何度も書いている業務
    • 口頭で伝えていて記録に残らない業務
    • 人を探したり伝言したりするために移動している業務
    • 夜勤帯に1人にかかる負担が大きい業務
    • 新しい職員が覚えるのに時間がかかる業務

    ステップ2 取り組む領域と目標を決める

    洗い出した業務を負担の大きさと変えやすさで並べ、最初に取り組む領域を1つ選びます。あわせて、記録にかかる時間、残業時間、移動の回数など、導入前後で比べる指標を決めて、今の数字を測っておきます。生産性向上推進体制加算で提出する効果データ(総業務時間や超過勤務時間の変化など)も、指標を選ぶ参考になります。

    ステップ3 1フロアで試す

    選んだツールは、まず1つのフロアやユニットで試します。職員が無理なく使えるか、今の業務の流れに組み込めるか、利用者や家族から見て違和感がないか、困ったときの問い合わせ先が機能するかを確かめます。無償の試用期間があるツールなら、費用をかけずに現場の反応を確かめられます。

    ステップ4 定着させ、効果を確かめる

    使い方のルールを文書にまとめ、フロアのリーダーを中心に広げます。導入前に測った指標を定期的に比べて委員会などで振り返ると、次の領域に進むかどうかを判断しやすくなります。進め方に迷うときは、都道府県の介護生産性向上総合相談センターや、厚生労働省の「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」も参考になります。

    介護DXに使える補助金

    導入費用は都道府県の介護テクノロジー導入支援などで補える場合があり、領域を決めてから制度を探すのが基本です。

    制度 主な対象 確認先
    介護テクノロジー導入支援事業(地域医療介護総合確保基金) 重点分野の介護ロボット、介護ソフト・タブレット端末・インカムなどのICT、複数の機器を連動させるパッケージ型導入 所在地の都道府県の介護保険担当課
    補正予算による介護テクノロジーの定着・協働化等の支援 テクノロジーの導入と一体で行う業務改善支援、事業者グループでの協働化など 所在地の都道府県の介護保険担当課
    介護情報基盤の導入に係る助成 介護保険資格確認等WEBサービスを使うためのカードリーダーなど 介護情報基盤ポータル
    デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金) 中小企業・小規模事業者のITツールの導入(事務局に登録されたソフトウェア、クラウド利用料など) 中小機構 補助金活用ナビ
    市区町村などの独自の補助 自治体によって名称・対象が異なる 所在地の自治体

    介護テクノロジー導入支援事業は国の基金を財源に都道府県が実施する事業で、事業の名称や補助額、公募の時期は都道府県と年度によって異なります。これまでの要件には、業務改善計画の提出や、第三者による業務改善支援を受けることなどが含まれています(出典: 厚生労働省「介護テクノロジー導入・定着支援事業」)。交付の決定前に契約・購入したものを対象外とする制度もあるため、公募要領でいつから発注できるかを確かめてから進めると安心です。

    介護施設向けの補助金は介護ICT補助金の解説、デジタル化・AI導入補助金はデジタル化・AI導入補助金の解説で詳しく紹介しています。

    介護DXでつまずきやすいポイント

    つまずきの多くは、現場の声を聞かない導入、複数領域の同時着手、通信環境や運用ルールの準備不足から起こります。

    つまずき 起きやすいこと 対策
    現場の声を聞かずに決める 使いにくさが解消されず、定着しない 棚卸しの段階から現場の職員に加わってもらう
    複数の領域を同時に切り替える 覚えることが一度に増え、現場が混乱する 1つの領域が定着してから次に進む
    紙とデジタルの二重入力が残る かえって手間が増えたと感じられる 紙の様式をやめる時期を決め、入力項目を絞る
    Wi-Fiなどの通信環境が不十分 居室や廊下の奥で入力や通話ができない 試す前に電波の届き方を確かめ、必要なら整備する
    使い方のルールと相談先がない 職員ごとに使い方がばらつき、効果が出にくい 運用ルールを文書にし、困ったときの相談先を決める
    補助金に合わせて機器を選ぶ 課題に合わない機器が残る 課題から領域を決め、使える制度を後から探す

    新しい機器に慎重な声が出るのは、忙しいなかで手間が増えることへの不安から来ることもあり、自然なことです。普段から使い慣れたスマートフォンを使う、操作の説明を短く区切って行うといった工夫で、始めるときの負担を減らせます。

    よくある質問

    介護DXは小規模な事業所でも取り組めますか?

    取り組めます。人数が少ない分、話し合って決めやすく、1つの領域に絞って変化を確かめやすい面もあります。スマートフォンで使える記録や連絡のツールから始めると、設置工事なしで試せます。補助金の要件は事業所の種類や規模で異なるため、都道府県の窓口に早めに相談すると安心です。

    LIFEへの対応は必須ですか?

    LIFEへのデータ提出は、科学的介護推進体制加算など、LIFEを要件とする加算を算定する場合に必要になります。加算を算定しない場合に、提出が一律に義務づけられているわけではありません。記録が電子化されていれば提出の手間は小さくなり、フィードバックをケアの見直しにも使えます。

    訪問・通所の事業所では何から始めればよいですか?

    記録と、ケアマネジャーとのやりとりから考えると始めやすくなります。訪問先や送迎の合間にスマートフォンやタブレットで記録できるようにすると、事務所に戻ってからの転記が減ります。ケアプランをデータで交換するケアプランデータ連携システムは、令和8年度の処遇改善加算の特例要件の選択肢にもなっています。

    介護DXにはどれくらいの費用がかかりますか?

    取り組む領域と規模によって大きく変わります。スマートフォンで使うクラウドサービスには利用者数に応じた月額料金のものもあり、少人数で試せば初期費用を抑えられます。見守り機器やナースコールの更新は、機器の台数や工事の有無で費用が変わるため、補助金の対象になるかをあわせて確認すると計画を立てやすくなります。

    まとめ

    介護DXは、デジタル技術とデータを使って介護現場の仕事の進め方を見直し、職員の負担軽減とケアの質の向上を両立させる取り組みです。進めるうえで押さえておきたい点は次のとおりです。

    • 機器の導入は出発点で、データをケアや働き方の見直しにつなげるのが介護DX
    • 取り組む領域は記録・情報共有、見守り、ナースコール、職員間の連絡の4つ
    • LIFE、介護情報基盤、生産性向上推進体制加算の動きを踏まえて準備する
    • 棚卸しから領域を1つに絞り、1フロアで試してから広げる
    • 補助金は都道府県の公募要領で、要件と発注できる時期を確かめる

    何から始めるか迷ったときは、職員の皆さんと一緒に、1日の中で記録・申し送り・呼び出しにかかっている時間を書き出してみてください。毎日くり返している手間の中に、デジタルで軽くできる業務が見つかるはずです。

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